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イベントのユニバーサルデザイン化

ーいつでも・どこでも・だれでも学ぶことのできる社会を目指してー
「ユニバーサルデザイン イベント ガイドライン」

このガイドラインは、私が6年半携わった東京2020オリンピック・パラリンピックから学んだ知識や経験を反映して、仲間と共に作成しました。
主に、「サステナビリティ」と「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」への配慮にフォーカスしました。

イベント企画者が、より多種多様な方々の参加・参画と、サステナブルな地域社会を目指した企画・運営をするための参考としてほしいです。
ひいては「いつでも・どこでも・だれでも学ぶことのできる生涯学習社会」や「地域共生社会」の構築の一助となれば幸いです。

イベントには、屋内や屋外、講演会やワークショップなど、多種多様なものがあります。このイベントガイドラインを企画者・運営者の視点で読むにあたって、開催するイベントの対象者や規模・内容などを勘案しながら、「取り入れることのできる項目」を自主的に判断してください。いつもの活動に+αする気持ちで、積極的に実践することを望みたいです。
(このイベントガイドラインを全て適切に運営しているイベントはほぼ存在しないです。ですが、東京2020大会に向けて各地で取り組んだレガシーとして、イベントのユニバーサルデザイン化がより進むことを願って作成しました。このイベントガイドラインを読んで、行政や住民で公共施設等を考えるときに積極的な対話が生まれることも期待しています。)

なお、イベント企画・運営の順序に沿って作成したので、自身のイベントをイメージしながら、各段階において留意すべき内容について確認できるようになっています。

※東京2020オリンピック・パラリンピックに関するガイドラインの他、様々なガイドラインや基準等を調べたり、当事者や関係団体へのヒアリングを通して、「イベント運営」というかたちでまとめたものとなります。


1 企画

(1) イベント内容の企画

何らかの課題に対する手立てとしてイベントが存在しています。
イベントを企画していくにあたり、ステークホルダー(影響を受ける人たち)をできるだけ早い段階から明確化できるよう意識しましょう。例えば、その課題の当事者や支援者だけでなく、障がいのある人や高齢者、子ども、LGBT、外国人、近隣住民、関連の市民団体、行政、業界団体、企業など、様々な個人、団体、機関がステークホルダーとなり得るので、まずは視野を広げることが大事です。
企画段階から、ステークホルダーにできるだけ参画してもらい、意見を求めながら企画を進めることで、多様な参加の可能性への配慮だけでなく、イベントの影響をより多く受ける人がより満足する内容を目指すことができます。

(2) 会場の確認

会場でのスムーズな移動の確保はもちろん、その会場までの交通手段や周辺の環境にもバリアがないことを確認しましょう。
【会場の設備】
その施設が、すべての方にとって利用しやすい状況になっているかどうか、施設内外の動線を事前に確認しましょう。もし、案内表示の不徹底や、階段・段差などのバリアがある場合には、管理者に相談しながら手立てを用意する必要があります。事前に、関係団体などに利用しやすいかチェックしてもらうのも良いでしょう(特に視覚障がい等)。
また、参加者のための休憩スペースや車いす席、託児室などの設備も確認しましょう。
【周辺環境】
公共交通機関で会場に来るまでの経路を調べ、最寄りの駅・バス停などからの距離や分かりやすさ、歩道の安全性(段差や傾斜、視覚障害者誘導ブロックの有無など)について確認します。

(3) 改善

過去に開催した同様のイベントの反省点についての検討・改善もこの時点で行うと良いです。
特に、企画者に新規メンバーがいる場合には、客観的な視点も交えてふりかえるチャンスです。

2 広報・参加申込

(1) 広報の時期・方法・内容

イベントの開催前には、充分な周知期間をとり、開催日に向けて情報提供を随時行いましょう。
誰もが分かりやすいように、ポスター・チラシ・新聞などの活字媒体の他、テレビ・ラジオなどの電波媒体、点字、音声、インターネット、SNSなど、多くの伝達手段の利用が大事です。
例えば、インターネットは、視覚・聴覚・身体に障がいのある方にとって重要な情報源となります。人それぞれで利用している、あるいは、利用できる媒体は限られています。ですので、多様の伝達手段の活用を心がけましょう。

広報を行う際には、会場までの地図や、公共交通機関の案内、施設のバリアフリー情報、手話通訳者や要約筆記者、託児など各種サービスの有無と申込方法についても記載しましょう。

また、在住外国人をはじめ、より多くの方が読めるよう「やさしい日本語」を意識し、漢字とカタカナについては、ふりがなを振るとともに、カタカナ語や専門用語を避け、分かりやすい言葉を使うと良いです。文字の大きさや色彩、言葉使い(例:必要以上の丁寧な表現を避ける)など、見やすさ、わかりやすさへの配慮も大切です。
なお、やさしい日本語の「やさしい」は、語彙や文法のレベルが「易しい」ということ、相手にとって「優しい」ということです。

(2) 参加申込の方法・内容

事前に参加申込を受ける場合には、郵送、電話、FAX、メール、WEBのフォームなど、広報同様に受付の複数の手段への配慮も必要となります。
なお、申込不要イベントでも、当日急な要望に慌てることがないよう、各種サービス(手話通訳、要約筆記、音声ガイド、拡大文字・点字資料、補聴システム(磁気ループなど)、託児サービス、外国語通訳、車いす席、貸出し用車いすなど)のニーズを事前把握できるようにすることが望ましいです。

3 配布資料の準備

(1) 資料の作成

パンフレットなどの配付資料については、字の大きさやフォント、レイアウト、コントラストなど、わかりやすさ・見やすさを意識して作成しましょう。
【テキストの文字】
12~18ポイント程度のサイズで構成しましょう。
【文章の行間】
フォントサイズの少なくとも25~30%相当にするのが読みやすいとされています。
【フォントの種類】
装飾的な複雑なフォントを避け、UD仕様のゴシック体が良いです。

(2) その他の資料

関連する事業・イベントのパンフレットや会場周辺の駐車場案内図など、参加者が必要と思われる資料も用意しておきましょう。
また、市外からの参加者が多い場合などは、広域の情報マップなどを用意することも望ましいでしょう。例えば、国内旅行者も参加者として見込まれる場合にはターミナル駅、さらには訪日旅行者も参加者として見込まれる場合には新幹線駅や空港までの範囲で、簡易なマップを作成すると分かりやすいです。
作成したマップは、市民等の主催イベントでも活用できるため、HPなどでフリー使用可とし、多種多様なマップによる混乱を防ぐために共通化を図ることが望ましいです。
なお、行政が作成・公開しているマップがある場合、それを使っていくことが望ましいですが、稀なことです。地域のユニバーサルデザイン化を考えたときに、公共施設などの会場の管理者は、マップを適切に作成・公開する必要が本来あります。

また、外国人や特定の国からの参加がある場合、通訳しやすいよう「やさしい日本語」版、英語版、当該国の言語版の資料があると望ましいです。多言語対応の基本は、日本語・英語・ピクトグラムですが、やさしい日本語・プレーンイングリッシュ・ISO/JIS規格のピクトグラムの使用を心がけましょう。

4 設営

(1) 会場配置

すべての参加者に快適に過ごしてもらうために、わかりやすく安全な会場配置とし、余裕を持った通路幅(120㎝以上)を確保しましょう。なお、車いすの回転には、直径150㎝以上が必要とされています。一方通行の会場でない限り、車いすが回転できる場所も作りましょう。

展示物は、子どもや車いすの方でも見ることのできる高さに配置し、通路や誘導ブロックの上、消火器の前などに物を置かないよう注意しましょう。

照明については、光源が直接見に入らない配慮も必要です。特に、展示会場での強い光のスポットライトなどは、角度や方向に十分配慮しましょう。また、ステージイベントの際に、強い光のスポットライトを当てて体調を崩してしまう例も多くあります。事前に出演者とよくコミュニケーションとって確認しておきましょう。

また、温度・湿度の高い日の熱中症対策も必要です。環境省が「夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン」を出していますので、参考にしてください。

(2) 案内表示(サイン)

会場内の動線を確認し、正面入口やコーナー、分岐点、(距離が長い場合には)通過点などに見やすい大きさ・色で統一化された案内表示(誘導サイン)を設置しましょう。既存の表示がわかりにくい場合は、施設側の了解を得て、臨時の案内表示を配置し、初めてその施設に来た方も迷うことがないレベルで意識して作成すると良いです。
また、表示には、文字の他に、視覚に障がいのある方のための点字や、子どもや外国人でもわかるピクトグラムを併記するのが望ましいです。

誘導サインでは、「大きさ」「見やすさ」「分かりやすさ」に配慮しましょう。
「大きさ」という観点では、以下の表を参考にしてください。

国土交通省 「バリアフリー整備ガイドライン」より

「見やすさ」という観点では、コントラストがはっきりとした色彩を意識して作成しましょう。例えば「緑と赤」「水色とピンク」「オレンジと黄色」など、色の判別に困難を伴う色彩はNGです(灰色の道路に対し得て点字ブロックが黄色である理由は、コントラストもはっきりして、弱視者にとって最も見えやすい色だからです。)
「分かりやすさ」という観点では、直感的に情報を伝える工夫が良い。

【誘導サインの例】

【ピクトグラムの例】

ピクトグラム(案内用図記号)は、不特定多数の人に対して、「場所・もの」や「危険・禁止」を瞬時に情報提供できる直感性に優れた表現です。ピクトグラムの下には、日・英表記(例「案内 Information」・「お手洗 Toilets」)を添えることが一般的です。

ピクトグラムは、誰でも自由に使用でき、一般配布されているので積極的に採用しましょう。

なお、ピクトグラムの図記号は、ISO(国際)とJIS(国内)にて規格化されており、それ以外のピクトグラムを使用すると混乱を招くので注意が必要です。
参考までに、ほじょ犬・耳マークなどは国際的には認知度の低い図記号です。

(3)休憩スペース・託児室などの設置

【休憩スペース】
会場の利用しやすい場所に配置し、椅子などを備えましょう。あるいは、休憩したい人がいたときに、案内できる場所を確認しておきましょう。
【託児・授乳スペース】
子ども達が楽しく安心・安全に過ごすことのできるよう、託児スタッフと相談して、おもちゃや絵本、ビデオなどを用意するとともに、安全のために角があるものや倒れて危険なものは取り除くよう確認しましょう。
また、授乳スペースは、プライバシーのための仕切などを設け、授乳ケープなどを備品として準備することが望ましいです。
 【救護スペース】
横になって休むことのできるベッドなどを用意し、必要な医薬品・AEDを備えましょう。なお、AEDがない場合、近くの設置場所を必ず確認すべきです。

(4) 物品の調達

イベントの運営に必ず必要なものだけを購入すること=「リデュース(抑制)」が何よりのポイントです。
レンタルなどで十分な場合があるかもしれません=「リユース(再使用)」。
購入時には、イベント後の「リユース(再使用)」・「リサイクル(再利用)」ことまで考えて、できるだけ「ZERO WASTE=廃棄物0」になるように購入しましょう。グリーン購入法適合商品(環境負荷の軽減)、地産地消の地元の飲食物(フードマイレージの短縮)や地元企業からの購入(地元経済への貢献)を検討することで、「環境」「社会」「経済」のバランスを考えて持続可能性に配慮していくことができます。

5 運営

(1) 受付・案内

予めスタッフ全員で、会場内外の主要な設備の配置や、障がいのある方への対応の仕方などを確認し、問合せや介助などの要望に即時に応じることができるように心がけましょう。なお、スタッフは一見して運営スタッフであることが識別できる服装や目印(腕章・ネームプレート等)の着用など、だれにでも気軽に問合せができるような工夫があると良いです。

また、イベントの種類や規模に応じて、手話や要約筆記、外国語の対応(「やさしい日本語」、VoiceTraやGoogle翻訳などの多言語音声翻訳の活用や通訳者の派遣)や介助スタッフなど、対応すべきサービスを検討し用意しましょう。
会場内のアナウンスなど音声案内を行う場合には、「やさしい日本語」を意識した簡潔なわかりやすい表現が望ましいです。

(2) 託児

託児申込時に保護者名と子どもの氏名・年齢などを確認するのはもちろん、申込書の半券などでお迎えの際に保護者を確認するなど、子どもを安心して預けることができるようにしましょう。また、託児保険の加入も忘れずに。

(3) セキュリティ及び非常時の対応

イベント主催者として、多くの方をお招きしている以上、どのような参加者が集まるのか事前に想定・確認して、それぞれの方に合ったリスクマネジメントが必要となります。
スタッフ全員で、避難経路と誘導方法について確認しておきましょう。小さな子どもや高齢者、障がいのある方や日本語の分からない外国人の誘導についても予め分担などを決めておくことも必要です。

非常時には、状況や避難経路についてのアナウンスは音声だけでなく、聴覚に障がいのある方のために手話通訳や要約筆記でも案内が必要となります。

なお、非常時のアナウンスを行う場合には、「やさしい日本語」を意識した簡潔なわかりやすい表現を心がけ、重要な情報は繰り返すなど、確実にその情報が伝わるような配慮が必要です。

必要に応じて、看護師や保健師など、医療知識を有するスタッフの配置を検討しましょう。

(4) 講演会・セミナー形式の場合の配慮

【事前の準備】
参加者の負担を考え、プログラムが長時間に及ぶ場合は休憩時間を設けるなどの配慮が必要です。
講演などでスライドなどを使用する際には、文字の大きさやフォント、図表の見やすさに気を付けましょう。一般には、1枚に8行くらい、フォントは太いゴシック体が望ましいです。また、文字と背景色、図表の色彩のコントラストは、はっきりと見やすいものしましょう。 

聴覚に障がいのある方への情報提供として、手話通訳や要約筆記があります。どちらのサービスをつける場合にも、次第やシナリオ・原稿などを予め手話通訳者、要約筆記者へ提供するのはもちろん、会場での位置、機材のセッティング、作業スペースの場所などについて、事前に打合せを行いましょう。他にも、盲ろうの方や外国語を使う方への通訳手配など、そのイベントの内容や参加者を配慮し、より多くの方に参加いただけるサービスの提供を考えましょう。
【会場設定】
座席・机などの配置は、快適かつスムーズで安全な移動を確保するために余裕をもった配置を意識しましょう。
車いす席や、手話通訳を利用する方が来た場合にも、無理なく所定の位置へ案内できるよう、事前に動線や案内の仕方の確認が必要です。
【講演録などの作成】
講演の効果を増すためには、講演録(たより等への掲載も含む)の作成が大切です(作成にあたっては、著作権に注意)。
文字の大きさや字間・行間など、読みやすさに注意するとともに、インターネット上で公開することにより、当日不参加の方や、印刷物を入手できない方だけではなく、視覚に障がいのある方も音声読み上げソフトを使って講演などの内容を知ることができるようになります。

6 終了

(1)検証作業

企画者、運営者、協力者、参加者を対象にアンケートやヒアリングを実施するなど、より多くの意見を収集しましょう。
イベント内容だけでなく運営についても意見を伺えると良いです。

(2) ふりかえり

ふりかえりは、持続可能性の観点から大変重要なことです。主催者の成長に一番欠かせないことと言えます。
企画者、運営者、参加者の意見を広く集め、イベントの「良かったこと」「うまくできなかったこと」「改善できること」を明確にし、次の取組に活かせるよう記録を作成しましょう。 

ふりかえりの型の一つ

まず、イベント当日に、簡単でもいいのでふりかえり会を必ず開き、さらに、イベント当日からあまり間を空けずにふりかえり会を開催することが望ましいです。

「アウトプット評価」のみならず「アウトカム評価」が必要となります。参加人数やイベントでのサービスのみならず、参加者の意識の変化や社会の変化を評価しましょう。そのためには、何(予算、人など)を使ったかという「インプット」、どのようなイベント活動をしたのかという「アクティビティ」、どれだけ行ったか、回数、参加者、参加率などの「アウトプット」などを明らかにする必要があります。
評価を行うためには、はじめにイベントの社会的使命(どのような社会の変化を起こしたいか)、だれに向けて行うかを明確にしておく必要がそもそもあります。
そして、評価は自らの改善、自らの価値を引き出すことにつながる取組であり、評価内容を公表することでイベントの価値を高めることにつながります。
評価内容を誰に向かって示すのかも決める必要があります。評価は主催者のためであるとともに、社会への説明責任を果たすためのものでもあるからです。

(3) 報告

イベントに来られなかった人や次の取組のためにも、事業の概要、様子、実績及び成果などについて簡単にまとめて報告書やレポート記事を作成し、HPやSNS、会報誌などで広く公開できるよう努めましょう。
一般的には、イベント前の広報に力を入れる一方、イベント後の広報はあまりしないかもしれません。
しかし、イベント後に実績・成果を写真や動画などと共にプロモーションすることは、取組の魅力を高めるだけでなく、取組主体(主催者や出演者)の評価も高め、次回の取組のプロモーションともなり循環を生みます。


おわりに

私たちサステナブルタウンでは「地域に暮らす一人一人が環境・社会・経済にとって最良な選択を見つけられる”サステナブルな地域社会”を日本中にたくさん作る」ことをミッションに活動しています。

◆ まちづくり活動、生涯学習、社会教育、市民活動、地域共創
◆ イベント学(プログラム作成・運営ノウハウ等)
◆ 公共施設や都市計画のソフトづくり(地域共創のワークショップ)
◆ コーディネート、コミュニティ活性化、WS運営
◆ チラシ・ポスター作成
◆ ポートランドのまちづくり
◆ 観光・おもてなし
◆ 多文化共生
◆ 多言語対応
◆ やさしい日本語×多言語音声翻訳
◆ 東京2020オリンピック・パラリンピックとまちづくり
◆ SDGs
◆サステナビリティ
◆D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)
◆レガシー
◆男女共同参画 など

さまざまな分野にて、2012年より、全国各地にて、その地域の課題に合わせて講座や講演会の内容・方法を考えて取り組んできました。
学びの力でより良い社会づくりを目指す活動を行う専門家として、これからもご要望に応じて取り組んでいきます。


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