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椎体圧迫骨折患者の歩行自立の臨床予測ルール


📖 文献情報 と 抄録和訳

椎体圧迫骨折を有する入院高齢者における歩行自立の臨床的予測ルールの開発と検証

📕Kaizu, Yoichi, et al. "Development and validation of a clinical prediction rule for walking independence in hospitalized older adults with a vertebral compression fracture." Physiotherapy research international: the journal for researchers and clinicians in physical therapy 29.4 (2024): e2117. https://doi.org/10.1002/pri.2117
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable

[背景・目的] 椎体圧迫骨折(vertebral compression fractures, VCF)患者の歩行自立に関連する因子やClinical prediction rules(CPR)に関する報告はない。また、疫学的な歩行自立率に関するエビデンスも乏しい。ここでは、(i)入院中の椎体圧迫骨折患者が歩行自立を達成する確率に関する疫学的データを得ること、(ii)退院時の歩行自立に影響する因子を同定すること、(iii)入院中の椎体圧迫骨折患者の歩行自立を判定するCPRを開発し、検証することを目的とした。

[方法] 2019~2022年に日本の4病院でVCFで入院した60歳以上の患者を対象に後方視的横断観察研究を行った。アウトカムは退院時の歩行自立とした。歩行自立の予測因子を評価するために二項ロジスティック回帰分析を行った。年齢、米国麻酔科学会身体状態(ASA-PS)、認知機能、Berg Balance Scale(BBS)、10m歩行テストの5つの独立変数を入力した。有意であった独立変数のうち、連続変数をカットオフ値を算出することで2値データに変換し、CPRを作成した。

CPRの診断精度の指標として曲線下面積(area under the curve, AUC)を算出し、ブートストラップによる内部検証を行った。

[結果] 240人の患者のうち、188人(78.3%)が歩行自立を達成した。認知機能とBBSスコア(カットオフ45点)が有意な予測因子として同定された。

この2項目(0~2点)を用いてCPRを作成した。CPRのAUCは0.92(0.874-0.967)であり、ブートストラップによる内部検証の結果、平均AUCは0.919、傾きは0.965であった。

✅ 予測精度の解釈
・AUC 0.5~0.7は予測精度が低い
・0.7~0.9は識別精度が中程度
・0.9以上は識別精度が高い

📕 Akobeng. (2007): 644-647. https://doi.org/10.1111/j.1651-2227.2006.00178.x

[結論]
■ 考察:Summary
椎体圧迫骨折患者が歩行自立を達成する割合は、78.3%であり約5人に1人は非自立のままだった。
次に、歩行自立には認知機能低下BBSスコアが独立して関連した。
そして、その二項目を用いて開発されたCPRは歩行自立の予測に十分な精度を有した。

■ 椎体圧迫骨折患者の歩行自立割合
まず、歩行自立割合について考える。
高齢の大腿骨近位部骨折患者が退院時に歩行自立を獲得する確率は38.2%~65.8%で、本研究の78.3%はこれと比較すると高い自立確率であった。
しかし、依然として5人に1人が歩行非自立であり、これは無視できない重要な問題と思わる。
加えて、日本では欧米諸国に比べて入院率が高く、入院期間が長いという特徴があり、欧米諸国においてはこの問題はより大きい可能性があり、今後の調査が期待される。

■ 歩行自立の関連要因 & 予測モデル
歩行自立の予測について、BBSのcut-off、45点は単独でも歩行自立の判断に有用なツールだった。
また、CPRは高い判別精度と内部妥当性を有するモデルだった。
さらに、CPRは、特に高い陽性適中率を有し、歩行自立が可能な人を高い精度で判定できる

■ CPRの臨床意義
まず、このCPRはBaseline測定から未来を予測するものではなく、評価時点の自立確率を横断的に予測することに注意が必要である。
例えば、入院中の自立判断におけるシナリオとして、
「CPMを使用した場合、(評価時点での)歩行自立確率は83.4%でした。病棟での動作確認でも問題ありませんでしたので、歩行自立が可能と考えますが、いかがでしょうか?」
さらに、退院支援のシナリオとして、
「退院後には、歩行自立での生活が可能と考えます。身体活動量が保てるよう退院後〇歩/日は歩きましょう。」
のように役立つことが期待される。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

まず、臨床予測ルールとは何かを知っているだろうか。
「ふむふむ、何かを予測するルールなのだな」
だが、例えば多変量解析において、歩行自立と独立して関連する因子を分析することと、何が違うのだろう?
明確に、説明できるだろうか。
違いは、大きく2つある。
①評価指標を2つ以上組み合わせること②予測確率を与えることである。
たとえば、歩行自立に対して、多変量解析を用いて独立した要因を明らかにする研究では「FIM-トイレ」と「認知機能低下」と「せん妄」と「発症前の介護必要性」が独立して関連する、ということまでが分かる。
そして、それぞれの要因が帰結に対してpositiveなのかnegativeなのかという影響の方向性と、その大きさに関する情報を与える。
しかしながら、この従来の多変量解析の結果の示され方では、結局、判断の多くはセラピストの主観に委ねられる。

一方、CPRは複数因子を組み合わせ、予測確率を与える。
例えば、とあるCPRでは「FIM-トイレが5点以上で病前に介護を必要としていなかった患者は98.2%が自立する」という情報をセラピストに与える。
そして、セラピストは「ふむ。98.2%か。じゃあ、退院目標としては歩行自立が妥当そうだ」となる。
すなわち、CPRは影響の方向性や大きさといったぼんやりしたものではなく、はっきりとした確率を与えることで、よりセラピストの臨床判断につながりやすい。

今回、我々は理学療法士が常日頃から接することの多い「椎体圧迫骨折」者の歩行自立を予測する臨床予測ルールを開発した。
この臨床予測ルールは、高い精度で歩行自立を予測でき、更に認知機能とBBSという定期評価として組み込まれることの多い評価指標で構成されていることも強みだ。
今回の研究をやってみて驚いたことは、椎体圧迫骨折患者の歩行自立に関する研究がとても少ない、ということだ。
理由はいろいろあるのだろうが、海外では圧迫骨折で入院することすら稀であり、歩行自立をアウトカムとした研究の必要性が小さいのかもしれない。
だが、日本においては多くの圧迫骨折患者が入院しているし、今回の研究で明らかになったように、5人に1人は退院時に歩行自立することができていない。
椎体圧迫骨折者の歩行自立について、今後もっと多くの研究報告がなされることが望まれる。
さあ、次は大腿骨近位部骨折の臨床予測ルール(臨床予測モデル)をつくりに行く・・・、頑張ろう🔥

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