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蒋先生と僕 1

就活の終わった時期、唐突に外国語授業が始まるという。
しかも希望言語を選択できるとは、少人数制の小さな学校では珍しいことだ。

僕はなんとなく中国語を選んだ。英語を選ぶべきだったと思うが、どちらにしてもあまり勉強に身を入れるつもりはなかった。

中国語を担当するのは蒋先生。
AIが書いた架空の人物のような美しい先生だった。

僕はがぜん中国語にやる気を出し、生きた中国語を学ぶために中華料理屋でバイトすら始めた。

バイト先は、ちょっとした宴会場を備えた地元では比較的高級な中華料理屋で、バイト初日に「会長」なるおじいさんの黒い車に乗せられ、どこに連れ去られるのかと思っていたら、いわゆる洋品店で仕事で着るスラックスとエプロンを買ってもらった。
そんな支給の仕方があるのかと驚きつつも、ちょっとこわもてな会長、そして美人だが厳しい店長のもと、ホールスタッフとして働き始めた。

厨房にいるのは二人の中国人スタッフで親子ほど年の離れたおじさんとおにいさんだった。
店長は見ためがツンツンしているのに態度もツンツンしていて、厨房の二人にいつも厳しく当たっていて、嫌われているようだった。

ここで生きた中国語が学べる!と思っていた僕だったが、もちろんいきなり意思疎通ができるわけもなく、厨房から聞こえてくるのは(想像でしかないが)店長の悪口のような気がした。

厨房の二人と少しずつ打ち解けていって、学校の先生に気に入られたいこと、中国語を勉強したいことを伝えると、発音の仕方や自己紹介のための自分の名前の書き方(中国式の漢字)などを教えてくれた。

授業は週1回。僕はお客さんから注文を取り、エビチリを運び、店長にしつけられながら先生と合う日を待っていた。

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