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宇宙が宇宙人をつくる。宇宙という環境に適応した脳

📖 文献情報 と 抄録和訳

長期宇宙飛行後の宇宙旅行者における脳構造コネクトメトリーの変化

Doroshin, Andrei, et al. "Altered Brain Structural Connectometry in Space Travelers after Long-Duration Spaceflight." Frontiers in Neural Circuits: 6.

🔗 DOI, Google Scholar, NewsWeek(日本語)

✅ 前提知識:拡散の異方性(diffusion anisotropy)とは?
- 方向によって拡散の速さが異なるという性質のことである.
- 脳白質や脊髄のような線維の方向が水分子の運動を制限する構造においては,神経線維に沿った方向の拡散は速く,神経線維と直行する方向の拡散は遅い方向による拡散の速さの差が大きいことを,異方性が強い(anisotropic)と表現する。
- 😊 すなわち異方性が増加 → 神経線維の構築、と捉えていいのだろうか・・・(誰かわかる人いたら教えてください泣)。
📕 坂本真一, 他. 脊髄外科 29.3 (2015): 279-286. >>> doi.

[背景・目的] 人間は長時間の無重力状態に置かれると極端な生理的変化を起こす。今後、宇宙へ進出する人類にとって、脳を含む人体で起こる生理的変化を十分に理解することが不可欠である。本研究では、拡散磁気共鳴画像法(dMRI)データに基づいて、長期宇宙飛行に伴う脳の構造変化に関する知見を示す。

[方法] 国際宇宙ステーション(ISS)に平均6ヶ月滞在した12名の宇宙飛行士を対象に、飛行前、飛行10日後、飛行7ヶ月後のフォローアップ時にMRIスキャナーで撮影した。白質繊維の追跡を微細構造の変化を示すボクセルに限定して行う手法である差分トラクトグラフィを行った。

[結果] 左右の大脳半球を結ぶ神経線維の集合体「脳梁」、側頭頭頂接合部の後部と脳の前頭皮質を結ぶ「弓状束」、大脳皮質から脊髄に至る神経経路「皮質脊髄路」、大脳皮質下の「皮質線条体路」など、複数の白質路で有意な微細構造変化が見つかった。

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✅ 図1. 飛行後-飛行前の変化に関連するトラクト
異方性が増加:中小脳帯、小脳帯、脳梁(FDR = 0.0033)
異方性が減少:前頭葉、脳梁、小脳(FDR = 0.0009)
青色は上-下を示す。緑色は前方-後方。赤は左-右を示す。

また、地球への帰還から7カ月後も、これらの変化がまだみられた。

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✅ 図2. 飛行後のフォローアップマイナスの変化と関連するトラクト
異方性が増加:小脳鉗子、脳梁、皮質脊髄、右稜鞘(FDR = 0.0567)
異方性が減少:大脳鉗子、脳梁、頭頂葉
青色は上-下を示す。緑色は前方-後方。赤は左-右を示す。

[結論] 本論文は、長期宇宙飛行後にどの白質路が構造変化を示すかをファイバー・トラクトグラフィーで調べた初めての論文であり、これらの白質路に関連する脳機能・行動変化を調べる今後の研究の方向性を示すものと考えられる。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

環境が人をつくる。
どうやら、この金言の適応範囲は、地球上にとどまらないらしい。
宇宙という環境は、人の脳構造を200日後にも残る程には、強固に改造した。
ここから、以下のようなことが示唆されるのではないか?

宇宙人という存在があらかじめいるのではなく、
宇宙という環境が、適応的に宇宙人をつくる

このとんでもなくマクロな一文を、日常生活にも生かしたい。
翻訳すると、「環境が適応的に存在をつくる」

たとえば、「頭がよくなりたい」という願望をもった若者がいるとしよう。
この原則を理解していない場合、その若者は、意志的に勉強しようとするだろう。つまり、1人で机の前で頭を抱える時間を増やそうとする、ということ。
一方、この原則を理解している場合、その若者は、「頭がよくないといることができない環境」を選択するだろう。つまり、東大にいく、ということや、超ハイレベルな研究室に所属する、ということなど。
前者は、はじめの数日は調子がいいかもしれない。だが、意志力が途切れるなど、機能需要の頻度にはムラが生じやすい。また、自分の頭で考えた以外の刺激が加わりにくい。
後者は、辛いだろう。常に自分の実力以上の機能需要が重圧のようにのしかかり続ける(環境圧力)のだから。そして、機能需要は重力のように加わり続け、自分の頭で考えた以外の刺激が、周囲のハイレベルな人々からもたらされる。
結果的に、後者の方が意志的にではなく勝手に頭が良くなる

宇宙が教えてくれたことから、日常生活においても環境を信奉しようと思った。

何者かになりたいなら、
何者かになろうとするのではなく、
何者かにならざるを得ない環境を選択せよ
そこからは環境の仕事、安心して任せるがいい

copellist
「人間はな」
店舗と同じだ、と継之助はいった。
場所が大事である。
人の集まる目抜き通りに店を出せば繁盛するように、古賀塾におれば学問はせずとも自然に耳目が肥える。
田舎で三年懸命に学問するよりも、京で昼寝をしているほうが、はるかに進歩するという。

「峠(上)」P. 425

⬇︎ 環境圧力・変化の順番が考察に登場する、関連note ✨

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【あり】最後のイラスト

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