マガジンのカバー画像

読書日記

46
自分が読んだ本の感想記録をまとめました
運営しているクリエイター

2021年8月の記事一覧

緋色の研究 / コナン・ドイル

緋色の研究 / コナン・ドイル



2021年8月20日 読了

シャーロック・ホームズの作品ってそういえば読んだことがないなぁと思って手に取った。この作品は、ホームズとワトスンが出会う第一作として、ワトスンの視点でホームズの変わり者ぶりと、その超人的な推理が描かれていく。

ホームズのキャラクターはとても個性的で、人並外れた観察眼に驚かされるワトスンだが、読者もワトスンと同じ視点でホームズという変人を目の当たりにできるのが面白

もっとみる
ハローサマー、グッドバイ / マイクル・コーニィ

ハローサマー、グッドバイ / マイクル・コーニィ



2021年8月10日 読了

このタイトル、女の子が表紙の爽やかな装丁、「恋愛SF小説」と銘打たれた紹介で、ライトな内容を想起させるが、実際はかなり硬派なSF作品だった。

地球ではない惑星の、人間によく似た異星人の物語で、その気候、自然現象、生物、文化、国家間の戦争、政治といった世界設定が緻密に作り込まれている。見慣れない言葉もたくさん出てくるが、そこまで複雑ではなく、読んでいれば普通に理解

もっとみる
夏と花火と私の死体 / 乙一

夏と花火と私の死体 / 乙一



2021年7月19日 読了

乙一作品は「暗いところで待ち合わせ」とジョジョ4部スピンオフ「the book」を読んだことがあり、どちらも好きだったのでこのデビュー作は前から気になっていた。当時16歳で書き上げたというから凄い。

まず書き出しの「九歳で、夏だった。」という文章がもう優勝。この削ぎ落とされたシンプルな一文だけで、小学生の夏のあらゆる情景が浮かんでくる。この時点で文章を書くのがべ

もっとみる
世界の中心で愛を叫んだけもの / ハーラン・エリスン

世界の中心で愛を叫んだけもの / ハーラン・エリスン



2021年7月12日 読了

某アニメの最終話サブタイトルとして有名だが、庵野監督はこの作品を当時読んだことがなかったとか。

たった16ページしかない表題作はまったく意味がわからず、解説ブログなどを読んでなんとかあらすじは理解したものの、それでもやっぱり何が言いたいのかの意味は理解できなかった。
しかしcrosswhenという宇宙の中心が、都市のような政治を行い機能しながらも、すべての時間・

もっとみる
アルジャーノンに花束を / ダニエル・キイス

アルジャーノンに花束を / ダニエル・キイス



2021年6月14日 読了

タイトルこそ有名だが、どんな話か全く知らず、実はSF作品にカテゴライズされるということを知って興味を持って、手に取った。

32歳(奇しくも自分と同い年だ)にして幼児並の知能しか持たない主人公・チャーリーが、手術によって天才の頭脳を手に入れるという、あらすじだけ見ると安易な設定にも思えるが、どんどん頭が良くなっていく過程や、見える世界の変化の描写がとても細かくリア

もっとみる
新編 風の又三郎(新潮文庫) / 宮沢賢治

新編 風の又三郎(新潮文庫) / 宮沢賢治

2021年3月26日 読了

「グズコーブドリの伝記」が読みたくて手にとった一冊。
やはり宮沢賢治の作品は難解で理解できない話も多いが、賢治の持つ宗教観・宇宙観には圧倒されてしまう。

特に自然描写の一つ一つが凄まじい。
グスコーブドリの伝記は、一見自己犠牲の美しさの物語のようにも見えるが、地質に関する描写の緻密さに引き込まれ、単純なテーマでは語れないものの片鱗を味わった。
(それを言語化できる理

もっとみる
症例A / 多島斗志之

症例A / 多島斗志之

2021年3月14日 読了

精神病院に勤める主人公と、不思議な精神病患者との物語。
物凄くリアルな精神病治療の実態が、周到に調べ上げられたうえで描かれており、実際にあった出来事かのように感じられる。統合失調症や境界性パーソナリティ障害(境界例という言葉を恥ずかしながらこの本で知った)という症状についても、その診察方法・治療方法についても、とても詳細に描写されている。
話が進む中で解離性同一性障害

もっとみる
朗読者 / ベルンハルト・シュリンク

朗読者 / ベルンハルト・シュリンク

2021年2月28日 読了

凄まじい読後感、喪失感を味わい、個人的にかなりぶっ刺さった作品。

15歳の主人公の少年と、母親といってもおかしくないほど年齢が離れた女性との恋愛物語として幕を開けるが、中盤からは戦争の影を色濃く残す、とても重い展開に。
少年のもとから去った彼女は、数年後、戦時中のナチスの戦争犯罪者として裁判にかけられる。

とにかく徹底した主観視点で綴られていくため、分からないとこ

もっとみる

若きウェルテルの悩み / ゲーテ

2021年2月14日 読了

日本で言うと江戸時代くらいの小説らしい。
ウェルテル青年の、友も立ちにあてた手記という形で綴られ、婚約者がいる女性に恋をしてしまうウェルテルが、悩みに悩んで最後には自殺してしまう話。
あらすじだけ先に知っていたので、読んだら「なんて女々しい男なんだ……」と呆れてしまうかと思っていたのだが、いざ読んでみると、こんな古い時代に、こんな現代人のような苦悩を描けたのかというこ

もっとみる
猫を抱いて象と泳ぐ / 小川洋子

猫を抱いて象と泳ぐ / 小川洋子

2021年2月1日 読了

読むのは二度目。
もし人から「おすすめの小説を教えて」と言われた必ずこの作品を挙げる。それくらい、この小説は自分にとっての理想が詰まった作品であると改めて実感した。
お話としての面白さ、読みやすさ、そして文学的な美しさがちょど良いバランスで成り立っている。

チェス盤の下に潜り込んで音だけでチェスを指す「盤下の詩人」という異名をも付けられる天才少年……というあらすじその

もっとみる