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僕は取ったばかりの免許をくたびれた財布に押し込み、ダイハツMira号に乗り込んだ。

兄から借りた四畳半みたいな車にぎゅうぎゅう詰めの男女4人。アスファルトにタイヤを切りつけながら、北東の方角を目指していた。

月の明るい夏の夜、無軌道な若者が向かう選択肢は多くない。何をするわけでもないのにはるか九十九里浜を目指す僕たちは、カセットテープに吹き込んだ歌を口ずさみながら、排気ガスと潮の香りを吸い込んでいた。

僕たちの走る有料道路を利用する車はほとんどなく、対向車とすれ違うこともなかった。
ひたすらにまっすぐな道路では、等間隔に立つランプが点々と明かりを落としているほかは何の明かりもない。高架下から伸びている木々もぼんやりと黒っぽいだけで、なんだか形が判然としなかった。

もしも今、オンボロのこの車が動かなくなったら、なんて考えて少しヒヤリとすることもあった。

同乗する3人と話しながら、運転席に座る僕は夜中に階段を降りるときのような不安をぬぐうように、次の明かりを目でたどりながら運転していた。

しばらく走ってるとふと、明かりの下に気になるものを見つけた。

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