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夏と花火と私の死体 / 乙一

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2021年7月19日 読了

乙一作品は「暗いところで待ち合わせ」とジョジョ4部スピンオフ「the book」を読んだことがあり、どちらも好きだったのでこのデビュー作は前から気になっていた。当時16歳で書き上げたというから凄い。

まず書き出しの「九歳で、夏だった。」という文章がもう優勝。この削ぎ落とされたシンプルな一文だけで、小学生の夏のあらゆる情景が浮かんでくる。この時点で文章を書くのがべらぼうに上手いことがわかる。

標題の通り死体が語り手という変わった文体のサスペンスで、その違和感が独特で面白い。死体の主観視点でありながら、他の登場人物の心情まで描写してしまうのは明らかにおかしいのだが、そのモヤッとする違和感すら作品の特徴に落とし込んでしまっている。
上述した書き出しからも分かる通り、文章に無駄がなく読みやすい。話の展開はやや平坦で都合がいい感じもあるが、しっかりホラーとしてのオチもついて、サラッと読める割に印象に残る作品だ。
(ただ、健くんが主人公の死に対して動揺しなさすぎることになんの理由も無いのは残念だった。ただのゲーム脳だったということか……)

同時収録された「優子」は、タネ明かしが説明的すぎてやや興醒めしたが、ミステリーとして話の構成のクオリティが高い。二重どんでん返しの時代モノ短編ミステリーをなぜ10代で書けるのか……。
若い作家にありそうな思想や感性の押し付け・ドラマチックすぎる描写が無いのも好感が持てる。10代にして純粋にお話を作るのが好きでたまらないという感じが伝わってくるのが良かった。というかこの頃から物語を作るのが上手かったんだなぁこの人は……。他の有名作品も読んでみたいところ。

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