「居場所の喪失」
紅顔の哲学者を目指して#15
2024年5月5日(日)
昨日は正直何が起こったのか分からなかった。1日経ったいまでもよくわからない。嘘なのか本当なのかよくわからない。
今日も本屋でバイトの日だった。
昨日と同じように働いた。
ただ、今日はなんというか物語の世界に放り込まれて自分は本屋で働くという役割を与えられたような、周りは動いているのにそして僕もいつも通り働いているのに心の中のもう一人の自分がそれを操作しているような、自分だけ静止して動いていないような。世界が突然止まったような。とりあえず、昨日のあの一言で世界の流れている方向が急に変わった気がした。
何を言っているのか分からないだろうが、とにかくいまだに状況が読み込めない。
僕が今生きているこの世界は現実なのか虚構なのかそこまで疑ってしまった。
昨日はいつも通り出勤して、バックヤードで制服に着替え、レジがある方まで向かった。
いつもと何ら変わらない、土曜日。天気も良くて平穏な日。世の中はゴールデンウィークだ。
レジに入ると、朝番の主婦の方といつものようにおはようございますと挨拶する。
それから連絡事項があるので確認をする。
横で確認作業をしていると、店長がレジの方まで近づいてくるのが分かった。なんだろうと思って店長の方を向くと、「〇〇くんちょっといい?」といって、話があるから事務所まで来てほしいと言われた。なんだろう。
僕は少しまずいなと思った。
なぜかというと、最近精神的に不安定な状態が続いていてかなりお休みをいただくことが多かった上に、遅刻することも多かったからだ。事務所まで歩いて行く店長の後をついていきながらふとそう思った。
そして事務所に入ると店長は二つ並んだ机の左側にいつものように座った。立っている僕に隣の席に座ってと促した。
座りながらこの優しい店長からとうとう怒られる日が来るかと思った。
しかし、話し始める前の店長の顔を見ると全然これから説教話をする人の顔をしていない。これは怒られるわけじゃないのだなと僕は確信した。
だが、逆になんの話をされるのかますます分からなくなり、そわそわしてきた。それに店長の方から張り詰めたような緊張感のある不穏な空気を感じた。
そして、近くにある卓上カレンダーを手に取った。
僕はなぜカレンダーなのだろうと不思議に思った。
そして少し溜めてから彼女はこう言った。
「あゆみBOOKS 平和台店は6月12日に閉店することになりました。」
いきなり頭をどつかれた。
見知らぬ人に見えない拳でどこかわからぬところから打撃をくらった。
それは物理的にではなく、心へくる衝撃だった。
僕の心臓は心拍数をあげだした。
「…」
少し短めの沈黙が二人の間にあったような気がする。
それから僕は、
「え、そうなんですか」または、「え、閉店するんですか」
とかなんとか言ったような気がする。正直なんと言ったのか覚えていない。頭が真っ白すぎて。
正直あの場でしゃべらないことが許されたのであれば、そのまま長いこと沈黙し続けたことだろう。本当はそうしたかった。
でも、何か返さないと、何か喋らないとと思ったから、とりあえずその言われた事実を承認するような言葉を発した。正直何も返答したくなかった。訳が分からなかったから。
それから、閉店するということに加えていつお客さんに伝えるかや予約や客注の受付はいつまでとか閉店までの流れなどを伝えられた。
頑張って聞こうと努めたが、言われたことがほとんど頭に入ってこなかった。何度か聞き返してしまった。
話が終わると僕は黙って少し重い空気の中、事務所を出てレジに戻った。
正直あのまま家に帰りたかった。
そして、色々と頭の中を整理する必要があったと思う。そんなパッと飲み込んで、はいそうですかと済ませることのできる事柄ではない。
もちろん帰るわけにはいかないので、ちゃんとレジの仕事をした。
僕のシフトは12時半からで主婦の人は13時に終わる。30分だけレジに2人いることになるのだけれども、13時になったらレジを1人でやらなくてはいけない。
13時になり主婦の方はパソコンでタイムカードの退勤ボタンを押し、お互いにお疲れ様でしたと言い、レジは僕1人だけになった。
1人で黙々と接客をしてたが、自分がどこにいるのか何をしているのか全く分からないような気分だった。
それに加えて精神疾患の症状も良くなっていなかったから、昨日は最悪だった。
家に帰ってからも親にそのことを言えず、1人で抱え込んでしまった。1人で抱え込むのは良くないかもしれないが、その時はそうするしかなかった。
誰かに打ち明ける代わりにすぐにでもこの気持ちを文章にして吐き出してしまいたかった。もちろんそれを書いたら投稿するだろうが、それよりも自分の気持ちを客観的に視覚化して眺めたかったのだと思う。
だか、それはなされなかった。気分の問題もあるかもしれないが、書く気にはなれなかった。
正直これを読んでいるほとんどの人が大袈裟すぎるとか所詮はバイトなんだからとか、また新しいバイトを探せばいいと言うのかもしれないが、僕のこのお店に対する思いはそんな軽いものではない。
昨日お店が閉店するという事実を聞いた後、もちろん無職になってしまうという不安もなくはなかったが間違いなく僕の頭の中のほとんどを占めていたのは3年間働き続けたこのお店が閉店してしまうという事実のみだった。
今日もいつも通りの仕事をしたが、僕の頭の中はここがなくなるという喪失感でいっぱいだった。
レジから眺めているいつもと変わらぬ景色も間違いなく普段とは違って見えた。
本当にこの気持ちをどうすればいいのかわからない。
今日の日記でこのお店との思い出とか色々書こうとも思ったが、長くなってしまうというのもあるし、まだそう言った事柄を書く気分ではなくて、とりあえず理解が追いついていない状態であるということだけを書きたかった。
誰かに話したわけではないけれども、文章にしたおかげでとてもスッキリした。
明日も日記を書こうと思うがしばらくはこの話題が続きそうだ。
とりあえず今日はこの辺で終わりにしようと思う。
じゃあね。
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