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連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その66


66.   女大野とスケベ丸



明日の朝刊に挟むチラシを整えている。
午後6時30分。



夕飯はもう腹に収めた。
いつもなら最後に一人で静かにチラシを整えるのだが、
今日は違った。



チラシが分厚いのだ。
まだ何人か残ってやっている。



チラシを作る機械『丁合機(ちょうあいき)』は
1度に18種類しかチラシを挟み込めない。
19種類以上になると2回戦目に突入だ。




つまり大西のおっさんが作ってくれたチラシの
【 6区① 】のチラシの束の中に、
【 6区② 】のチラシの束を挟み込んでから
トントンと整える必要があるのだ。
ちなみに①の中ならどの部分に②を挟み込んでもOKだ。




まあ、そんな日もある。
みんな買い物が好きなのだ。




「うぇー!今日2回戦かよー!」
屈託のない笑顔で文句が言える竹内の声がしてから
竹内の体がお店の中に入ってきた。


ここは私が答える番だ。



「手伝ったろうか?
俺が1回戦目をパカっと開いといてやるから、
お前が2回戦目を挟み込んできたらいいやんか。
よしっ!来いっ!カモン!」



「いや、暑苦しいっしょ。
なんで2人で1つのチラシを作り上げるの?」




私はチラリと隣の、そのまた隣を見た。
私が6区で由紀ちゃんは4区。
由紀ちゃんがモクモクとチラシと戦っていた。
まるで私たちの会話は聞こえていないようだ。
結構面白いからウケているかも知れないと思った
私が甘かった。




私と背中合わせの竹内に背を向けて
私は私のチラシと向き合った。



いや。
まだ周りが気になる。



隣の5区は坂井だ。
もうすっかりチラシを整え終えて、
台の下に置いてある。
もう部屋に帰って歌でも練習しているんだろう。
最近仕事が早いな、坂井は。



私はそんな事を考えつつ、
またその5区の向こう側にいる由紀ちゃんをチラリと見た。



ん?



さらにその向こうにいる3区の人と目が合った。
まさか居るとは思わなかった。
3区の担当は、しーちゃんだ。



私から目を離さずに言った。
「おい!真田丸!おまえ何さっきから
本城のことチラチラと見てるんだ!
なんか付いてるのか?顔か?おしりか?おっぱいか?」



「おっ!えっ!なっ!そ、そんな所は見てません!けっして!」



「本当か?そんなに気になるんなら、
さっさと告っちゃえばいいじゃねぇか!
え?すけべ丸!むっつりは体に良くないぞ!」



まるで大野のようなセリフだ。
もし大野が居たらそう言うだろう。




女大野おんなおおの此処ここにあり!


「ぴったりじゃん!すけべ丸って!」
竹内が笑いながら言った。




「むつりの国から来た拙者、助平丸でござる!」
私は最後にしっかりとみんなの球をキャッチした。




はははは!



やっと、みんな笑った。
良かった良かった。



私の存在価値は、
まだお店に残っていた。



遠い未来ばかり見ている私の心が
笑った。


〜つづく〜

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