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小説

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2022年2月の記事一覧

【掌編小説】面白い話

【掌編小説】面白い話

狭い部屋で2人、特に話題もない。
僕は思ったままを口に出した。
「はあ、なんか暇になってきた。もっと面白い話聞かせてよ」
僕は大袈裟にため息を吐いて、彼女のことを見つめた。
彼女は少し思いを巡らせてあとに意を決したように話し出す。
「私ときどき思うの。死は通過儀礼的なもので、この人生は次の人生のための予行演習なんじゃないかって」
彼女の声は少し震えていた。
「なるほど、それは面白い考え方だね。どう

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信号は赤

信号は赤

 僕の地元にはちょっとおかしな交差点があるんです。
 交差点だなんて言うと、大通りが交わっていて車がたくさん行きかうのを想像するかもしれないけれど、僕の地元にあった交差点は、車通りなんてほとんどない、田んぼの真ん中を通っている道でした。
 夜になると街灯ひとつなくて真っ暗なんです。
 いえ、違いました。そこの交差点にはぽつんと信号機がたってる。だから、畑の真ん中の真っ暗な道を走っていくと、ぼんやり

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君を傷つけるのは誰?

君を傷つけるのは誰?

「全部君のためだったんだ」と、男は言った。「君を傷つけるもの全て消してしまいたかったんだ」
 女は呆然と立ち尽くしていた。ふたりの周りにはなにも無かった。いかなる景色も、空間も無かった。一切のものが存在しなかった。無いということすらも存在しなかった。茫漠とした空間、空間ですらない。その空間でない空間が見渡す限り続いている。
「あんたは狂ってるわ」女は言った。
「そうかもしれない」男は言った。
「な

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色継ぎ

色継ぎ

「僕ね、産まれてずっと色がわからなかったんだ」

安古(あこ)さんは生まれつき重度の色盲だった。
色盲というのには種類があり、型が違う事がある。
安古さんの症状は全色覚異常と呼ばれる非常に珍しい症状で、完全に世界が灰色に見えていた。

モノクロの世界が安古さんにとっては平常で、子供の頃から慣れ親しんでいた光景だった。
色覚異常だとわかったのは幼稚園の時。
クレヨンの色がさっぱりわからず泣いた事がき

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