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アルジャーノンに花束を / ダニエル・キイス
2021年6月14日 読了
タイトルこそ有名だが、どんな話か全く知らず、実はSF作品にカテゴライズされるということを知って興味を持って、手に取った。
32歳(奇しくも自分と同い年だ)にして幼児並の知能しか持たない主人公・チャーリーが、手術によって天才の頭脳を手に入れるという、あらすじだけ見ると安易な設定にも思えるが、どんどん頭が良くなっていく過程や、見える世界の変化の描写がとても細かくリアルで、物語に没入してしまう。
本人の手記という形で書かれた本作は、冒頭ひらがなと誤字だらけの、幼稚園児の日記のような内容だが、段々と頭が良くなり、難しい言葉や比喩を使えるようになっていく様子も面白い。
また、手術が脳に与える影響についても細かく描かれ、過去の自分との乖離が起こるなどの内面描写もとても詳細で、実際に人間の知能を上げる手術を行ったらこうなるだろうという説得力が強い。その点でしっかりと科学SFとしても面白さも持ち合わせている。
「愛情の裏打ちのない知能や教育になんの値打ちもない」という台詞が本質的で、知能の代償に様々なものを失う悲しい物語。結末にも救いが少ないが、人の幸福とは?孤独とは、優しさとは……ということを考えさせられる、とても心に残る作品だった。
特に好きなシーンは、手術によって天才となったチャーリーが、幼いころ虐待を受けていた母に会いに行く場面。障害を頑なに認めず、受け入れようとしなかった母に再会しても、母を憎むことなく、チャーリーは自分が書いた論文を手渡す。僕はもう馬鹿じゃなくなったんだ、この論文を近所の人に見せれば自慢ができるよ、もう近所の目を気にしなくて良いんだよ……と語りかけるチャーリーが切なく、泣けた……。
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