青写真と赤写真|掌編小説(#シロクマ文芸部)
――青写真が撮れたら注意しろ。
あるSNSの、煽り感たっぷりの見出しに、「はいはい」と半ば呆れながらもクリックする。
「デジカメで写真を撮って、全体的に青っぽくなった時は要注意。ある種の『念』を拾っちゃってるから、すぐにお祓いした方がいい」
その下には「へーそうなんだー」や「そんなワケねーだろ」や「ホワイトバランスの失敗、もしくはCCDイメージセンサの不具合です」などと、どこぞの暇人達のコメントが延々と続いている。
その中で、あるコメントに目が留まった。
「写真が赤くなるのが、一番危険だと聞きました。撮影者も写っている人も、近日中に全員死ぬみたいです」
――そう言えば……。
大学時代に「写真を撮られるのも、見るのも大嫌い」という奴がいて、飲み会の席で、写真嫌いの理由を聞いたことがある。
「写真っていうのは、俺達が思っている以上にいろんなものが写っちまう。心霊写真なんて可愛いもんだ。怖いのは、写真全体が黄色っぽくなったり、緑っぽくなったりすること。特に、青と赤はやべぇ。青は怨みで、赤は呪いだから」
確かそう言っていた。
――村田……。
2週間前、事故で死んだ同僚の村田を思い出した。
「なんかさぁ、撮った写真がやたらと赤いんだよね。やっぱり安いデジカメはダメなのかなぁ」
村田はそう言いながら、会社のパソコンで写真を見ていた。日曜日に家族でキャンプに行った時の写真だ。
「そうか? よく撮れてるんじゃない?」
俺が見た時は、普通の写真だったと思う。いや、絶対に普通の写真だった。赤なんて、全然入っていなかったはず。
急いで村田のパソコンを立ち上げ、写真フォルダを探す。
「5月7日・キャンプ」
――これだ!
写真がサムネイルで並んでいて、適当にダブルクリックする。
――うわ!!
俺は大声を上げて後ろに飛び退いた。
血が飛び散ったような赤い斑点が写真内を埋め尽くしている。もう何が写っているのか分からない。
「おい! どうした!?」
同僚が駆け付ける。
「あれ……あれ……」
俺はパソコンのモニターを指差した。
「ああ、村田さんの写真か。ショックだよな……。とにかく落ち着けよ」
「いや、そうじゃなくて……」
言いたいことがたくさんあるのに、まるで何かに阻まれているように言葉が出ない。
「大変だよなぁ。娘さん、まだ高校生だもんなぁ」
同僚が写真を見ながらそう言う。多分、俺とは見ているもの――見えているものが違う。
写真の中の血の斑点は、シミのように広がっていく。
驚きながら、動揺しながら、理解した。
――俺は死ぬ。
と。
(了)
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