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天候と痛みは関係します。

📖 文献情報 と 抄録和訳

天候に耐えることと痛みに耐えること:同じコインの表と裏?トロムソ研究7

Farbu, Erlend Hoftun, et al. "To tolerate weather and to tolerate pain: two sides of the same coin? The Tromsø Study 7." Pain 163.5 (2022): 878. https://doi.org/10.1097/j.pain.0000000000002437

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 天候が痛みに影響を与えるというのは一般的な考えである。そこで我々は、天候が痛み耐性に影響を与える可能性があると仮定した。これまで、天候と痛みの関連性を調査した報告は結果にばらつきが見られるが、その要因の1つが「自己申告による痛み」をアウトカムに用いていること。この方法は天候と健康の関連性に関する参加者の信念に影響される可能性がある。定量的な感覚検査がなされるべきである。

[方法] この研究では、Tromsø Study 7に参加した一般集団の40歳以上の18,000人以上の被験者のデータを使用した。彼らは、カフ・アルゴメトリーによる圧痛耐性(PPT)と冷痛覚耐性(CPT)の評価を1回だけ受け、冷圧テストによるテストを行った。

[結果] その結果、CPTには明らかな季節変動が見られた。2016年1月と比較して、暖かい時期の月では、冷圧テストにおける離脱率が最大で75%高くなった。PPTには季節変動は見られませんでした。本研究では、PPTの非ランダムな短期変動だけでなく、CPTにもそのような変動があることを示唆する結果が得られました。PPTのこの短期変動の固有タイムスケールは5.1日(95% %信頼区間4.0-7.2)であり、これは気象変数の観測タイムスケールと同様であった。圧痛耐性とCPTは気象変数と相関し、これらの相関は時間の経過とともに変化した。最後に、気温と気圧はPPTの将来値を予測した

[結論] これらの知見は、天候が痛覚耐性に因果的かつ動的な影響を与えることを示唆しており、天候が痛覚に影響を与えるという通説を支持するものである。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

今回、長いです。長いですが、重要だと思ってます。
ぜひ、お付き合い願います。
そして、意見をいただけたら嬉しいです。

患者:「今日は雨が降るね」
セラピスト:「なぜですか?」
患者:「私の膝が痛いから。この天気予報がよく当たるんだよ」

臨床現場において、あるある会話ではないだろうか。
実際、「バイオウェザー天気予報(Bioweather)」というものがある。
これは、たとえば関節痛について、「東京は引き起こしやすいでしょう」など生体情報についての天気予報である(🌍 参考サイト >>> site.)。

スクリーンショット 2022-05-21 7.50.13

あるいは、

患者:「今日は膝が痛いね」
セラピスト:「天候の影響でしょうかね」
患者:「そんなものかね。そうかもね」

さて。
このような会話をしておいて、真にその関連性に自信を持っていただろうか。
さらに、その仕組みについて一定以上の理解をもって、患者への神経生理学的教育をしていただろうか。
今回抄読した論文は、自己申告というモヤっとした疼痛報告ではなく、定量的な測定手法によって明らかに天候と疼痛が関連することを示した
まず、関連性には自信をもって良い、その根拠となる論文の1つだ。
では、その背景や仕組みとなると、どうだろうか。
ミニレビューを以下に示す。

✅ 天候と疼痛の関連についてのミニレビュー
■ 背景
- 気温、気圧、湿度などの天候または天候の構成要素が、痛みのエピソードを引き起こしたり、悪化させたりするというのが一般的な考えである(📕Mackensen, 2005 >>> doi.)。
- どんな疼痛が天候と関連するか:この効果は、変形性膝関節症の関節痛(📕Timmermans, 2014 >>> doi.)、筋骨格系の慢性疼痛(📕Beukenhorst, 2020 >>> doi.)、頭痛・偏頭痛(📕Maini, 2019 >>> doi.)などについて報告がある。
- どのような天候が疼痛を引き起こすか:慢性疼痛患者は、平常以下の気圧、高い降水量、平常以上の相対湿度、強い風を特徴とする日に最も多くの疼痛を経験した(📕Schultz, 2020 >>> doi.)。
■ 天候が疼痛に影響を及ぼすメカニズム
- 適応:寒さに対する熱感覚の慣れは 寒さに対する熱感覚の慣れが最初に起こり、その後、心血管系、代謝系、内分泌系の反応が続く。繰り返しの寒冷刺激を中止すると、適応は徐々に消失する。生理的寒冷適応の機能的意義は不明であり、反応の中には有害で寒冷外傷の素因となるものさえある(📕Makinen, 2010 >>> pdf.)
- 血圧上昇、血液粘度上昇などの生理的反応:24℃の移動空気中での6時間の穏やかな表面冷却は、芯温の低下をほとんど伴わず(0.4℃)、パックセル体積を7%増加させ、血小板数と平均血小板体積を増加させて、血小板が占める血漿体積の割合を15%増加させることが示された。(📕Keatinge, 1984 >>> doi.)。
- 遺伝子発現における適応:寒さと痛みに対する受容体である一過性受容体電位メラスタチン8(TRPM8)の遺伝子発現における適応が報告されている(📕Denissen, 2008 >>> doi.)。
- ホメオスタシスが侵された時に生じる疼痛『ホメオセプション』:痛みは、従来、体性感覚系における収束的な活動パターンであると考えられてきた。しかし、機能的、解剖学的、画像的知見から、痛覚は中枢の恒常性維持のための求心性経路にある特定の感覚チャネルによって発生することが分かってきた(📕Craig, 2003 >>> doi.)。
- 精神状態→疼痛耐性への影響:抑うつ気分のグループは、ニュートラルなグループに比べて、コールドプレッサーの耐容時間が有意に短く、痛みのカタストロフィー化得点が高かった。(📕Willoughby, 2002 >>> doi.)。

ミドルレビューくらいにはなってしまった。が、こんなにも調査されてきた領域だとは知らなかった。
さて、大事なことは、その道を知ることではなく、歩くことである。
現実を、どう変えるか?
次の会話をもう一度見ていただきたい。

患者:「今日は膝が痛いね」
セラピスト:「天候の影響でしょうかね」
患者:「そんなものかね。そうかもね」

この次の瞬間に、帰路があると思っている。
ここに「神経生理学的教育」を叩き込むのだ。
神経生理学的教育とは、その疼痛の仕組みを神経生理学的な側面から患者に説明し、教育することで疼痛への不安を減少させ、疼痛に対する破局的な思考や慢性疼痛・心因性疼痛への移行を防ぐ介入である。
まさに今回抄読の論文と同じ号に、理学療法士が慢性疼痛者に神経生理学的教育を行うことが疼痛自己効力感の有意な改善を示した論文が報告されていた(📕Lane, 2022 >>> doi.)。
どう叩き込むか。以下に、例を示す。

セラピスト:「天候の影響でしょうかね。」
患者:「そんなものかね。そうかもね」
セラピスト:「実際、バイオウェザー天気予報という、生体情報に基づく天気予報まであるほどなんですよ。最近の研究でも、明らかに関節痛と天気や気圧が影響することが証明されてるんです。」
患者:「へぇ。でもさ、なんでなんだろうね」
セラピスト:「今のところ、血液のドロドロ具合が変わることや、快適な気温からの逸脱が大きいことを痛みとして感じることなどが知られています。遺伝子発現まで変わるとも言われています。それくらいミクロな部分まで、明らかな変化があるということですね。あとは、やっぱり天気が悪いと気持ちが落ち込むじゃないですか。すると痛く感じやすい、ということがあるようです」
患者:「そっか。じゃあ、雨で気温が低い今日、痛いのも当然かもね」

この会話の最後、「そっか。じゃあ、雨で気温が低い今日、痛いのも当然かもね」と思ってもらえるか、そこに楽観的になってもらえるか、それが重要と思う。
ミクロな波は、いつも僕たちに訪れる。
その波は、外的要因による一過性のもので、打ち寄せたり、引いたりする。
それに右往左往しないこと。忙殺されないこと。
そのためには、根をもった知識がいる。
ぼんやりとした、不安の蓄積を防ぐこと。
これは、患者の疼痛管理にとって非常に肝要なことだろう。
なぜって、慢性疼痛と不安は環状に連鎖していて、放っておくとヒートアップして止まないから。

なんか、つながってきた。
とにかく❗️
神経生理学的な背景の説明や教育によって、不安の雲を晴らせるかもしれない。
この会話パターンは、しっかり頭に刻んで、繰り返し実践することで身につけよう。

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