見出し画像

オリジナル連載小説 【 THE・新聞配達員 】 その24



24.   飲んべえフィルター



ちょっと喉を湿らせにやってきたお店は
いつも行っている銭湯の真横にあった。


学生のフィルターをはずして
飲んべえのフィルターで街を眺めると
やたらと飲み屋があるものだ。
飲んべえの街。


なぜ今まで気が付かなかったのだろう。
こんなに毎日来る場所の真横に
「お好み焼き」と書いた小さくて白い看板が
可愛く立っているではないか。



「お好み焼き」だぞ。
私は大阪人だろう。
何で気が付かなかったのか。



チョッパー大野と二人でそのお店の中に入った。


鉄板の付いたテーブル席が3つ。
その右奥に座敷になった鉄板テーブル席が2つあった。


左奥の上の方にテレビが置いてある。


入ってすぐ右はちょっとしたカウンターで
大きな鉄板でお店のお姉さんが色々と焼いている。


「いらっしゃい!空いてる席にどうぞ!」


奥の座敷のテーブルに座った。


「ミックス玉が上手いんだよ!
あとじゃがバターとか貝柱とかししとうとか焼き物も美味いんだ!
すいませーん!」


「はーい!」
女の人の返事があった。


「とりあえず生2つ!」


「それとミックス玉が2つと・・・」
全部二つずつ頼んでくれるチョッパー先輩。


私は最後に付け加えた。
「それと白いご飯とお味噌汁も下さい。」



言った瞬間にこちらの顔を素早く見る二人。
二人だ。
先輩とお店の注文を取りに来ている女の人が
えっ?と言った顔でこちらを見ている。


チョッパー大野が言った。


「ご飯と味噌汁だって?」


「えっ?はい。いや、普通にご飯頼んだだけなんですけど。
ダメでしたか?ビールに合いませんかね?」



急いで厨房に確認に行く女の人。


奥から男性の声が聞こえてくる。


「え?ご飯?そんなの炊いてないよ。
昨日食った残りの冷凍したやつならあるぞ。
あとなんだって?味噌汁?そんなの頼まれたの初めてだぞ。誰だ?」


厨房を隠している暖簾の奥から顔をチラリと出してこちらを見て来た大将。


「大阪人はお好み焼きにご飯と味噌汁食べるのか!
いや無理だろう!絶対合わないって。無理じゃん!
ないよ!ありえん!やっぱりお好み焼きにご飯と味噌汁はありえんって!」


大爆笑のチョッパー大野先輩。


お店の女の人がこちらに戻って来て言った。
「すいません。ご飯は冷凍してたのならあって、お味噌汁は
あいにく無いんですけど・・・」


「あ、いや、無くて大丈夫です。すいません。」


謝る私。
笑う先輩。
まだ「ご飯と味噌汁・・・」とブツブツ言いながら
作業をしている大将。


「大阪の人はお好み焼きが晩御飯なんだな。」


一気に店内の視線を集めた私。
これは飲まずにはいられない。



飲みすぎてしまった。
お好み焼き屋を出た。
銭湯の横だ。


このままお風呂に入りたいが
道具もタオルも持ってきていない。


その時、急に銭湯から出てきた若い男が
勢いがよすぎてこちらにぶつかって来た。
チョッパー大野のほうに。


「痛ぇな!」
先輩はだいぶ飲んでいるから声がデカい。


「んだよ、邪魔だな。」
そう言って男は先輩の頭の先からつま先までを
なめるようにして品定めをした。


まるで存在を全否定された気分だ。
そこにただ突っ立っていた固体だ。
犬のションベンが付いた電柱でも見るかのような目。


「何だと!こいつ!そっちからぶつかってきたんじゃねぇか!」


キレた先輩がそう言うと
その男の胸ぐらを掴んだ。


その瞬間、男も先輩の胸ぐらを掴み返した。


喧嘩が始まるのか。
男は私も居ることに気付いていないのか?
二人くらいなら簡単に倒せるのか?


私は興奮していないので
どう出るべきかしばらく様子を見ることにした。

ここから先は

2,441字
このマガジンは購読しなくても全文無料で読めちゃうようにする予定です。 (まだ読めない話があったら何話か教えてください!すぐ公開します!) そして読んだら新聞配達したくなっちゃいます😉

真田の真田による真田のための直樹。 人生を真剣に生きることが出来ない そんな真田直樹《さなだなおき》の「なにやってんねん!」な物語。

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

いただいたサポートで缶ビールを買って飲みます! そして! その缶ビールを飲んでいる私の写真をセルフで撮影し それを返礼品として贈呈致します。 先に言います!ありがとうございます! 美味しかったです!ゲップ!