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鈴懸ねいろ
2024年11月2日 12:30
11月にはどこか中途半端な印象がある。秋から冬へと移りゆく途中。その年の大団円を迎えるまでの途中。時間の流れは暖色のグラデーションを帯びて、染まりきらないものたちが目の前を通り過ぎていく。そんな狭間にある今は、ゆっくりと落ち着いて物事を考えるのに向いているようだ。忙しい喧騒の季節が訪れる前に、しておきたいことを整理する。それは、これから使いたい器を吟味することに似てい
2024年10月1日 17:22
十月らしさ、秋のはじめらしさとは何だろう。空の高さと、湿度の低い涼しい風と、夏の間は身を潜めていた花たちの香りのこと。金木犀が咲き始めた街を、長袖のブラウスで歩くこと。だとしたら熱い陽射しを避けて日傘を差し、半袖のシャツで出歩く今は、いったい何という季節と名づければいいのだろう。きっともうすぐ。もう少しで秋は来るはずと何度も思い待ち焦がれていたのに、秋の使者の姿は街な
2024年8月1日 10:10
休むことを知らないエアコンが今日も微かな音をたてている。窓辺の観葉植物たちにとってもここは快適なようで、新しく柔らかい芽をどんどん伸ばしている。目にも優しいものたちが気持ちを和ませてくれている。なんてありがたこと。たった1枚の窓ガラスを隔てた向こうとこちらでは、環境はまったく違う。この暑さのなか、野良猫たちはどうしているのか気にかかる。この暑さが特別なものではなくなって
2024年6月1日 10:55
樹々の緑が濃くなっている。木陰の下に入ると、葉っぱの匂いがした。植物たちがこれからの季節に向けて身支度をしている気配がする。梅雨入りする六月は、体の内側と外側の水が呼び合うようだ。人も自然の一部なので、少しずつ次の季節に馴染もうとするのを感じている。******お知らせです。日本左利き協会さんのホームページで掲載中のショートストーリー【Papa is gone】の後編
2024年5月2日 10:30
五月の風はひときわ美しい。湿度は低く、さらりとしていて緑の匂いがする。こんなにいい季節に部屋に閉じこもっているのはもったいないと思う性分なのだ。特に用事らしい用事がなくても、何となく外へ出る。通りを歩いてみる。家々の門のきわに植えられた花を見てまわる。私の心のなかの小さな子どもも、嬉しくてくすくす笑いながらスキップをしているのだ。たくさんの芽吹きを瞳に映して、自分の内側に
2024年4月1日 20:42
とてもいいことを思いついて、これは絶対に文章にしたい!と思っていた。書くものもスマホも手元になかったので、頭の中で呪文のように何度もその言葉を繰り返していた。忘れないように、刻み込んで。ところがその後、職場の同僚と少し話をしたら、大事な言葉は何処かへ飛んでいってしまったのだった。頭の中というケージの扉を開けて、言葉は白い鳩のように大空へ。羽ばたいていってしまった言葉の
2024年3月1日 16:20
三月には三月の音がある。三月には三月の空気の匂いがあるように。渡る風や鳥の声。草木が芽吹く時の、かすかな破裂音。猫のハミング。これからくる季節は、恩寵に満ちている。花の咲く瞬間に立ち会いたい。寒さに耐えて握っていた手を開く季節。解放された心も光を求めていて、自分もたしかに自然の一部なのだと感じることができるのだ。♧♧お知らせです。日本左利き協会さんのホームページで
2024年2月1日 17:35
今年の2月はなんと、29日まである!1日丸儲けなのである。たとえば今月末までの締切案件を抱えている人にとっては、24時間の猶予がプラスされることはとてもラッキーだ。ひと安心していることだろう。だが油断は禁物だ。1日多いのだから大丈夫、などと思ってデスクに伏せてうたた寝をしていたり、ソファに寝転んでポッキーをぽりぽりかじりながら本を読んでいると、あっという間に時間は過ぎ去
2024年1月2日 09:33
元日の朝。見上げた空の青さが昨日までとは違っていた。たった一夜で、こんなにも自分の中の心持ちは変わるものなのだと知った。時間は連続している筈けれど、確かにここには境い目があった。冷たい風に、背筋がしゃんと伸びる。太陽に手のひらをかざし、光を集める。その手を胸に当てると、あたたかいものが流れ込んでくるようだった。今年の目当ては、気負いすぎないこと。丁寧に文字を書くこと
2023年12月1日 17:55
あなたには毎朝顔を合わせる見知らぬ通勤仲間のような存在がいますか?仕事へ行くために駅で電車待ちをしていると、続々といつものメンバーが集まってきます。全然知らない人だし、年齢、性別、服装、国籍も様々だけれど、皆、私と同じ様に朝早い時間から同じ駅で同じ電車に乗り込んで仕事に向かいます。そんな彼らに対してささやかな連帯感のようなものが私の中で勝手に生まれて、(心の中であだ名
2023年11月1日 06:12
月替わりのカレンダーが残り2枚になりました。いつのまに?こちらの都合も聞かずに勝手にどんどん流れてゆく時間に、ちょっと待ってよと声をかけたくなりました。11月。私が住んでいる街では、空気が乾いて空がぽっかりと青くなる季節です。風は冷たくても陽当たりさえ良ければ、そこは穏やかなサンクチュアリになります。たいていは地理に詳しい野良猫が先に微睡んでいて、特等席を取られちゃったな
2023年9月28日 11:07
満月を見上げると、心の窓がそっと開く。それは昼間とは違う心の使い方だ。窓を開いて月の光が心の深いところまで射し込んでくると、なぜだかすべてが解き放たれてゆく気がする。ベランダの手すりにもたれて、あるいは帰宅の道の途中で足を止めて、わあ、月だ!と眺める時。みんな一瞬、無に還るでしょう。それから少しずつ思いが胸によぎっていく。満月に願いをかけて祈ったり、この月をあの人も見ているだ
2023年9月10日 16:40
日本左利き協会さんのホームページにて掲載させていただいているショートストーリー第3話【Man in the mirror】の後編が公開されました。暑い夜を少しだけ涼しくするお話です。ショートストーリーですのですぐに読み切れます。よろしかったら読んでいただけると嬉しいです。☟******9月最初に書いたお知らせを誤って消してしまいました。泣なので再度あらためて載せ
2023年8月1日 12:28
久しぶりの雨音に耳を傾けているうちに、寝入ってしまったらしかった。夜の窓の隙間から雨の匂いがした。何日も何日もひとしずくの雨さえ降らなくて、地面は干涸び植物たちは渇きに喘いでいた。ああ、やっと潤うんだね。樹木は何でも覚えてしまう伸び盛りの子どものように、どんどん雨水を吸いこんでゆくのだろう。やがて外が明るくなってきたけれど、いつものような強い光は入ってこない。起き出してカ