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連載小説 『 15ちゃい 』


第2話 町の近隣センター



自転車に乗って3分。
家から一番近いスーパーに着いた。


ここは「近隣センター」と呼んでいたし、
そう書いてあった。時計台の下に。


颯爽とスーパーに入った。
いつもと全然違う気分。
なんせ客ではないからだ。



買い物をするフリをしてレジにいる従業員を眺めてみた。
これは見事に私には向いていない気がした。
さわやかすぎたし、表舞台すぎた。
私には裏方がお似合いだ。



何も買わずに外に出た。


他にも、いろんなお店が並んでいる。
仕事をするつもりで見て回ろう!



スーパーの隣は文房具屋さんとクリーニング屋さんが合体したお店。
その隣は時計屋さん。
T字路になっていて、その向かいには本屋さん。
その左隣は薬局で、その隣はうどん屋さん。
ここに来ればなんでも揃うんだな。
改めて眺めると便利な所だと気付いた。


私には何屋さんが向いているんだろう?



T字路のちょうどど真ん中には
私たち子供のメインのお店がある。
パン屋さんと駄菓子屋さんが合体したお店だ。
ここはみんなの溜まり場になる。



小学生の時から駄菓子にはお世話になったし、
店先にはゲーム機も置いてある。
一回50円もするので私は一度もしたことがない。


スーパーの向かい側には郵便局も銀行もある。
公民館もあり、その中で珠算教室などが開かれている。



駐車場の入り口には
車でやっているタコ焼き屋さんがいつも居て、
美味しそうな匂いを漂わせていた。


でも、もうすぐ高校生になろうかという年頃の私には
この近隣センターはもう、せまっくるしかった。


もう最近あまり来ることのなくなったこの近隣センターの
駄菓子屋の前のベンチに座ろうとした。
そうだ!
T字路の右側にはあまり行ったことがないな。
そこには米屋さん、酒屋さんが並んでいて、
その向かいには新聞屋が並んでいる。
全然用事は無い。
そのまま近隣センターの出口になっていた。


新聞屋さんか。


ものすごく貧乏な家の中学生がするアレだな。


中学生?


新聞配達なら中学生からでもイケるんだったっけ?
それとも、それはテレビの中だけの話なのだろうか?


ぼーっと新聞屋さんを眺めていた。
ずっと見ていたら視点が新聞屋さんのドアに貼ってあるポスターに
合ってきた。


「配達員募集!」と書いてある。
ほうほう。募集はしているのか。


だけど求人雑誌には載ってなかったな。
古びたポスターだから今も募集してるのか分からない。


聞いてみようかな。
どの新聞屋さんに聞こうか迷った。
なんせ3つも新聞屋さんが並んでいるので。


ウチは何新聞だったっけ?
んーっと・・・
読売新聞だったな確か。
じゃあ読売新聞で聞いてみよう。
いざとなれば「うちは読売です。」と言える。


ドアが透明なのでポスターとポスターの間から中が見えた。
誰も居なさそうだな。


となりの朝日新聞はどうかな?

覗いてみた。
ぬおっ!
中に居るおじいちゃんくらいの歳のおっさんと目が合ってしまった。
目付きが怖すぎる。絶対行かないぞ。


いちおう、その隣の毎日新聞も覗いてみるか。
どれどれ。
ふたりくらい中で動いているのが見えた。
何をしているんだろう。


おっさん二人か。
やめておこう。


その時である。
ガラガラっと読売新聞のお店のドアが開いた。
おっさんが出てきて「いってきまーす!」と言って
ドアを閉めようとした。
そのドアが開いた瞬間、お店の奥の方が見えた。
女の人だ。事務所みたいなところに女の人がいる。


ここにしよう。


ドアを閉めて、こちらを振り向いたおっさんに
私は勇気を出して話しかけた。


「あのー、すいません。」


「ん?なんだい?新聞でも買いに来たのかい?」


笑顔で優しそうに話してくれた。
でもやっぱり聞きにくい。
どうしよう。
おっさんが私が話し始めるのを待ってくれている。
笑顔のままで。


勇気を出せ!直樹!


「あのー、新聞配達って中学生とかでも出来るんですか?」


「えっ?あ、あー。そうかー。配達がしたいのかー。
うーん。ちょっと待ってて。」


もう一度ガラガラっとドアを開けたおっさん。


「ごめーん!ちょっとこの子が配達したいって言ってるから話聞いてあげてほしいんだけど。」


奥に居る事務所の女の人とその向こう側に居たおっさんがこちらを見た。


「はいはーい。」


女の人ではなく、おっさんの方が事務所から出てきてスリッパから靴に履き替えている。こちらに来ようとしている。


「じゃあ、あの人が話聞いてくれるから。」


そう言って最初のおっさんは行ってしまった。


奥から来たおっさんが私の目の前に来た。
さっきのおっさんとは全然雰囲気が違う。
店長さんだろうか?


「そうか配達したいのか。君は今何歳や?」


「15歳です。」


「中学生か?」


「いえ、中学生ではないです。」


「そうか。高校生か。」


「いえ、高校生でもないです。」

「えっ?どっかでもう働いてるんか?」

「いえ・・・」


「ん?」


「中学を卒業してもう中学生ではないんですけど、
まだ高校に入学してないので高校生でもないんです。」


「あーなるほど。春休みちゅうことやな。」


「はい。」


「うちには中学生で配達してる子もおる。君も配達したいんか?」


「あ、はい!募集してるんですか?」


「いや、あんまり募集はしてないけど、君やったらOKや。」


「あ、ありがとうございます!」


「それじゃあ、いつから来れる?明日からか?」


「あ、あしたですか?いきなりそんな・・」


「え?」


「いえ、すいません。まだ親に言ってないので言ってきてから・・・」


「君はどこに住んでるんや。住所と名前教えてくれるか。」


私は名前と住所を言った。


「あー、真田さんとこの息子さんか。おっしゃ。うちの新聞入っとるなー。
おおきに、おおきに。
まあ、とりあえずご両親に言ってき。
ご両親がOK言うたら、こっちもOKや。ほな、またおいで。」


「はい。ありがとうございます。」


「なかなか礼儀正しい子やで。なあ?」


そう言っておっさんは奥の事務所のほうを向いた。
女の人がこちらに振り向いてニコッと微笑んだ。


「じゃあ言ってきます。」


「いってらっしゃい!」


「言ってきます」と「行ってきます」が
ややこしくなった。


私はお店を出て、急いで自転車に戻った。


興奮していた。
トントン拍子に事が進んだからだ。
まさか今日、仕事が決まるだなんて思ってもいなかった。
スーパーを下見するだけのつもりが
新聞配達のアルバイトに採用されたのだ。


いつから行こうか。
親に言いづらいな。
絶対反対されるに決まっている。
なんでもかんでも反対してくるのが親だからだ。


でも新聞屋さんはウチに配達に来る。
親に話すだろうな、きっと。


よしっ、言おう。


何か新しいことをするには
こんなにも勇気が必要なんだな。
しかも何回も。


なんだか楽しくなってきたぞ!


〜つづく〜

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