たばこドラゴン

1キル1デス 週一更新 ひとつよろしく

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その顔が誰であっても

こんばんは。 俺が幼少期を過ごしたのは変な町だった。 俺の家があったエリアには生活に必要な道具を買い出す施設が一切と言っていいほどになく、巨大な一軒家が立ち並ぶ中に歯医者や交番、郵便局が点在している程度だった。 唯一コンビニが1軒あったが、当時のコンビニは今ほどユースフルな存在ではなかった上、我が母も今より自然派に傾倒した存在だった。そのため、おつかいを頼まれた俺は近所の農家(!?)に野菜を買いに行き、自転車で数キロ離れたスーパーに肉を買いに行ったものだ。そしてそのコンビニ

    • 欲しいものはここにある

      年末はずっと誰かが傍にいたが、大みそかだけは一人になった。 ここ数年、「現実」の重みを感じさせられることが多かったが、それでも年末は穏やかな気持ちになるものだ。今年も例に漏れずそうである。 序盤はなかなか足を引っ張られるイベントがあったものの、そこからは加速度的に良くなっていった気がする。 コロナウイルスに侵された数日もあったが、5月の森道市場にはまた行きたいし、夏にほぼ毎週バーベキューをやったのも楽しかった。 秋には友達の結婚式に参列出来て、noteも始めた。毎週更新は削

      • 月面歩行

        バナナを食するベストタイミングは、果肉が腐る直前である。 買ったばかりの固い状態では青臭い。さりとて腐りきってしまっては元も子もない。 実家ではバナナの熟し具合の観察に尋常ならざる情熱を注いでいた祖母によってバナナをかけておくためだけにハンガーが特製されており、毎朝バナナに熱い目線を注ぐ祖母を視界の端に育った俺もまた、食べごろとそうでないものを一瞥するだけで判別できるようになった。 果物を買うことも少ない一人暮らしにおいては全くと言っていいほど役に立っていないスキルである。

        • おめでとうの出

          初めて口喧嘩に勝利したのは3歳のことである。 幼稚園の入園式に向かう道中で、2つ年上の兄から「いよいよ〇〇も入学式だね!」と声をかけられたときに「幼稚園だから入園式でしょ?」と反論した。おそらく人格否定のターンまで行った気がする。父母はドン引きしていて、兄は泣いていた。 そんなことだから、俺は生来の気質として口が立つ上に口が悪い。 口は災いの元、というか俺自体が災いと言って差し支えなかった。 とはいっても、それを活かして大成できるほどの才覚はない。ラップが好きだったことも

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        その顔が誰であっても

          2021年の手稿を元に

          二列シートの特急で樟葉に向かう。 Hello againを聴いている。あの頃はどんな曲を聞いていたかあまり思い出せない。車窓からは田舎の町という感じを受ける。俺の地元を散々コケにしていた割に似たようなものだった。 初めて降りた駅のクリーム色の壁が、東京の駅より低めの天井が、すれ違う人の訛りが、俺の知らない場所に来たことを強く感じさせた。 「伏見稲荷は学校から割と近かったんですよ、帰る時にはよく寄ってました。」という、いつ聞いたかも定かではない言葉を、階段を降りながら思い出し

          2021年の手稿を元に

          手向けたろか彼岸花

          両親の離婚に伴って母方の実家に転居し、週に6日入っていた習い事の予定が全て消え失せた8歳の俺はこの世の春を謳歌していた。 当時の俺にとってはいかに効率よく家に帰りDSの電源を入れられるかが一日において何よりも優先するべき事項であったのだが、学校から帰るなり脇目も振らずゲームに心血を注ぐ孫を心配した祖母に自らが通う華道教室へ連れ出されるようになった。 元々植物を愛でることはどちらかといえば好きな方だったが、スライムもりもりドラゴンクエスト2 大戦車としっぽ団 を放り出してまで

          手向けたろか彼岸花

          炎の涯に

          11月も半ばになる。潤いを孕んだ秋風が過ぎゆき、そろそろ乾いた寒さが鼻腔に届くようになってきた。東京で生活していてもそれは例外ではない。 この時期になってくると持病のアトピー性皮膚炎が顔をのぞかせてくる。 肌の弱い母親の家系の影響で、俺も生まれつき肌の弱い子どもであった。 昔はちょっとした環境の変化ですぐに全身に反応が出ていた。 肘やひざ裏に違和感を覚えるやいなや、まさに燃え上がるかのような勢いで炎症が広がる。掻いても掻いても深層に届いている感覚はなく、体の内から滲みだして

          何年経っても迎えに行くから

          子どもの頃に読んだ本を覚えている。 『トゥートとパドル ふたりのすてきな12か月』という、子豚のトゥートとパドルが主人公の絵本だ。性格はまるっきり反対なれど仲のいい二人だったが、ある日トゥートが突然旅に出ることを決め、パドルは「ぼくはいかない」と家に残る。物語は二人の手紙のやり取りを通じて描かれていく。 幼稚園の同級生に外遊びに誘われた時、「やめとく」と固辞するのがお決まりであった幼い俺は、旅先で見たもの感じたことを衒いなく送ってくるトゥートよりも、馴染み深い家の周囲で起

          何年経っても迎えに行くから

          正体見たり

          2010年7月のある日、M市は局地的な豪雨に見舞われた。 雨粒がばちゃばちゃと容赦なく振り付け、空と大地を繋がんばかりであった。 我が家の駐車場にもあっという間に水が湛えられ、夏の乾いた風に運ばれてきた土ぼこりを洗い流していった。片隅で傘を差しながらしゃがみ込み、雨粒が跳ねる様をじっと見つめる人影があった。たばこドラゴン、14歳である。 駅前のCDショップに凛として時雨の新譜を買いに行こうと意気込んで家を出たものの、バスを待っている間に降り出した雨の勢いに興を削がれ、すごす

          かたち

          少年の父親の実家は埼玉県の山奥にあった。 祖父母が板金工場を営んでいたので、職人や在住のお手伝いの老婆が頻繁に出入りしていた。少年はそのうちの一人である、下の歯と上の歯が2本ずつしかない職人のおじさんによく遊んでもらっていた。 工場の中にブランコを作ってくれたり、コンプレッサーで砂ぼこりを吹き飛ばして遊んだり、ちょっとした力士くらいの大きさのドラム缶を転がしたりぶっ叩いて大きな音を出したりしていた。おじさんの作業服にしみついた煙草の匂いが好きだった。 工場の裏手には祖父が道

          屁という名の

          こんばんは。 たばこドラゴンという名は、たばこもドラゴンも好きだしかっこいいのでくっつけて決めた名前です。去年スプラトゥーン3を始める時に考えたのですが、丸一年使い続けて気に入ったのでnoteもこの名前で続けていこうと思います。 ここ一年ほど、会社の同期と大学の友達の数名を集めて作ったDiscordサーバーのメンバーとゲームをしています。みんなゲームをやっている時は俺のことを本名ではなく「たばドラ」と呼ぶようになりました。「たばドラナイス!」とか「たばドラのとこ飛べる?」

          君に薔薇薔薇…という感じ

          2年前、友達と旅行に行った時のこと。 登山サークルだった俺たちだが、山の中にテント張って……というアレをしにいったわけではない。数年やってみればわかるが、そんなにいいもんじゃない。正確に言うならば、いいものではあるけれどアレを一緒にできる人となら結局どこに行っても何をしても楽しいのだ。 長野にサークルの別荘がある。 過去のOBたちがカンパで建ててくれたものらしい。 とんでもない行動力だ。ありがてえ。 釣り堀で鮎を釣り、温泉に入り、高原を歩き、牧場で遊んだ。 夜には酒を飲

          君に薔薇薔薇…という感じ

          月曜までに共有します

          こんばんは。 ダダサバイバーというクソなスマホゲームのせいで完全に土日をつぶしました。 こうなってくると人間なかなか焦ってくるものでございまして、刻々と近づいてくる月曜日の陰におびえながらこの文章を書いています。 小学生の頃に町田のアニメイト前の通りをシャーマンキングの単行本を読みながら歩いていたら通りすがりのヤンキーに「これ要る?」とAVを手渡されそうになった時以来の緊張感です。 あるいは中学生の頃に鬼混みの電車の中で「”邪魔”なんだよ……」と女子高生にすごまれた時以

          月曜までに共有します

          季節もされど僕も青い

          こんばんは。 今年のうまトマハンバーグが終売して数週間が経つ。 うまトマの強火オタクである春とヒコーキの土岡氏が出演しているバキ童チャンネルを猛烈に視聴している影響で、いつも見過ごしていた夏の欠片を今年は追いかけることができた。 販売期間中に4回くらい食べた。 冷笑主義ネット民のメンタルを持っている俺は、"うま"を食べ物の名前に背負わすってことは尋常ならざる覚悟と実力が前提だよな?というイヤなスタンスで実食に臨んだところ、一口目から食らわされた。食ったのは俺だけど。 ト

          季節もされど僕も青い

          矩を超えて

          (去年上げるか迷って、一部直して上げました) 俺の職場はコロナウイルス感染拡大の影響を受けている。 医療現場のそれとは比べるべくもないが、社員から濃厚接触者になったことや検査で陽性反応が出たという報告が部署の担当者である俺の元へ昼夜を問わず相次いで届いている。 もともと盛んに飲み会を開催していた業界なだけあって、3週間くらい前まではあらゆる部署で歓迎会やら交流会やら取引先との会食がおこなわれていた。 世情的にもそんな感じだったと思う。 なので、ある程度仕方のないことだ

          シャチが好き

          こんばんは。 突然だが、俺はシャチが好きだ。 この書き出しを世に放てるということからして既に素晴らしい。 考えてみてほしい。俺がシャチを好いているという、この世を懸命に生きている人たちにとって尻の間に生えている産毛よりもどうでもいい情報を少なくともこれを読んでくれているあなたにお届けすることができたのだ。インターネット、およびnoteには感謝しきれない。 冒頭からキモすぎた。俺はシャチが好きだ。 ここにおけるシャチというのは何らかの比喩でなく、あだ名でなく、俗称でなく、一