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大腿骨近位部骨折患者における臨床予測モデルに関するシステマティックレビュー


📖 文献情報 と 抄録和訳

高齢者の大腿骨近位部骨折における非死亡アウトカムの臨床予測モデル:システマティックレビュー
(自著です㊗️)

📕Kaizu, Yoichi, et al. "Clinical Prediction Models for Non-mortality Outcomes in Older Adults with Hip Fractures: A Systematic Review." The Journals of Gerontology: Series A (2023): glad205. https://doi.org/10.1093/gerona/glad205
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable

[背景・目的]
■ 予後因子研究と臨床予測モデル研究について
<予後因子研究>
・予後因子研究とは、多変量解析を用いて独立した要因を明らかにする研究のこと
・例. 大腿骨近位部骨折後の歩行自立の可否をアウトカムとしたとき、筋力良好はポジティブ、高齢はネガティブ、病前活動的はポジティブ、合併症はネガティブ、というように独立した要因が明らかにされてきた。
・予後因子研究の問題点は、要因とその大きさが把握できるだけで、結局のところ、予測・判断の大部分はセラピストに委ねられていたということ
<臨床予測モデル研究>
・予測モデルは、複数の評価指標を組み合わせて、明確な予測確立を与える。
・予測モデルはセラピストの臨床判断により大きな影響を与えるツールになる可能性が高い。

■ 大腿骨近位部骨折者に対する臨床予測モデル
・いくつか発表されているが、システマティックレビューによる調査は行われていない
・システマティックレビュー研究は、❶複数の予測モデル研究の報告に基づいてアウトカム・予測因子を把握する、❷バイアスリスクや適用性を評価する、という点で、モデル開発・検証研究とは全く異なる研究デザイン

■ 本研究の目的
❶予測モデルで用いられているアウトカムをマッピングし、新たに開発が必要なアウトカムを特定すること
❷モデルに組み込むべき予測因子の領域と、具体的な評価ツールを特定すること
❸報告されたそれぞれの予測モデルのバイアスリスク、適用性を評価すること

[方法]
■ 情報源と文献検索
・PubMed、Cochrane Library、CINAHL、CiNii、およびIchushiデータベースにおいて、2002年6月から2023年6月までに発表された研究を系統的に検索した。

■ アウトカムマッピング と 予測因子
・アウトカムマッピングは、大腿骨近位部骨折者のコア・アウトカムセットとして知られている、死亡率、疼痛、日常生活動作、移動、健康関連QOLの5つのアウトカム(📕Haywood, 2014 >>> doi.)を対象とし、各アウトカムの研究数をマッピングした。
・予測因子の収集として、この学会発表では「移動」をアウトカムとした予測モデルについてのみ報告。
・予測因子は、「領域」と「評価指標」としてまとめた。
・「領域」とは、測定対象となる特定の領域のことで、例. 身体機能など
・「評価指標」とは、特定の領域を測定する具体的な評価指標のことで、例. 30秒立ち上がり試験など

■ バイアスリスクと適用性
・バイアスリスクはPROBASTという、予測モデルのシステマティックレビューのために開発された評価指標を用いた(📕Wolff, 2019 >>> doi.)。
・PROBASTは参加者、予測因子、アウトカム、解析の4つの領域について評価を行う。
 (適用性の評価もPROBASTに含まれる)
・適用性の評価とは、事前にレビュー者が指定したレビュー質問への合致度のこと。
・我々が設定したレビュー質問は、図に示した通り。

[結果]
■ 取り込み & アウトカムマッピング
・45の予測モデル研究が分析対象となった。
・死亡率をアウトカムとした研究は35と多く、リハに関連の強い移動、ADLをアウトカムとした研究は10と少なかった。
・また、疼痛、健康関連QOLをアウトカムとしたモデルは報告されていなかった。

■ 移動とADLをアウトカムとした10のCPM研究
<Outcome: Mobility>
🇮🇹 Bellelli et al. Osteoporos Int. 2012;23:2189–2200. https://doi.org/10.1007/s00198-011-1849-x
🇬🇧Doherty et al. J Am Med Dir Assoc. 2021;22:663–669.e2. https://doi.org/10.1016/j.jamda.2020.07.013
🇨🇳Fu et al. J Orthop Surg Res. 2021;16:455. https://doi.org/10.1186/s13018-021-02605-0
🇪🇸González et al. Int J Environ Res Public Health. 2021;18:3809. https://doi.org/10.3390/ijerph18073809
🇯🇵Oba et al. Orthop Traumatol Surg Res. 2018;104:1189–1192. https://doi.org/10.1016/j.otsr.2018.07.024
🇭🇰Tam et al. Int J Orthop Trauma Nurs. 2020;38:100770. https://doi.org/10.1016/j.ijotn.2020.100770
🇯🇵Tomita et al. Injury. 2021;52:1826–1832. https://doi.org/10.1016/j.injury.2021.04.043
🇯🇵Yamamoto et al. Arch Orthop Trauma Surg. 2023;143:1931–1937. https://doi.org/10.1007/s00402-022-04401-9
<Outcome: ADL>
🇬🇧Hashmi et al. Int J Clin Pract. 2004;58:2–5. https://doi.org/10.1111/j.1368-5031.2004.0016.x
🇯🇵Tomita et al. Int J Rehabil Res. 2022;45:154–160. https://doi.org/10.1097/MRR.0000000000000522

■ 予測因子の調査
・予測因子は8つの領域、38の尺度が報告されていた。

■ バイアスリスク、適用性の評価
・バイアスリスクと適用性の結果について、表にまとめた。
・表の見方として、「緑」はバイアスリスク、適用性の懸念が低いことを示し、「ピンク-赤」は高いことを示します。
・バイアスリスクは、多くの項目でリスクが高い結果で、「すべての領域においてバイアスリスクが低い」と報告された研究はなかった(詳細は考察で)。
・適用性は、アウトカムについて懸念が高い結果でした。
※この図は査読過程で表になった幻の図です‼️

[考察]
■ 考察:Summary
・アウトカムマッピングに対しては死亡率が35と多く、次いで移動が8、ADLが2という結果だった
・この結果から、疼痛とQOLをアウトカムとした臨床予測モデルの開発が望まれる。
・次に、予測因子について、8領域、34指標が報告された。
・バイアスリスクが低いと判断された研究はなかった

■ 予測因子についての考察
・このレビューに含まれた研究における予測因子の特徴を図にまとめた。
・我々は、近年の予測因子に関するシステマティックレビューに照らして、今後の予測モデル研究に重要と思われる領域を考察した。
・その結果、身体機能、心理社会的要因、疼痛は既存の予測モデルにおいて未報告で、重要な予測因子と思われました。
・今後の予測モデル開発においては、これらの項目を予測因子に含むことが望まれる。

■ バイアスリスクについての考察
・バイアスリスクを高めた要因に対して、今後の予測モデル研究に求められることを考察した

・予測因子とアウトカム測定者を盲検化する
・前向き研究で行う
・予測因子とアウトカムを分離する
・係数,切片などを含め報告する
・欠損はインピュテーションを実施する
・単変量解析に基づく予測因子の選択をしない
・モデルの内部検証を行う
などに注意しモデル開発を進める必要がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

2022年の4月、このプロジェクトが始まった。
大目的は、「大腿骨近位部骨折の臨床予測モデルの最前線を知ろう!」
そのために、システマティックレビュー(SR)という研究デザインで系統的にレビューをしよう!
でも、システマティックレビューって、そもそもどうやってやるの?
そこから始まった。

・Narrative, Scoping, Systematic Reviewの各レビューの違いを知った
・SRを進めていく大きな流れ、役割分担を知った
・レビュー登録をPROSPEROにかけたが、なぜかリジェクトされた(涙)
・PROBASTの評価用紙、マニュアルをつくった
・みんなで、勉強会を計5回やった
・数千件に近い文献のレビューをみんなでやった
・PROBAST評価の共有にかかる時間が、想定の5倍だった(大泣)
・論文化に際して、PRISMA、TRIPOD…、様々な必要事項を学んだ
・Age and Ageing 奇跡のレビューに回った(Reject)
・The Journals of GerontologyからのRevision Mailに歓喜
・日本リハビリテーション医学会の開催地、福岡で最終修正
 (この論文は福岡生まれです)
・査読者は納得、だが編集者と鬼のキャッチボール追加3回…
・カラカラになりながら、なんとかAccept!!!

そしていま、2023年の9月である。
あれから、1年半が経った。
早いのか、遅いのか。
振り返ると、とても多くことをしてきたようにも思える。

このSRの経験を通じて、強烈に体感したことが1つある。
それは、SRという研究デザインは、“研究チーム全員で取っ組む仕事である”ということ。
SRには一次レビューからバイアス評価まで、一貫して「複数レビュワー+盲検化」が必須となる。
この仕事は、1人が猛烈に頑張ればいい仕事ではなくて、全員の全力を要する仕事だ。
だから、共著者のなかにギフトオーサーは存在しない。
意思的に、ではなく自然的に、全員、筆頭著者レベルの論文理解とならざるを得ない。

そして、そのプロセスを通じて、これが一番重要なことだと思うのだが、個人の集まりが「仲間」に変わる。
2022年4月時点では、各個人は独立した研究者であり、出身大学が同じ場合もあったが、ほとんど共通点はなく、現在所属する機関も異なる人間だった。
最初の勉強会などは、「誰すか?この人?」状態だった。
自己紹介から始まったわけなので。
だが、多くの勉強会、レビュープロセス、バイアス評価、論文化を通じて、わかってくるのだ。

Aさんの理解力、やばい。
Bさんは規格に忠実で、本当に丁寧な仕事。
Cさんは研究を推進する馬力が凄い、強い。
Dさんは一貫して研究全般の知識量が半端ない。
・・・。

お互いの理解が進む…。
その中で、信頼感や、委託可能性/特異性の把握や、心理的安全性が高まってくる。
それは、一言でいえば、『仲間になる』ということだ。

だから、有象無象の研究者が集まって、大テーマに向かおうとするとき。
SRから始めることは、大いなる善ではないかと感じる。
それは最前線を知ることができる、研究課題を明らかにできる、という研究価値以上に、研究チームの醸造という意味合いにおいての善。
艱難汝を玉とす
みんなで挑む1つの大事業が、チームをつくる接着剤となる。
最後に、いまの想いを述べて終わろうと思う。

いま、最前線とは何かを「知った」。
次は、最前線を「創造」しにいく。
この心強い仲間がいれば 、
どこへでも行けそうな気がしている。
月並みだが、とにかく頑張ろう!

Now we “know” what the front lines are.
Next, we will go to “create” the front line.
With this encouraging group of people,
I feel like we can go anywhere.
I know it's a bit clichéd, but I'll do my best!

2023年9月25日

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