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ちいさなお話

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ギフテッド

ギフテッド

Gifted  -   having special ability in a particular subject or activity                
生まれつき特別な能力や才能をもっていること、またはその人のこと。天才。
神から与えられた(ギフト)能力という意味から「ギフテッド」と呼ばれる。

 この爛れて少しも綺麗じゃない嘘みたいな世界で、彼だけが、本物のような気がした。

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Yちゃんとの記憶

Yちゃんとの記憶

 最近卒論を書かなければと思い悩むほど、他のテーマでどんどん筆が滑ってしまう。せっかくのことなので、思考の整理も兼ねてここに置いておこうと思います。

 先日、ふと小学校のときに一緒だったYちゃんのことを思い出した。
 Yちゃんは同級生で、いつもツインテールでぱっちり二重の可愛らしい女の子だった。

 彼女と出会ったのは、記憶が間違っていなければ小学4年生のころ。クラスがたまたま同じになり、小学校

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モラトリアム・シンドローム

モラトリアム・シンドローム

夜十一時。

自分の部屋にいることは好きだけれど、1日そればかりでは息がつまる。足が、手が、頭が、すべてがボーッとして、力が上手に入れられず、と言うより入れる気概もなくなる。世界に自分しかいないような、もうそれでも良いと思ってしまうような。まさに堕落。そういうどうにも息がつまるときは、身体に鞭打って外に出かけるようにしなくてはならない。とにかく、外の空気を。今ここにある空気とは異なる空気を摂取しな

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ミモザと私と。

ミモザと私と。

 それはよくある出来事だった。
 バイト中、いつも通りの仕事、いつも通りのやり取り、そこで偶然起こった自分のミス。人間に失敗はつきもので、大したミスでもなかった。だからこそ激しく責められるものではなかったし、実際周りの人たちからはなんのお咎めもなかった。そう。毎日過ごしていたら、仕事に向き合っていたらいつかは起こるよくある出来事。
 けれど、そんなちっぽけなミスがその日の私にはひどく堪えた。
 休

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朝、起きれなかったときには。

朝、目を開いた瞬間に「これはダメだ」と思う日がある。それは一年に数度訪れて、数度だけなのだけれど、それはそれは落ち込む。

ちょうど今日の朝は、そう思ってしまった朝だった。そのとき、風邪をひいているだとか、気圧だとか、無論そういうのが関係のある日もあるのだけれど、全くそういうのも関係なく、ドカンと何かが首の上に乗っかっているような、そんな気持ちになってひどく落ち込む日がある。

幸いにも、今日は

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ホシヅルの思い出

ホシヅルの思い出

幼い頃から「本屋さん」という場所が好きだった。自分の地元にある少し大きめの書店には小学生ぐらいまでをターゲットにした児童向けコーナーがあった。そこには小さな椅子が並んでおり、座って本を読むことも可能だった。今思えば、本をぐちゃぐちゃにしてしまうかもわからない子どもたちのために商品である本に「読むため」の椅子を設け、そこに居座る子どもを咎めもしないあの本屋さんは、非常に優しい店だったと思う。当時小学

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一杯の紅茶を、あなたと共に。

一杯の紅茶を、あなたと共に。

朝6時30分。
朝と夜の冷え込みが激しくなる秋の終わり、否応無く襲いかかる寒気の波に眉をひそめながらも、為すすべもなく布団から身体を出す。ふらふらとキッチンに向かい、震える身体で小鍋に水を注ぎ、コンロに火をつける。
コンロに手をかざしながら、ほぅ、とため息をつくと息がほんのり白く、一層寒く感じた。コイン大の泡がぽこぽこと小鍋の中で踊る。そろそろだ。紅茶の缶を開けながら、ちょうどあの夏を思い出す。

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拝啓、ヴェネツィアより

拝啓、ヴェネツィアより

 

 初めて彼女と出会ったのは、高校の、入学式だった。まだ中学生の面影が残り、あどけなさが垣間見られる少女の群れの中で、彼女は一際目を引いた。真一文字に結ばれた口もと、切れ長の涼しげな目元に、濁りのない瞳。日焼けを好まなそうな肌、そして、それら全てがこの為にあると言わんばかりの長く艶やかな黒髪。
 ぽつり、と席に座る彼女は他の誰にも交わらず、また、交わる事すらも望んでいない様だった。私は、早速話

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