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量 Does。脳卒中者の歩行改善に重要なもの

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中の入院リハビリテーションにおけるステップトレーニングの量と強度を増やすと、歩行運動と非歩行運動のアウトカムが改善される

📕Henderson, Christopher E., et al. "Increasing the Amount and Intensity of Stepping Training During Inpatient Stroke Rehabilitation Improves Locomotor and Non-Locomotor Outcomes." Neurorehabilitation and Neural Repair (2022): 15459683221119759. https://doi.org/10.1177/15459683221119759
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[背景・目的] 脳卒中後の運動機能障害や活動制限をターゲットにした複数の運動を行うなど、従来のリハビリテーション介入による運動機能改善効果は不明である。むしろ、より高い心血管系強度でステップ練習を優先する試みが、より大きな運動機能の成果を促進する可能性があることを示す新たなエビデンスも出てきている。目的:本研究は、脳卒中後の入院リハビリテーションにおける高強度トレーニング(high-intensity training, HIT ※今回の研究の場合歩数を指しているためどちらかと言えば『Does』だと思われるが)の通常ケアとの比較効果を評価するために企画された。

[方法] 9ヶ月間の通常ケア(n=131、脳卒中後2ヶ月未満)、18ヶ月間のHIT実施への移行期(n=317)、HIT実施後12ヶ月間(n=208)の歩行活動および機能的転帰の変化を比較検討した。移行期は、教則と実地教育から始まり、会議、指導、監査とフィードバックが継続された。忠実性の評価指標には、歩行への介入を優先したセッションの割合や強度の記録などが含まれた。人口統計学、トレーニング指標、およびアウトカムを、線形またはロジスティック回帰分析、クラスカル・ワリス検定、またはχ2分析を用いて各フェーズ間で比較した。

[結果] すべての段階において、バランス(通常ケア>HIT)を除き、入院スコアは類似していた(P < 0.02)。HITでは、移行期や通常ケアと比較して、歩数を優先し、目標強度を達成するよう努力することで、歩数が増加した(P < 0.01)HITでは,10m歩行[HIT中央値=0.13m/s(四分位範囲:0-0.35) vs 通常ケア=0.07m/s(0-0.24),P = .01]および6分歩行[50(9.3-116) vs 2.1(0-56)m, P < .01]が向上し,さらに移動と段差昇降の改善もみられた.

[結論] HIT中に歩行を優先し、より高い強度に達するよう努力することで、1日あたりの歩数が増加し、歩行および非歩行のアウトカムに大きな利益がもたらされた。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

今回は、会話調に考察を進めてみる。
しばしば、僕が新入職員や実習生と交わす会話だ。

「ねぇ、唐突に聞くんだけど、リハビリを実施する上で、一番大事なことは何だと思う?これには、たくさんの回答があるだろうし、絶対的な回答はないだろうと思うんだけど。どう思う?」

回答例1「うーん。代償運動を防ぐことですかね・・・」
回答例2「患者さんの意欲を高めることだと思います!」
回答例3「転倒させない、という事でしょうか・・・。」

「そうだね。そのどれもが、とても大事な事だよね。」

「SuperHumanさんは、何だと思うのですか?」

「・・・。(十分に間をタメてから)『量』。量、だよ。」

(青天の霹靂、天才を眺めるような視線)「量、ですか。」

「そう、量だ。極端な例を考えてみよう。たとえば、徒手系の強烈な信奉者は、とても『質』を大事にする。その1回の立ち上がりを、完璧なものにしようとする。絶対に代償運動を許さない。そのために、整えて、つなげて、・・・。準備にとても多くの時間をかける。そして、たった1回の完璧な立ち上がりが実現される。そして、どうなると思う?そこで、リハビリが終了になるんだよ。で、振り返ってごらん。客観的にみて、何回の立ち上がり動作をした?」

「1回、ですか?」

「そう、1回だ。ここで、根源的な仮説を立ててみよう。そもそも、身体の増築や解体って、何が規定していると思う?『需要』だよ。ああ、この機能はよく使われていて必要度が高いから、増築しましょう。しばらくこの機能は使われていないから、解体しましょう、って感じで。その増築と解体が逐一行われ続けているのが、人間の身体であったとしてさ。1回の立ち上がり、これ、身体の意思決定者に『必要度』が響くと思う?」

「1日1回では、響かなそうですね」

「そうだよね。たった1回ではね。筋トレだって、1回で終わるものは少なくて、8-20回くらいはするじゃん。これ、力学的負荷が1回では身体に響かないからだと思うんだよ。」

「なるほどです!」

「さらに、『量質転化』、という考え方もある。たくさんの量をこなすと、質も自動的に上がっていく、という考え方のこと。ところで聞くんだけど、昔さ、自転車に乗れるようになったとき、1回で乗れるようになった?」

「いいえ。何度も転びながら、何度も乗って、あるとき、自然にできるようになってました」

「そうだよね、“そういうもの” なんだよ、きっと。そして、それは他者によって望ましい完璧な形を誘導されたから覚えたわけではない、と思うんだ。自分の中で、ハンドルをこうすると、転ぶ、ああすると、転ばない。とか勝手に自己組織化されていった結果。そこには、相当間違っていない限り、他者からの言語的、身体的誘導は必要ないんじゃないかと思っているんだ」

「『量質転化』、かっこいい言葉ですね。多用します!」

「どうぞ。まあとにかく、質が大事、それも分かる。でも、ピラミッドのより底部にあるのが『量』であることは、最近のエビデンスから見ても、間違いのないことだろうと思う。なんといっても、量だ。その上に、質がある。君は、これから色んなことを勉強していくと思う。その中で、何を信じるか、何を選択するかが、とっても重要になる。その視点の1つとして、『量』が重要かもしれない、と思ってもらえたら嬉しいし、その背景にある人間の最適化の原理や、量質転化の理論を知って、心から納得してもらえたら最高に嬉しい。あくまでも、選ぶのは、君だ。これから先、出会うものすべてに、君自身の心や頭のフィルターを通して、真に納得したものを選び、君自身の中に建築していってほしい。期待しているよ。とてもね。」

実習生がたった1回見学に入ったとき、スーパーバイザーでもないのに、こんな膨大で、根源的で、哲学的な説明をする僕を、実習生は宇宙人を見たような目でみる。

人生は、たった一回の挑戦で変えられるわけがない
アンソニー・ロビンズ

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