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一杯の紅茶を、あなたと共に。
朝6時30分。
朝と夜の冷え込みが激しくなる秋の終わり、否応無く襲いかかる寒気の波に眉をひそめながらも、為すすべもなく布団から身体を出す。ふらふらとキッチンに向かい、震える身体で小鍋に水を注ぎ、コンロに火をつける。
コンロに手をかざしながら、ほぅ、とため息をつくと息がほんのり白く、一層寒く感じた。コイン大の泡がぽこぽこと小鍋の中で踊る。そろそろだ。紅茶の缶を開けながら、ちょうどあの夏を思い出す。
拝啓、ヴェネツィアより
初めて彼女と出会ったのは、高校の、入学式だった。まだ中学生の面影が残り、あどけなさが垣間見られる少女の群れの中で、彼女は一際目を引いた。真一文字に結ばれた口もと、切れ長の涼しげな目元に、濁りのない瞳。日焼けを好まなそうな肌、そして、それら全てがこの為にあると言わんばかりの長く艶やかな黒髪。
ぽつり、と席に座る彼女は他の誰にも交わらず、また、交わる事すらも望んでいない様だった。私は、早速話