大学生が考える未来の設計図
大学の課題でふとこんなものが出された。
新型コロナ収束後、世の中の人々に富が平等に行き渡るための事業提案をしてください。
これは直感的に面白い課題だなと思った。アダム・スミスによって提唱された資本主義は現在ほとんどの国が採用している市場原理である。見えざる手による市場の調整機能により、資本は再分配され、競争原理により国は豊になると考えられてきた。
たしかに、成長至上主義経済において国は豊かになったと考えられる。日本は高度経済成長を経験し、敗戦国のレッテルから一躍して世界のトップの座とは言わずとも、グローバル経済に大きな影響を与えてきた。お隣の中国も社会主義から市場原理を導入した結果、想像を逸脱する成長を遂げた。
制度も進み、餓死はなくなり、教育や医療は誰でも受けられるようになった。今当たり前に享受できているものは、100年も戻れば、ごく一部の人しか享受できない特別なものだった。これは、先人たちの努力のたまものであり、資本主義の結果であるだろう。
しかし、こんなにも多くのものを享受しているはずなのに不安感は募るばかりだ。気候変動や自然破壊などの環境負荷による災害の増加、リーマンショックなどを代表する金融危機、AIなどのテクノロジーによる技術不信、良くなる兆しの見えない景気、働きすぎやいじめによる自殺の増加。
そしてとどめはコロナウイルスだった。永遠と鳴り響く「自宅待機」の呼びかけ、アルバイトや派遣社員は切り捨てられ、飲食店を代表とするサービス産業は廃業を余儀なくされている。今までなんとか保っていた社会システムも資本主義のゆがみが新型コロナにより、はっきりとその正体を表し、そのシステムが崩れる音がする。この世界は衰退に向かうのだろうか、それとももう一度這い上がれるのだろうか。
資本主義の限界に近づきつつあり、変化が問われる今、せっかくだから資本分配だけでなく新たな時代の戦略を一人の大学生が考えてもいいと思って筆をとった。
ということで課題ついでに自身がもつ知識を総動員して、未来の戦略を描いてみた。浅い点や根拠のない部分も多いかもしれないがご容赦願いたい。
世界の現状
新型コロナ収束後の世界、持続可能な誰一人取り残されない未来を描くために何が必用だろうか。まずは現状を考えてみる。
コロナ以前、資本主義の原理から東京への一極集中は勢いの衰えを見せなかった。技術や人材、娯楽は全て東京に集まっていた。今では考えられない3密の条件を兼ね備えたのが東京という訳だ。
仕事としては、サービス産業、ものづくり産業が中心に大打撃を受けている。外国人の入国規制、人の移動減少による旅行、ホテル、飲食の売り上げ減少、自動車などの工場のストップ、それによる広告の減少など業界へのダメージは計り知れない。
これによって、ますます給料の減少や人員削減などの影響が懸念される。しばらくの間は、日本に厳格な法律により、労働者の雇用は保たれるかもしれないが、対策を打たないままでは、会社も労働者ももたないのは火を見るよりも明らかである。それに対して日本政府としてもかなりの対策をしている。国民に10万円の総支給や、会社に対しての保証、日銀の株価の暴落対策や国債の上限なき購入検討など、かなりのドーピングをして現状としてぎりぎり耐えられている状況である。
働きかたはすでに大きな転換を迎えている。リモートワークはすでに当たり前の働き方として定着しつつある。急なデジタルへの転換に情報弱者も適応しつつあるようにも感じる。さらには、リモートワークによりアウトプットの成果がより見える化し、仕事をしている風だった人が淘汰される可能性がある。
流通にも支障が出始めている。ご存知のようにマスクや衛生用品は供給が追い付いていない。パスタなどの保存がきく商品も需要が急に増えたようだ。店の棚から姿を消しつつある。ただ、これだけのショックを受けても食材などの重要な品が消えないのはシステムがうまく機能しているのだろう。素直にすごいと思う。
現状の動きとしてはこんなとこだろうか。コロナウイルスと長くつきあう、そして社会課題と照らし合わせて理想の社会を考えていきたい。
地方分散型社会への流れ
地方の人口減少、限界集落が全国的な問題となり、地方創生が叫ばれている中、コロナ時代において最も適した形が地方分散型社会である。 コロナウイルスにより、3密が叫ばれている中一極集中型社会は大きな弊害を被る。田舎と比較したとき外に出たときの感染リスクは比較にならないだろう。さらには、不況の中高い家賃を払うことができずに、郊外に出るもしくは、地元に帰省するような人も増えるだろう。人的移動のメリットが大きかった都市型社会において、それが制限され、さらにはリモートワークの普及によりどこにいても仕事ができるようになった現状では、都会にいるメリットは限りなく少なくなっている。
地方へのメリットが高まりつつある今、地方創生に向けて新たなシステムを築く必要がある。分野ごとに少し考えていく。
エネルギー(専門なので少し詳しくまとめる)
再生可能エネルギーは都市型と真逆の構図をしている。基本的に土地が必用であり、安い土地を求めて田舎に作られる。作物と一緒で再生可能エネルギーも地方によってかなり特性の差がでる。海側であれば風力発電、日照率が高いとこであれば、太陽光発電が山間地では小水力発電などが有効だろう。
大量生産でコストを下げていく資本主義では、エネルギーは大型化をせざるを得なかった。その典型が火力発電や原子力発電などによる一極集中型の発電だった。つまり世界各国から集めた石炭やウランなどを都心から少し離れた場所で局地的に大量発電して、それを都心に送電するというやり方だ。再生可能エネルギーでさえもその実態は、山を切り開き、大量のソーラーパネルで売電収入を得るような非持続可能なやり方が後を絶たない。
地方モデルのエネルギーはすでにある。地方の銀行や市民が出資し、その経済圏で未活用の土地を使ったソーラー発電や、小水力発電、バイオマスなどの形はコストの面で進んでいなかった側面があるが、それも状況が変わりつつある。再エネは研究開発が進み、コストダウンが進みつつあること。地方型だと送電にかかるコストが縮小されると予想されること。管理や生産などを通して雇用なども広がることが期待される。
たしかに稼げる大量生産が難しいという面で稼げるビジネスモデルかどうかという点では疑問が残るが、気候変動やエネルギー自給率の低さから考えても、行政などとも協力して進める価値が十分にあるモデルであることは間違いない。
さらにそれの一歩先にスマートハウスのような形が大きな役割を担うだろう。私のいうスマートハウスとは自給自足型のエネルギー社会である。太陽光パネルの価格低下で家庭の屋根につけるソーラーパネルがもとを十分に取れるようになる時代がそう遠くないうちに訪れるだろう。そこに日本が推進している水素型社会や断熱性の高い仕組みを導入していけば、基本的に一家のエネルギーは自分で作るということが起きていく。それもクリーンな形で。気候変動におけるエネルギー部門のCO2排出量は大部分を占める。エネルギーチェンジにおいて地域が主導していくことは大変重要である。
農業
機械を導入し、大量農薬をまき、画一的な食物を生産する。アメリカのようなこのスタイルは世界の食料需要を満たすためには、重要なのかもしれないが、一方で農家や畜産農家が愛を込めて作った食物のストーリーが重要になりつつあるようにも感じる。
どうやら農家の後継者不足は大変深刻な問題となっているらしい。加えて、先進国でも最低の食料自給率は、コロナによるナショナリズムが危惧される中でかなり危うい状況であると感じる。
スマート農業、アグリテックと言われる技術が出始めている。これは大いに歓迎すべきことだと思う。日本のような限られた土地で、最大の生産性を生むには技術の利用は必要不可欠だろう。
加えて農業はかなり専門的であるうえに、初期コストが膨大にかかる。先代から土地や技術を引き継るならよいが、そうでない場合は急激に農業へのハードルがあがる。技術や法、行政の支援などを加えて、誰でも農業がやりやすい仕組みを整えていけば、地方への魅力がさらに広がると考える。
また、農業は根源的な意味で”生きる感覚”を与えるようなものだと思ってる。人類は歴史上の長い間、採集や狩り最後には農業を営むことで繁栄してきた。現代の私たちにもそうやって生きてきた遺伝子が確実に残っている。森に出れば、その美しさや鳥の鳴き声、皮のせせらぎに耳を寄せるし、農を営めば、汗をかき泥にまみれながらも何故か不快感はない。
農業にはある意味で娯楽のような要素が残っていると思う。現代の受け身な娯楽と比較して、よりクリエイティブな生産的な娯楽としての農業がある。家庭菜園か、近くの農家へのバイトのような形になるか分からないが、コミュニティやエンタメとしての役割も期待される。そして、それは地方だからこそ実践しやすいことだと思う。
機械、AI分野
工学部に所属する私としては、機械がいかに人類と共存するかというのは一つの重要な課題である。西洋的な観点だとAIvs人類のような捉え方で、AIに支配されないように人類がコントロールするというような見方が強いようにも感じるが、ドラえもんのように人類とAIが共存する形は実現すると思う。
今テクノロジーで注目されているのが5GやAI技術だと考えているが、特に特筆すべきは自動運転技術だろう。
とにかく、田舎のインフラは不便である。東京なら深夜まで電車はあるし、時刻表など見ずとも来た電車に乗ればいい。田舎はそういう訳にはいかない。電車に乗り遅れでもしたら、1時間待ちなどざらにある。しかも、最終が22時とかで、最寄のバス停や駅から歩いたら30分とかかかる人も珍しくはない。老人は車がないと病院やスーパーに行くこともままにならない。タクシーなんて使ったら下手したら1万円近くかかってしまう。
自動運転はその田舎の在り方を根本的に覆すだろう。もとより車社会の地域社会では、ソーシャルディスタンスをとるのにも多いな役割があるし、車による事故死も大幅に減ることが期待される。田舎に存在していた不便さというデメリットがかなりなくなると考えられる。
AIはあらゆる仕事を効率化してくれることを期待されているが、その一方でAIが人の仕事を奪うことが懸念されている。実際のところ、コンビニの自動決済や駅の自動改札などを代表にすでにAIや機械が人の職業を奪いつつある。
AIの台頭は悪い意味で使われる場合が多いような気もするが、これは人口減少社会の日本では大きな役割を担うと考えている。とにかく単一労働は全てAIが代替するようになるだろう。人はよりクリエイティブなもの、マネジメント、コミュニケーションなどの分野に仕事が移行していくだろう。逆に言えば、その分野に行けなかった人たちが失業で溢れる危険性は考えられる。
そういう人こそ農業や林業に進めばいいと本気で考えている。全人類農業時代の到来だ。しかし、そうはいえ、AIなどの到来により格差や生きがいの喪失があっては、導入する価値がない。社会的なシステムの再構築が必用である。
政治、経済分野
資本主義社会によって生まれた格差を是正する意味では、ベーシックインカムの導入が最適だと考える。憲法にもあるように必用最低限度の生活は保障されなければならない。一人当たり月10万円程度保障されれば、かなり生活の在り方が変わるだろう。その10万円を使って特に仕事はせず、ゆったりとした時間を過ごす人もいれば、保障された10万円を使って起業や新たなチャレンジにお金を使う余裕が出てくる。
もちろん多大な財源が必用になるので、どのように確保するかは重要な議論になるだろう。コロナの影響もあるので、人と会う価値は極めて高価値になると考える。ウィズコロナを考えたら人と会う価値が高くなることは必然であり、そこに税金がかかっても悪くないと思う。同様に外食や受け身な娯楽(ディズニーランドなど)も高価値になるだろう。
資本主義の原理を残すなら、高所得者から税金をどれだけおさめてもらうかのバランスが重要にはなると思う。競争の意思が失うほどに搾取することは逆効果であるし、かといって再分配が行われないと格差がますます広がるばかりなので、そのバランスは見極めないといけない。
ただし、今までとは違いAIが様々な価値を生み出すことを考えると、単純に高所得者が高い税金を納めるということも考えにくい。平等と同様に競争をいかに組み込むかも重要な観点だろう。
ただ、ここで気を付けないといけないのはホームレスなどの社会の仕組みから排除されている人たちである。社会の仕組みを整えても、社会の恩恵にあずかれない人が今後ますます増加する可能性がある。行政は、自分たちがそういう支援をできないのなら民間などの支援団体への協力を惜しまず行わなけなければならない。
経済の動きはますますESG(環境、社会、ガバナンス)が意識されるだろう。物質的な豊かさが満たされた現代では、より生きがいや未来のことに意識が向く。というよりそうでなければならない。どれだけビジネス性があっても社会を悪くするようなビジネスでは、投資の動きは鈍るだろう。持続可能性がますます意識されたお金の循環を生み出す必要がある。
教育
これまでの画一的な教育から今はアクティブラーニングというものが導入されているようだ。つまり、ただ授業を聞くだけの受け身な形からグループワークやディスカッションを重視した教育に変わりつつある。
AI時代、地域共生型時代の教育はより道徳やクリエイティブな考え方ができる人材が必用なのではないか。与えられたテーマを議論するアクティブラーニングからより哲学的な思考。なぜ生きるのか。なぜ勉強するのか。などそもそもの世界を問いただし、その中から考えたり道徳のようなものを学ぶことが重要であると考える。
そうであれば、なぜ環境を守ることが大事なのか。人権はどうして重要視されているのか。それぞれの関心が築きあげられ、未来をリードするリーダーが生まれるように思う。
その他にも医療や宇宙、核兵器の在り方など考えるべきことはいろいろあるだろうが、個人的な描く未来の概略はここまでとする。
とりあえずのところ、SDGsという国連が定めた分かりやすい目標があるので、それをもとに戦略を組むのが一番手っ取り早いような気もする。
個人としては、地域社会でこれまでの人生を築いてきたのでなんとか、コロナを乗り越えた世界の先に地方が輝ける未来があってほしいと願っている。
考察も考えもまだまだ程度が低いが、未来は悪いことばかりではないと多くの人が気づくきっかけとなる文章が書けていたら幸いである。
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