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月面重力下におけるマウスの筋肉の量と質の変化

📖 文献情報 と 抄録和訳

月面重力はマウスの骨格筋の萎縮を抑制するが、筋線維タイプのシフトは抑制しない

📕Hayashi, Takuto, et al. "Lunar gravity prevents skeletal muscle atrophy but not myofiber type shift in mice." Communications Biology 6.1 (2023): 424. https://doi.org/10.1038/s42003-023-04769-3
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[背景] 米国が中心となった有人月探査「アルテミス計画」が進められるなど、人類が再び月を目指す新時代の幕が開けようとしている。人類が宇宙に進出する際に克服しなければならない問題の一つが、宇宙空間や月面における重力負荷の低下による生体への影響である。これまでの研究で、骨格筋(筋肉)の中でも、ヒラメ筋は宇宙での微小重力環境で萎縮と筋線維タイプの速筋化が生じることが分かっているが、微小重力と1Gの間の重力環境(パーシャルG)でどのような変化が生じるかはわかっていなかった。

[方法] 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と筑波大学の研究チームは、JAXAが開発した微小重力から1Gまでの人工重力環境下でマウスを飼育できる世界で唯一の装置(可変人工重力研究システム:MARS))を用い、国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟でマウスを3 種類の重力環境下(微小重力、月面重力=1/6G、地球上重力=1G)で約1カ月間飼育し、姿勢の保持に働く筋肉(抗重力筋)であるヒラメ筋の量と質の変化を解析した。

[結果]

①量的変化:微小重力下では、地球上や人工地球重力下(1G)と比べて筋重量や筋線維断面積が減少して筋萎縮が見られた。対して月面重力下では、1Gの場合と同程度で筋萎縮は引き起こされていなかった。
②質的変化:微小重力下で起きている速筋化と比べて、月面重力下ではその程度が低かった。しかし、地球上や人工地球重力下(1G)と比べれば速筋化が生じていた。

[結論] 重力負荷によって制御されているマウス骨格筋の恒常性は、質的と量的にそれぞれ別の重力閾値によって制御されていることを世界で初めて明らかにした。本研究成果から、宇宙飛行が骨格筋に与える影響のメカニズムを明らかにし、サルコペニアを含むさまざまな筋疾患に対する予防・治療法の確立が期待される。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

地球は人類のゆりかごである。
しかし人類はいつまでもこのゆりかごに留まってはいないだろう。

コンスタンツィン・E・ツィオルコフスキー (1857-1935)

まさに、この言葉の通り。
人類は地球というゆりかごから、少しずつはみ出そうとしている。
そして人類が周到なところは、慎重に実験しながら地球外に足を踏み出そうとしているところだ。

今回の研究は、重力量と筋の量/質の変化を調査し、質的変化の方が変化を起こしうる重力量の閾値が高いことを明らかにした。
これを、地球上にいる僕が読んで感じたことは、やはり荷重刺激が加わることは重要、その量的な大きさも筋の質を保つためには重要、ということ。
宇宙で分かったことを、地球で生かしたい、今のところは。

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