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le soleil 2

ホテルの名前は太陽といった。

僕たちは食事を終え、花火の待合せ時間まで小さな大浴場で日焼けした体を冷ましたりコンビニで花火を買い込んだりして過ごした。

グランドホテル太陽の前の海岸で僕らは再会した。ジャンヌは私服に着替えていた。
僕にはその服の種類も名前も分からなかったが、白地に水色の細かい柄の入ったロングスカートは涼し気で軽やかで、率直に言って可愛かった。

ジャンヌには友達がいて、二人でフランスから来てわざわざこの海岸のホテルで働いているということだった。友達の名前はエロディといった。
エロディは日本人と比較すると大柄で、黒っぽいセクシーな服を身にまとったジャンヌのお姉さん的存在だった。僕たちはエロディの名前と存在感に、こっそりほくそ笑んでいた。

日本の花火をやったことはあったのだろうか、特に彼女たちに聞きはしなかった。僕たちは、少し緊張しながら一緒に手持ち花火を楽しんだ。
僕は、筒状の連発花火を空に向けて放つ楽しそうなジャンヌを見て、まるで民衆を導く自由の女神みたいだと思った。そして、この瞬間がこの夏のハイライトかもしれないと思った。

線香花火も終え、僕たちは砂浜に座り込んで話した。意外なことに、波の音は覚えていない。
彼女たちは上手に日本語を話し、山手線の駅名など、一般的な漢字をすらすらと読んでみせた。二人は大学生で僕たちと同年代なのに、フランス語と英語と日本語を操り、海外で働きながら勉強していることに驚くばかりだった。
しがない学生でこれといった特徴もない僕は、自己紹介の時にサルコジですと一ミリも面白くない冗談を言ってしまい、この瞬間がこの夏のローライトかもしれないと思った。

盛り上がりに欠けた時は、友達のダイがいつも何とかしてくれた。ダイは、坊主頭にオビ=ワン・ケノービのような三つ編みを残すほどのおしゃれ上級者で、可愛げがあり、生意気であり、イカれていた。狂気と笑いのバランスが優れた男だった。

僕たちはダイを茶化しつつ、ダイの話で笑い転げていた。それはジャンヌもエロディも同じだった。

恥ずかしげもなく淡い恋は続く

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