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【短編】ふかい

 春だか夏だか秋だか冬だか知らないけど、天気は暑く成ったり寒く成ったり鬱陶しい。私にはすべてを包み込む丸く温かい日差しも、焦がし尽くそうと刺す日差しも、頭上から絶え間なく落ち続けるあの水滴たちも、何がしたいのか理解出来ない。理解したくもない。どうしてずっと同じ場所に在り続けているのに、そこまで変化するのか?何故この世界には、変わらないもの、というものが存在しないのだろうか?

 はっ、と届きもしない癖に悪態をつく。仰ぎ見る空はいつだって表情が異なっていて、そのことが私を更に苛立せる。身を包む空気はじめじめと湿気を含んで、呼吸するたびに生暖かいそれが行き交うのを感じる。体を一つ動かすごとにそれは纏わりついて、じっとりと私の後をついて回るのだ。

 鬱陶しい。この世界全てが、存在が、移ろいゆくものたちがみんなみんな、堪らなく不快だ。

いつだって変わらずに、私に愛を囁いて、その胸に私の全てを預けたはずの彼は、どこへ行ったのだろう?刻一刻と変わっていく時の中で、彼だけはずっと、私の中で変わらずに私を愛し続けていたのに。

残ったのは彼に私を捧げて出来た空白。愛は質量を持っていたのだろう、身体が抜け殻になったみたい。殻は湿った空気を吸って醜くふやけていた。

 初めての、愛だった。

真っ直ぐ前を向いているはずなのに、脳にこびりついてしまった映像が今でも眼前で再生されている。彼が、私じゃない女と体を寄せ合って、夜のネオンへと消えていく、あの見たことのない笑みを。妖しい光に照らされた彼はこれまでにない表情をしていて、吐きたくなるくらいに綺麗だった。

「一緒に居て、つまんないんだよ、お前は」


──私が、傷ついている?まさか。

 そう思う心だけが酷く冷静で、身体中のすべてが彼を欲し続ける。愛に気付いてしまった時既に、私は変わってしまっていたというのに。

変わらない彼を愛した私は、いつの間にか変わってしまっていた。
変わらないものなど、この世に存在しない。

それをまざまざと突き付けられた私は、どうすることもできなくてわんわん喚いて泣いていた。

めっちゃ喜ぶのでよろしくお願します。すればするほど、図に乗ってきっといい文を書きます。未来への投資だと思って、何卒……!!