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猫を抱いて象と泳ぐ / 小川洋子

2021年2月1日 読了

読むのは二度目。
もし人から「おすすめの小説を教えて」と言われた必ずこの作品を挙げる。それくらい、この小説は自分にとっての理想が詰まった作品であると改めて実感した。
お話としての面白さ、読みやすさ、そして文学的な美しさがちょど良いバランスで成り立っている。

チェス盤の下に潜り込んで音だけでチェスを指す「盤下の詩人」という異名をも付けられる天才少年……というあらすじそのものが既に面白くてとっつきやすい。ワクワクする展開が文章の読みやすさと相まって、ペラペラとページをめくらせてくれる。

その上で、文学的なテーマ性、表現力がとても美しい。「大きくなることは悲劇である」というテーマが全編通して繰り返され、「小さな空間に体を押し込む」モチーフが多く登場する。
この世に存在しないものとして小さく居続けるということが、チェスの棋譜と絡めて美しい比喩とともに綴られていく。
小川洋子の文体が持つ冷たさ、静謐さ、死の匂い、美しさ……それらの要素が、純粋に面白いストーリーテリングに乗って展開される。文学性と物語性の両方を兼ね揃えた完璧な作品である。

小説を読んで泣くことは滅多に無いが、この儚い物語は読むたびに泣いてしまう。

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