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DIVE to BLUE 2

短時間の眠りから覚めると、僕は相変わらず病室のベッドの上にいた。
淡い黄色の室内、ベッドをまたぐように置かれている食事台、歯ブラシ。

テレビはつけっぱなしで、騒がしくCMを流していた。何かの家電製品を宣伝したあと、富士通のロゴが映し出される。
そこで僕はゾッとした。

おかしい。いつものロゴじゃない。

一体何が起きているのか分からない。
なぜ、ロゴを微妙に変えるなんてことをするんだろう?
その後の番組も、いくつかの点でホンモノではないような気がした。
そういえばこの部屋も、病院も、なんだか違和感がある。

間違いない。何故か分からないが、この世界はニセモノだ。

(もうお気づきかもしれないが、この時の僕はおそらく、高熱による一種の幻覚を見ていたんだと思う。この後も不穏な話が続くので要注意。)

このままこの世界にいてはいけない気がする。
いや、もしかすると元の世界に戻れなくなるかもしれない。

急 い で 元 の 世 界 に 戻 ら な く て は

僕はそう決心し、病院の屋上を目指すことにした。

高熱の体を無理やりに起こし、スリッパをはく。
点滴が繋がっていることに気づき、管を引っこ抜こうとした。

異変に気付いた看護師が僕を止めに入ってきたが、当然ニセモノの看護師なので僕は聞く耳を持たない。
ひたすら体を動かし、部屋の外へ出ようとしていた。

そのうちに医師も現れ、二人がかりで僕を押さえつけてきた。
僕も必死だったが、そもそも弱った体を無理に動かしているので勝てるはずもなく、なんだか手足が土気色になってきた。

さすがにこれはマズいと思い、一旦はベッドに戻ったところで再び意識を失うようにして眠りに落ちた。


次に目覚めた時には、ニセモノ感覚はすっかり無くなっていた。
不思議なほどケロッといていて、そのうち発疹も熱もなくなり、いつも通り退院することができた。
しかし、これだけははっきり覚えていた。

僕は病院の屋上から飛び降りるつもりでいた。

自分を守るためだから仕方ない、と疑いなく思い込んでいたのだ。

周りの大人たちが止めてくれて本当に良かった。ありがとうあの時の皆さん。
時折、熱を出した子どものそばを離れてはいけない、と言われる。
それを子どもサイドで実体験した、本当に貴重な経験だった。

※このような症状を、「熱せん妄」というそうです。

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