「約束された平和」

 朝、目が覚めた。窓の外には青く美しい空が広がっている。上空の方をよく見ると黒い点が見える。ここから見える大きさから実物はもっと大きいんだろうな。

 テレビをつけて、ニュースを見た。  

「本日。エデンが起動して一年になります。国際連合が総力を上げて、作り上げた巨大要塞エデンが起動して以降、世界では犯罪や戦争やテロ事件の件数はゼロです。皆さん、この平和に感謝をしましょう」  
女性アナウンサーがにこやかでどこか気味の悪い笑みを浮かべる。

 すると危機感を焚きつける効果音と共にテロップが流れた。

「臨時ニュースをお伝えします。反エデン組織の動きが見られたとの報告が入りました!」

僕はそのニュースを目にした瞬間、すぐさま上空にあるエデンに目を向けた。 

 するとエデンから何かが飛び出ていくのが見えた。それは物凄い速度で飛んでいき、一瞬で視界から消えた。

 しばらくすると女性アナウンサーが話し始めた。

「たった今、報告が入りました。エデンから発射されたミサイルが見事、反エデン組織のアジトを破壊しました! これで世界の平和はまた一つ守られました」
 女性アナウンサーが拍手をする。その傍からも拍手が聞こえる。
 僕は驚愕した。あまりの問題解決能力の速さに驚いたのだ。 

 かつて世界から争いをなくすのは不可能だと言われていた。しかし、人類は実現したのだ。平和を。

 朝食を取ろうと冷蔵庫を開けたが何もなかった為、出かけることにした。

 近くのコンビニに行くとかつてアルコール飲料が置かれていた場所は別の品が陳列されていた。アルコールも平和の妨げだと国際連合が発表したのだ。

 娯楽に関しても争い、暴力を含んだものは禁止された。故に競争要素を持ったスポーツも禁止。博打や競馬などの公営ギャンブルも廃止となった。

 かつては飲み屋街と言われた場所はゴーストタウンと化していた。

 平和と引き換えに争いや対立に繋がるもの。

 それらが排除されたのだ。平和だ。何とも平和だ。

 ただ、僕だけだろうか。この日常に違和感を覚えているのは。そして、この平和が崩壊した際の世界の行く末に怯えているのは。
 
 

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