パフィン

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煙たなびく湾 1

これは、僕が箱庭の世界を拡張するために、アイスランドを一人で旅した物語である。 僕は一人旅の時は旅行ノートをつける習慣があり 、誰にも見せるあてのない正直な気持ちを一眼レフの写真とともに記録していた。 今回はこのノートを参照しながら少し客観的に、彼の考察を含めながら書いていきたいと思う。 なぜアイスランドか ダンサーインザダークという映画をご存知だろうか。後味の悪い映画ランキングなどで必ずと言っていいほどランクインする、人間の業と親子の愛を強烈に描いた作品だ。 この映

    • DIVE to BLUE 2

      短時間の眠りから覚めると、僕は相変わらず病室のベッドの上にいた。 淡い黄色の室内、ベッドをまたぐように置かれている食事台、歯ブラシ。 テレビはつけっぱなしで、騒がしくCMを流していた。何かの家電製品を宣伝したあと、富士通のロゴが映し出される。 そこで僕はゾッとした。 おかしい。いつものロゴじゃない。 一体何が起きているのか分からない。 なぜ、ロゴを微妙に変えるなんてことをするんだろう? その後の番組も、いくつかの点でホンモノではないような気がした。 そういえばこの部屋も

      • DIVE to BLUE

        僕は基本的に体が弱い。 今現在も、風邪をひいて内科クリニックの待合室でこれを書いている。 僕は小学生の頃から、体中に世界地図が描かれるような発疹がしばしば出て、年に一回のペースで入院することさえあった。 この話は小学6年生の頃、入院した病院で遭遇した不思議な体験を記録したものである。 この時は、部屋の空き状況のせいか僕には個室が割り当てられた。 幼い僕にも料金が高いということは分かっていたが、おじいちゃんだらけの相部屋よりも、個室は少しだけ快適だった。 いや、もしかする

        • 蒋先生と僕 3

          寒風巻き立つ上野駅、僕はいつも通りに自転車を駆って、人混みをかき分けながら学校へたどり着いた。 ついに最後の授業の日がやってきた。 僕の世界の外側にある、はるか遠くの不思議の国から来た姫のような先生は、今日も優しく聡明だった。 僕は先生に教わっていることを誇りに思うほどだった。 気合いを入れて少し学習した後、先生は照れくさそうに最後のあいさつをはじめて、これが私の連絡先です。と黒板にメールアドレスを書きはじめた。 僕は目を輝かせながら、かつ輝いていることを誰にも知られま

        煙たなびく湾 1

          蒋先生と僕 2

          先生は烏魯木斉(ウルムチ)の出身で、西安にある大学を出たと言っていた。エキゾチックな雰囲気はそのためだったのかもしれない。 ウルムチと言えば新疆ウイグル自治区で、色々な政情で話題になっている場所だった。 そして西安はウルムチから2,500㎞も離れている。(もちろん、日本はそれ以上に離れている。) これまでの人生できっと色々な苦労があったんだと思う。 先生はそれ以上のことを話さなかったが、日本で教えている学生に伝える必要のないことも、当然たくさんあるのだろう。 世界のニュー

          蒋先生と僕 2

          蒋先生と僕 1

          就活の終わった時期、唐突に外国語授業が始まるという。 しかも希望言語を選択できるとは、少人数制の小さな学校では珍しいことだ。 僕はなんとなく中国語を選んだ。英語を選ぶべきだったと思うが、どちらにしてもあまり勉強に身を入れるつもりはなかった。 中国語を担当するのは蒋先生。 AIが書いた架空の人物のような美しい先生だった。 僕はがぜん中国語にやる気を出し、生きた中国語を学ぶために中華料理屋でバイトすら始めた。 バイト先は、ちょっとした宴会場を備えた地元では比較的高級な中華

          蒋先生と僕 1

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          ※若干ホラー、グロ要素あり注意 千葉県を走る東金道路はとても暗い。 それまで、僕たちの走る黒い路面と黒い木々、そしてオレンジ色の光しかなかった空間で、それは明らかに違う色合いをしていた。 なんだか色が多くて、上の方が白っぽくて、でもはっきりとは見えない。 車の速度もある程度出ていたので、左の路肩沿いにある「それ」はどんどん近づいてきて、友だちもその存在に気付き始めた。 うわああ人だ! 車内は一気にパニックに陥った。 休憩所なんて相当前に通り過ぎたっきりで歩ける距離で

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          僕は取ったばかりの免許をくたびれた財布に押し込み、ダイハツMira号に乗り込んだ。 兄から借りた四畳半みたいな車にぎゅうぎゅう詰めの男女4人。アスファルトにタイヤを切りつけながら、北東の方角を目指していた。 月の明るい夏の夜、無軌道な若者が向かう選択肢は多くない。何をするわけでもないのにはるか九十九里浜を目指す僕たちは、カセットテープに吹き込んだ歌を口ずさみながら、排気ガスと潮の香りを吸い込んでいた。 僕たちの走る有料道路を利用する車はほとんどなく、対向車とすれ違うこと

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          僕たちは、フランス語で太陽を意味する「soleil」と刻まれたアクセサリーを恥ずかしげもなく選んだ。 それは、ダイとジャンヌが出会ったあの小さなホテルの名前があしらわれたものだった。 僕たちはそのアクセサリーを車に積み込み、ジャンヌの待つJR田町駅へと急いだ。 街には冷たい風が吹いていた。僕はその時初めて田町駅(正確にはガード下)に行ったわけだが、そのどこかのんびりした名前とは裏腹に、とても都会的な場所だった。 もし今会えないと、一生会えないかもしれない。僕とダイは、そんな

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          翌日、僕たちはいつもの海岸にいた。 シャチのフロートを奪い合って遊んだり、体だけを使って波に乗ったりと、僕たちは相変わらず自分たちなりのマリンレジャーを満喫していた。 ただ一つ違うのは、はるばるフランスから来た二人の女の子と一緒であることだった。 ジャンヌとエロディはあまり泳がないで太陽と潮風に身を委ねていた。それだけで千葉の海岸はさながら地中海きらめくプロヴァンス。怪しげな泡も、いつもより明るい太陽にしたたかに焼かれていた。 昼間になると急に恥ずかしくて喋れなくなる。

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          ホテルの名前は太陽といった。 僕たちは食事を終え、花火の待合せ時間まで小さな大浴場で日焼けした体を冷ましたりコンビニで花火を買い込んだりして過ごした。 グランドホテル太陽の前の海岸で僕らは再会した。ジャンヌは私服に着替えていた。 僕にはその服の種類も名前も分からなかったが、白地に水色の細かい柄の入ったロングスカートは涼し気で軽やかで、率直に言って可愛かった。 ジャンヌには友達がいて、二人でフランスから来てわざわざこの海岸のホテルで働いているということだった。友達の名前は

          le soleil

          これは、千葉県のとある海岸で始まった、フランス人の女の子との淡い恋の物語。 そこは決してビーチではなく海岸だった。 房総半島の最南端ということもあり解放感こそ魅力だが、所々岩がむき出しで、黒っぽい砂浜では旅館街から流れてきたであろう怪しげな泡が小川を作っている。 もちろん海の家なんてものはない。観光客は小さな旅館からレジャーシートを持参して海水浴を楽しむ。そんな場所だった。 友達の一人がむかし家族旅行で行ったことがあるというだけの理由で、僕たちは毎年5,6時間かけてここに

          懐かしくなったので友について記す 5

          芋坂跨線橋は夕暮れだった。無数に敷かれた線路の上を数分おきに電車が通過して、そのたびに鉄輪がきしむ音が辺りに響く。僕たちはその音が聞こえなくなるほど、互いの話に集中していた。 りょうは浪人して大学に行くことを告白してくれた。僕は無名の職業学校に進学して、早く就職するつもりだった。 思えば、僕は受験に失敗したおかげでこの愛すべき友人と出会えた訳だが、僕は受験の失敗によって自分の行き先が分からくなり絶望する、という強いトラウマを持っていた。 しかし彼は、やりたいことのためな

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          ある夜、僕たちは新宿のバスターミナルにいた。今でも思うことだが、新宿の夜空はきっと日本で一番明るい。 僕たちは、街で見かけるスキーツアーのパンフレットの中で一番安いツアーに申し込み、誰一人板やブーツなど持たずに、眠らない街に集合したのだった。 最初に行ったのは斑尾、木島平あたりだったと思う。初心者の僕たちは、散々雪山で転んだあとに深夜まで賭けトランプをして、今度は笑い転げていた。 これと関連していたのかどうかは分からないが、りょうはギャンブル依存のきらいがあった。 お

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          よくよく考えると、四角関係であったのは一年あまりだったと思う。漫画のようなシチュエーションは、実はそれほど長い時間ではなかった。 気づけば、「りょうとみか」はいくつかの大きなケンカを経て(この情報ももちろん筒抜けである)、4人で誕生日を祝うことはできなくなった。しかし、僕は今でも、この一時期のことを恥ずかしげもなく「奇跡」だと思っている。 もしかすると、僕から見て異世界の主人公であったりょうと同じラブストーリーに入れているということ自体が、僕のゆがんだ喜びだったのかもしれ

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          彼と出会った時、僕は15歳だった。 とある年の4月、芸術系の高校受験を失敗し、普通すぎる学校にひっかかった僕は、元々暗い顔をさらに暗くして学生証の撮影に臨んでいた。 そこで初めて話した人間がりょうだった。 全員が初対面という空間で、多くの人がそうであるように、いや多くの人よりもかなり高めに警戒レベルを上げていた僕に、隣に立つりょうは笑顔で話しかけてきた。 みんなに見られてると緊張するよね。 そうだね。 これしか返さなかった根暗な僕に、りょうは何を感じたのだろう。今と

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