「正義執行」

 電車の中、目的地まで電車で揺られていた。携帯で古き良い懐かしい特撮アニメを見ていた。手作りのヒーロー衣装と悪役の着ぐるみ。CGが発展する今とは違い、粗があるがこれまた良かったりするのだ。

「あー面白かった」
 動画を終えて、イヤホンを外すと隣の車両から悲鳴が聞こえた。突然の事に前のめりになり、隣の車両を除いた。大勢の客からこちらに向かってくる。何事かと思っていると何人が衣服の一部が赤くなっているのが見えた。

 血だ。直感的に理解した。何かあったのだ。僕は怖くなり、さらに奥の車両に向かった。

 向かう途中、奥の車両から血まみれのナイフを持った男が見えた。

 あの男がこの騒動の元凶だ。隣の車両をよく見ると五、六歳程の小さな女が取り残されていた。女の子は怯えているのか。その場で泣き崩れて動かない。

 男が近づいていく。ゲームの選択肢のように二択の選択肢が脳裏に浮かんだ。少女を助けるのか。助けないのか。全身の血液が脳に行かんばかりに思考を巡らせて数秒後、僕は震える膝に力を込めて、一気に隣の車両に走った。

 女の子に襲い掛かろうとする男にタックルをした。タックルの勢いが強かったせいか、男の手からナイフが離れた。地面に倒れる男を取り押さえる。そして、何度も何度も頭を床に叩きつける。この男は許さない。死を持って償うべきだ。徐々に怒りが湧いてきた。その後から生暖かい殺意が脳内に溢れ始めた。

 正義を執行をしろ。脳の奥で誰かが叫んでいる。すると誰が僕を止めた。振り返ると二人の駅員が僕を押さえていた。電車は次の駅で止まっていた。そこから事情聴取を受けた。あの男は入院中で退院後に警察へ行くらしい。

 僕は無実は周りの乗客たちと女の子の証言により、証明された。ただ、今でも男を殴りつけた時に聞こえた声が耳にこびりついている。きっと僕はあの声を知っている。

 

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