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「先生は僕の人生を変えてくれた」


人生をだれかに変えられたことはありますか。



私はある。

たとえば中学生の頃に初めて読んだ江國香織の本は、私の恋愛観や文章に多大な影響を与えたし、初めて聴いたBUMP OF CHICKENは、ぐずぐずしていた10代に深く寄り添ってくれた。


ひとつひとつの出会いや巡り合わせみたいなもので人生は たいてい少しずつ、時に大きく変わっていく。


何気なく生きていてもそうなのだから、「学校の先生」という今の仕事は、人の人生を容易く変えてしまう、希望と危険の隣り合わせのように思う。




とある少年はバスケットボールをやっていて、人当たりも良く、まさに「今どきの男の子」だった。


こんなことをやってみたい。

夕方の教室で、たまたま二人きりになった時、ぽつりぽつりと将来の展望を語ってくれた。


彼が語るそれは、いかにも断片的かつ抽象的なものだったので、私は丁寧に頷きながら いくつかの質問を投げた。


たとえば、「おもしろいことがやってみたいんです」。

じゃあ、あなたにとって最もおもしろいことはなに?

「物を作って、人の役に立ちたいんです」

じゃあ、あなたが今あったらいいな、と願うものはなに?


この時に、ぶっ飛んだ回答をしたっていい。「いつでも彼女に会いに行けるどこでもドアが欲しい」とか、「タイムマシンがあったら、あの時バスケの試合でケガをしなかった」とか。「今、世の中にある仕事」にこだわる必要は全くないのです。


視野を広げるとか、人の立場になって考えるとか、ゆくゆくはそういうことも必要になる。でもまずは自分のものさしを知ることが大切なのではないか?自分を掘り下げられない人間に、他人の需要なんて想像できるのか?私はそう思っている。


今は多様性の時代だし、「ニッチ」という言葉がフィットする世界になった。今の自分にとって必要なものを作れば、この広い世界の中に同じものを必要とする人は必ず居る。私がそう思いながら、風俗嬢だった頃のエピソードを書いているように。




私と話しながら導き出した答えのようなものを、彼はえらく気に入った。

「僕、それになります。」



彼はクリエーターになった。



時に映像を作り、時にグラフィックデザインをし、時に有名なモノのネーミングをした。




彼は他の教師に、「いい先生に出会えたんです」と話してくれたらしい。「先生は僕の人生を変えてくれた」と。


教師になって、これほど感慨深かったことはない。それと同時に「人の人生を変えてしまう」という怖さも知った。


人には無限の可能性がある。教育現場の人達がそう言うのも、今は頷ける。




だれかの人生を変えたことはありますか。


私はある。


きっとこれを読んでいる皆さんも、だれかに人生を変えられ、そしてだれかの人生を変えている。

決して答え合わせのできないそれを、目には見えないその糸を、紡いでいく美しさと恐怖をひしひしと感じています。

「怖い」という気持ちを保ち続けられる限り、この仕事は向いていないこともないのかな。

そういう感覚(危機感、みたいなもの)を持てなくなった時は、どんな仕事も潮時だと思います。そんなことを考える4月16日。


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大好物のマシュマロを買うお金にします。