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le soleil

これは、千葉県のとある海岸で始まった、フランス人の女の子との淡い恋の物語。

そこは決してビーチではなく海岸だった。
房総半島の最南端ということもあり解放感こそ魅力だが、所々岩がむき出しで、黒っぽい砂浜では旅館街から流れてきたであろう怪しげな泡が小川を作っている。
もちろん海の家なんてものはない。観光客は小さな旅館からレジャーシートを持参して海水浴を楽しむ。そんな場所だった。

友達の一人がむかし家族旅行で行ったことがあるというだけの理由で、僕たちは毎年5,6時間かけてここに通い、これが憧れのマリンレジャーかと勘違いしながら満喫していた。

何度目の夏だっただろうか。いつしか交通手段は原付から車になり、5人ほどのメンバーで初めてホテルというものに泊まった。周りはファミリーばかりで若者はほとんどいなかった。バイキングの利用方法すら良く知らない僕は、味噌汁とお米をもらいたくて、スタッフの前でもじもじしていた。

よく見ると、味噌汁とお米を担当しているのは、ホテルの制服があまり似合っていない女の子だった。鼻が高く唇は薄い、初めて目にするような可愛らしい子だった。名札には「ジャンヌ」とあった。

なぜこんな子がこの海岸に、そして味噌汁とお米の担当に。僕は勝手に運命めいたものを感じつつ思いを巡らせた。しかし、純不純を問わず異性との交遊から断固距離を取ってきた僕は彼女に声をかけることなどできず、黙って食べ物を受け取ることしかできなかった。

しばらくすると、純不純を問わず異性との交遊を得意としている友人が鮮やかに挨拶を交わし、話し込んでいるのが見えた。食事中にその結果を聞くと、今夜海岸で花火をすることになったという。恐るべきコミュニケーション能力に驚きつつ、僕は密かに胸がおどった。

恥ずかしげもなく淡い恋は続く

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