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筋骨格系障害への介入における部位特異的 vs. 一般的

▼ 文献情報 と 抄録和訳

脊椎および末梢の筋骨格系障害の管理における部位別エクササイズと一般的なエクササイズの比較。無作為化比較試験のメタアナリシスを含むシステマティックレビュー

Ouellet P, Lafrance S, Pizzi A, Roy JS, Lewis J, Christiansen DH, Dubois B, Langevin P, Desmeules F. Region-specific Exercises vs General Exercises in the Management of Spinal and Peripheral Musculoskeletal Disorders: A Systematic Review With Meta-analyses of Randomized Controlled Trials. Arch Phys Med Rehabil. 2021 Nov;102(11):2201-2218.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:用語の定義
● 部位特異的な介入:主症状部位の特定の筋組織および/または動的筋群の安定化または特定の動作をターゲットとした運動と定義された。方向性選択運動(McKenzie)、身体の特定部位の強化、および/または、ターゲットとする固有感覚/バランスを含む運動など。
● 一般的な介入:特定の身体部位を目的としない、または調整された一般的な運動アプローチと定義。有酸素運動(歩行および/またはサイクリング)、ヨガ、太極拳、ピラティス運動法、および/または一般的な抵抗運動など

[背景・目的] 成人の脊椎・末梢筋骨格系障害者を対象に、部位別のエクササイズと一般的なエクササイズの効果を比較する。

[方法] データソース2020年4月までにMedline, Embase, Cochrane Central Register of Controlled Trials, Cumulative Index to Nursing and Allied Healthで電子検索を行った。研究の選択様々なMSKDを持つ成人を対象に、一般的なエクササイズアプローチと比較した部位別エクササイズの有効性に関する無作為化対照試験(RCT)。データの抽出ランダム効果逆分散モデリングを用いて、平均差および標準化平均差を算出した。

[結果] 18件のRCT(n=1719)を対象とした。コホートは、慢性的な頸部(n=313)または腰部(n=1096)と変形性膝関節症(n=310)の参加者で構成されていた。データ統合短期的には低質なエビデンス、中長期的には非常に低質なエビデンスに基づいて、脊椎疾患や膝のOAを持つ成人の痛みや障害の軽減に関して、部位別のエクササイズと一般的なエクササイズの間に統計的に有意な差は認めなかった。頸部・腰部障害の短期的な痛みの軽減に関する二次解析では、非常に低質から低質のエビデンスにより、統計的に有意な差は報告されなかった

[結論] 部位特異的なエクササイズと一般的なエクササイズのアプローチでは、治療効果の違いは依然として不明確である。非常に低質から低質のエビデンスによると、脊椎障害を持つ成人の痛みの軽減や障害に対して、両タイプの運動アプローチには差がないようである。将来の試験によって現在の結論が変わるかもしれない。膝OAを含む他の末梢性筋骨格系障害については、一般的な運動と比較して、部位特異的な運動についてさらなるエビデンスが必要である。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

これは、理学療法士としては事件的論文だと感じた。
理学療法士が思い描くかっこいい、すごいとは、以下のようなものだろうと思う。
「うむ、この評価結果からして、ここが原因に違いない。じゃ、介入Aを。ほら、よくなったでしょ。」
鋭く原因の鍵穴をピッキングし、適切な鍵を見つけ、改善の扉を開ける。
そして、狙い澄ましたように「ほら、よくなったでしょ」である。
この考え方は、今回の論文でいえば「特異的介入」に該当するであろう。
それが、別段狙い澄ました目的を持たない「一般的介入」に比べて優れなかった。

いろいろ思うところはあるが、とくに量と質の考え方が重要なのではないか。
特異的介入は、どちらかといえば「質」の介入だと思う。
スクワットでいえば、「いかに完璧なフォームで1回をこなすか」を指導する。
一方、一般的介入は「量」の介入だ。
スクワットでいえば、「とにかく1日20回×3セットやりましょう」と指導する。
極端な例だが、上記のどちらが重要だろう?、効果的だろう?

身体機能・身体構造に影響を及ぼしうるのは、おそらく後者だ。
たった1回のスクワットでは、それがいかに完璧なフォームだったとしても、身体には響かない。
だが、20回×3セットのスクワットは、フォームが多少ばらつきがあっても、関節や筋肉に相応の力学的負荷『量』が加わり、筋、関節構造体、代謝など、さまざまな側面が強化される
さらに、量を増やすと、面白いことが起こる場合がある。
代謝コストや関節負荷が最小化されるよう、勝手にフォームが洗練化されていくのだ。
そこまで乗り方を教えられたわけでもないのに、転びながら漕ぐ練習を繰り返すと自転車が乗れるようになる、という感じに近い。
このような現象を『量質転化』という。
量質転化は、内発的であるという点も含め、学習における最も望ましい1つの形態だと思う。

とはいえ、膝OAで膝関節に負荷を増やしたくないのに、スクワットに股関節が動員されていない、という場合には、特異的介入としての動作指導が有効となる。
まとめると、以下のようになる。
①量を保つことは効果をあげる上では前提であり最重要(一般的介入の視点)
②量の方向性がずれている場合にはセラピストによる介入が有効(特異的介入の視点)

つまり、どちらも重要だが、その役割は違っていて、その都度優先度を把握し舵を取る必要がある。
個人的に、最も効果をあげないのは、特異的介入だけを信奉するセラピストで、そのセラピストは、平気で3単位ベッド上モビライゼーションに費やしたりする。
これでは、身体は何の需要も感じることはなく、効果は臨むべくもないだろう。
人間の改善の仕組みを知り、身体にも心にも響く、そんな治療を目指したい。

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