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宇宙での運動。強度が骨合成に重要かも

📖 文献情報 と 抄録和訳

長期宇宙飛行から帰還後1年における脛骨遠位部の骨強度および海綿体微細構造の不完全な回復に関する研究

📕Gabel, Leigh, et al. "Incomplete recovery of bone strength and trabecular microarchitecture at the distal tibia 1 year after return from long duration spaceflight." Scientific reports 12.1 (2022): 1-13. https://doi.org/10.1038/s41598-022-13461-1
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🔑 Key points
- 宇宙飛行中に抵抗運動(デッドリフト)の回数を増やすことが、骨減少の抑制に役立つ可能性のあることが明らかになった。
- 今回、さまざまな国の宇宙飛行士17人を対象とした小規模な研究が行われ、帰還から1年後の時点で、脛骨が部分的に回復したが、解消されなかった骨減少があり、通常の加齢に関連した骨減少の10年分に相当することが判明した。

[背景・目的] 3か月以上にわたる宇宙飛行を終えて帰還した宇宙飛行士の場合、地球上での1年間の生活を経ても骨が十分に回復していないことを示す徴候が見られることがある。長期宇宙飛行後の骨回復の程度を明らかにすることは、宇宙飛行士の長期的な骨格の健康に対するリスクを理解する上で重要である。

[方法] 我々は、17名の宇宙飛行士(男性14名、平均年齢47歳)の骨強度、密度、微細構造を、高解像度周辺定量コンピュータ断層撮影法(HR-pQCT、61μm)を用いて検討した。宇宙飛行前、地球帰還時、6ヶ月および12ヶ月の回復後に脛骨と橈骨を撮影し、骨回転と運動のバイオマーカーを評価した。

[結果] 飛行12ヵ月後、脛骨骨強度(F.Load)、全骨密度、皮質骨密度、海綿骨密度(bone mineral density: BMD)、海綿骨体積率、厚さのグループ中央値は飛行前と比較して-0.9~-2.1%減少したままだった(p ≦ 0.001)。長期ミッション(6ヶ月以上)の宇宙飛行士は、骨の回復が不十分であった。例えば、F.Loadは飛行後12ヶ月までに、短いミッション(6ヶ月未満、中央値で-0.4%の欠損)の宇宙飛行士では回復したが、長いミッション(-3.9%)の宇宙飛行士は回復しなかった。総骨密度、海綿骨密度、皮質骨密度について同様の格差が認められた。合計すると、17人の宇宙飛行士のうち9人は、12ヵ月後に脛骨の総BMDが完全に回復していなかった(通常の加齢に関連した骨減少の10年分)。回復が不完全であった宇宙飛行士は、骨が回復した宇宙飛行士と比較して、骨回転のバイオマーカーが高値であった。

■ 実施・調査された運動(デッドリフト、ランニング、サイクリング、スクワット、ヒールレイズ)とBMD
- 宇宙飛行後に脛骨のTt.BMDが回復した宇宙飛行士は、Tt.BMDが回復しなかった宇宙飛行士と比較して、飛行中のデッドリフト量(飛行中の反復回数と飛行前の反復回数)が有意に増加した(回復グループによる時間の相互作用:p = 0.05)
- Tt.BMDが回復した宇宙飛行士では、デッドリフト量の中央値が飛行前から飛行中にかけて63回/週(飛行前25回/週→飛行中88回/週)増加したが、Tt.BMDが回復しなかった宇宙飛行士ではデッドリフト量の中央値は22回/週(80→58回/週)減少していた。
- ランニング、サイクリング、スクワット、ヒールレイズ量のいずれも、骨の回復とは関連がなかった。

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✅ 図. 飛行前、飛行中、6ヶ月後(R+6)、12ヶ月後(R+12)の骨量回復に対する運動量の関係。

[結論] 本研究の結果は、体重を支える脛骨の骨強度、密度、海綿状微細構造の不完全な回復を示唆しており、地上での加齢に伴う10年以上の骨量減少に相応するものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

今回の論文の題名を見たとき、すごく違和感を覚えた。
「宇宙でデッドリフトって、どうやるの?」という。
調べてみたら、宇宙での運動方法がいろいろあることがわかった。

■ 宇宙でトレッドミル

■ 宇宙で筋力トレーニング

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✅ 図. CAPEによるアシスト運動モード。(a) ベンチプレス、(b) ディープスクワット、(c) デッドリフト、 (d) ヒールレイズ。
📕 Li, Lailu, et al. Machines 10.5 (2022): 377. >>> doi.

なるほど、このように宇宙での運動が可能になるわけだ。
次に疑問に思ったのは「なぜデッドリフトだけ?」というもの。
運動はランニング、サイクリング、スクワット、ヒールレイズとそのほかにもあったのに、なぜデッドリフトだけ効果が出たのだろう。
予測されるのは、「負荷強度」だ。
デッドリフトはその他運動に比べると、骨に加わる圧縮力が大きくなりそうな感じがする。
そもそも、骨合成を引き起こす骨細胞の活性化は荷重による細胞外液の液流がトリガーとなる。

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✅ 図. 骨への力学的負荷により生ずる骨細胞に対する液体剪断応力(FSS fluid shear stress)骨に対する力学的負荷は,主に骨細胞により骨細管内(もしくは骨小孔) の細胞外液流の変化に基づく fluidshear stress; FSSとして感知される.(📕井上, 2016 >>> site.)

そのため、荷重負荷が少なければ、骨細胞活性化の閾値に届かず、BMDに影響を及ぼさないことは納得できる。
骨強度を高めるためには、運動による『骨負荷の強度』が重要なのかも知れない。実際、骨切モデルを用いた研究において、荷重量が小さすぎると骨合成が促されないことが明らかになっている。

宇宙での運動は、重力ではなく『張力』で負荷をつくり出していた。
改めて、重力以外の外力もあることを実感した。
宇宙という極端な環境は、たくさんのことを教えてくれる。

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