「半端な傍観者」
週末の電車の中、僕は揺られていた。岩石を背負ったような重さを体に感じながら、座席についていた。すると電車が次の駅で止まった。途端に車両内がうるさくなった。よく見ると二人の若者が大声で話しながら、入ってきた。
若者達は席につくなり、大股を開けて耳障りな声で話し始めた。
二人の見た目は派手そのもの。見るからに柄の悪そうな人間だったのだ。他の人間は皆、携帯を触ったり、眠ったふりをしたり、見て見ぬふりをする事なかれ主義を貫いていた。
彼らの気持ちはわかる。注意して絡まれるとめんどくさいし、暴力行為をされる可能性だってあるのだ。
うるさい。この上なくうるさい。すると近くにいた赤ん坊が泣き始めた。
「っち うるさいな」
若者の一人がはしゃぎ始めた。若者の言葉が影響したのか、さらに赤ん坊が拍車をかけた。
泣き喚く赤ん坊。若者の顔色を伺いながら、必死にあやす母親。再び、大声で話す若者。
僕は意を決して立ち上がり彼等を止めようとした時、電車が次の駅に着いた。
突然,男達が黙った。背の高い屈強な男が一人、乗車してきたのだ。長身かつ筋骨隆々。まさに男オブ男のような存在が来たのだ。
男は若者二人の前にゆっくりと進んでいく。男は若者二人の前に立って、居座り続けた。きっと彼に他意はない。二人は借りてきた猫のように黙ってしまった。
なんて惨めなのだろう。なんて愚かなのだろう。でもそれと同等に虎の威を借る狐のような僕もまた、惨めで愚かなのだろう。