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風を食み、時限爆弾のような恋心を閉じ込める。


ヨルシカの曲は友人や妹が好きで、私もずっとヨルシカにハマりそうな予感はずっとあって、よく聴いていた。だけどこの曲は知らなくて、歌詞を見たとき、その文学性に惹かれた。


「タイムカードを押して」「値引きのシールを貼って」「閉店時間を待った」「此処にも客が並んで」と、コンビニでバイトする主人公が浮かぶ歌詞で、まるでコンビニの商品と自分 or だれかを重ね合わせるかのよう。


ネットを見るとこの歌について、n-buna さんは

「全体のテーマは消費です。子どもの頃は雲ひとつにも心を動かされたのに、大人になるにつれ、そういう感覚は少なくなったように感じます。

タップひとつで物が買える現代社会で、消費することに疲れてしまった心を、最後に優しく包み込むような曲を書きたいと思いました」

と語ったという。

奥さんが亡くなっていく過程なんじゃないか、といった考察をしている人もいた。


だけど
「十五円の心」、
その「二割引」で十二円の心、
ついに「半額」になった七.五円の心、
って何だろう。どんなものだろう。

そのあとに出てくる「貴方」「売れ残りの心でいい」って?



良い音楽って、常に意味の多重性を孕んでいるものだと思っていて。アーティストが「正解」を教えてくれていても、「そうは言っても、これってこういうふうにも聞こえるよな」って、いろんな人の様々な状況に当てはまって、解釈の自由がゆるされているものだと思うんです。


今回、先述の疑問について考えた結果、
私にとってこの曲はラブソングになりました。


この曲には「僕」と「貴方」がいて、「僕」は「貴方」に、「貴方」は「別のだれか」に、叶わぬ恋をしている。

売れ残りの心でいい 
僕にとっては美しい

というのは、「貴方」の恋心。

「僕」は、それが自分に向いているものではないとわかっている。「別のだれか」への想いを持ったままの「貴方」でもいい、それほどまでにだれかを想う心を持っている「貴方」を美しいと思ってしまうほど、「僕」は「貴方」を好きなんだ、ということ。


タイムカードを押して 僕は朝 目を開いた

というのは、「ここからは仕事だから」とプライベートモードと仕事モードを切り替えるように、何も考えていなければダダ漏れになってしまう「貴方」への恋心がバレないように、と切り替えたのかな、なんて思う。


十五円の心、二割引の心、半額の心、は
カウントダウン、というか時限爆弾みたい。
「貴方」への想いを消そうと努力しているけれど、消せなくて、もういっそ、だれか買い取ってくれたらいいのにな「貴方」への想いを抱えたままの僕でも受け入れてくれたらいいのにな、と言っているように聞こえる。


タイトルの「風を食む」は4箇所、登場している。

貴方さえ 貴方さえ
これはきっとわからないんだ
はにかむ顔が散らつく
口を開けて風を食む

春が先 花ぐわし
桜の散りぬるを眺む
風を食む

草流れ 天飛ぶや
軽く花の散るを眺む
風を食む

貴方しか 貴方しか
貴方の傷はわからないんだ
口を開けて歌い出す
今 貴方は風を食む

最後だけ、「貴方」が風を食んでいるんですよね。

だけど

「貴方」がはにかむ顔が散らついているときの「僕」も、
桜が散りぬるを眺むときの「僕」も、
軽く花の散るを眺むときの「僕」も、
口を開けて歌い出すときの「貴方」も、

ぜんぶ、自分が持っている恋心に浸って、それでもその気持ちを忘れようとしているときの象徴、なのではないかと、思います。


切ないね。


*****


私、叶わぬ恋ってしたことない。

それは「私に惚れない男なんていない」というわけでも、そんなことに困らないくらいのモテ女だったわけでもなくて、

パートナーがいる人や立場上許されない関係の人を好きになったことがないということと、
叶う/叶わない以前に逃げていたという、それだけの話だ。


はじめて本気に好きになった人にちゃんと告白しなかったことは今でも少し後悔しているけれど、

当時気になっている人がいた好きだった人に告白して、付き合わなかったけど告白後に一度デートしたあの恋に後悔はない。


彼と付き合って5年。

その間一度もほかの人に気持ちが揺れたことはなくて、片想いの気持ちや恋愛の仕方なんて忘れてしまった気がするけれど、

ただひとつ言えるのは、自分の気持ちをなかったことにするのは苦しいということ。

パートナーがいる人を好きになったとして、その気持ちを伝えるかどうかは別だけど、でもだからといってその気持ちをなかったことにはしなくていいのだと思う。

ちなみに私は、伝えてもらって潔く振りたいし、その方が相手もすっきりするだろう、と思うタイプ。


しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
ものや思ふと 人の問ふまで


両想いでない限り、恋心って「伝えたら」終わり、なんじゃなくて、「伝わったら」終わりだと、思うから。






この note は レモンさん との共同マガジン「交換ノート」の企画記事です。
約1ヶ月間、週1で同じテーマについて考え、それぞれが感じることを記事にします。翠とレモンさんの思考のちがいを楽しんでもらえますと幸いです。

今回は、ヨルシカ『風を食む』を聴いて、感じることについてそれぞれ書きました。


レモンさんの『風を食む』はこちら▽

『交換ノート』マガジンはこちら▽


p.s. レモンさん、公開が遅れてしまってすみませんでした🙇‍♂️





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