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はじめまして

優しい光が私たちを包んだことを思い出す。 暖かかった。優しかった。苦しかった。 いつも私の心に渦巻く愛。 それは確実な愛。 私だけが持てる愛。 愛しさは苦しみに変わって。 苦しみは何にも昇華できなくて。 その不甲斐なさにとてつもなく愛を感じる あの光は私で。あの光は私達で。 あなたはわたしで。

    • 自分自身とこの青について⑥【創作小説】【創作大賞2024応募作】

      あの雨の日の夜。 「ずっとあんなふうにはいられない」と 言った私と 「ずっとこんなふうにいられないの?」と 聞いた彼女。 私の言葉は、友情を育んでいる彼女にとっては辛辣で、恋をしている私にとっては切実だった。 たった数日の逃避行のはずだった。 なにも持たずにありのままで、 答えを探すわけでもなく、逃げよう。 そう、覚悟を決めた。 着いた先には 深く、どこまでも落ちてしまいそうな青があった。魅せられて、囚われて。今日も私は海を見つめている。灰色の海と視界を遮る雨が懸命に伝えて

      • 自分自身とこの青について⑤【創作小説】【創作大賞2024応募作】

        苦しさのなかにあるのに何にも変えられない威力を持ち、葛藤や偏見を跳ね返すほどの輝き。そんな彼女に一寸の狂いもなく恋をしていた。気づいたときにはもう恋で、抗おうとすることすら出来なかった。 リアルは待ってくれない。 恋は、 壊れたアクセルみたいに加速し続けた。 私達が積み上げてきた友情に嘘はなかった。いつしか芽生えた恋心はそれを邪魔したりしない、はずだった。 恋には見境がない。 たとえそれが確固たる友情であっても、恋にはそれすら超えてしまう威力がある。 抗おうとすること自体が

        • 自分自身とこの青について④【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          溢れ出ることのない海を、溢れ出そうとする気持ちに気づかないふりしながら、じっと見ていた。静かでひんやりとしたジュンさんの家は、雨の音をより一層悲しいものにする。慣れ親しんだあの青い海が、ずっと遠くに感じる。あの日は確かに、今日のような雨だった。古傷がズキズキと痛む。 ジュンさんは日が昇るのと同じくらいに家を出た。「今日は雨だからお客さんは入らないだろうなー」と眠そうな顔で嘆いて。 ジュンさんはサーフボードを主に取り扱うお店を経営している。私がここにきてからはお店を閉めていたら

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        はじめまして

        • 自分自身とこの青について⑥【創作小説】【創作大賞2024応募作】

        • 自分自身とこの青について⑤【創作小説】【創作大賞2024応募作】

        • 自分自身とこの青について④【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          blossom【創作小説】【Can You Hold Me?】

          サクラー。たまにそう呼ぶと、あいつはわかりやすく嫌な顔をする。いつも寄せている眉間の皺はより深く、元から悪い目つきは更に鋭く、眼には光を持つ。シャープな目と高い鼻と大きな口。それらは無表情だとまるで愛想のない顔で、はっきり言って怖い。今みたいに露骨に嫌な顔をした時なんかは俺だって少し怖いと思う。しかし、笑うと顔のパーツの全てがくしゃりとなって、それは可愛くてしょうがない。俺を怒らせて機嫌を取ってくる時の困り眉も、威勢を張るように尖った耳も、全部が可愛い。 「おうや、」 そ

          blossom【創作小説】【Can You Hold Me?】

          自分自身とこの青について③【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          … もしも青くなかったら、私はこんなにも海に惹かれていたのだろうか。青い絵の具をパレットに出し、そこに少量の水と白を溶かした。空と海の境目をぼかす。ないようで確かに存在する線を出来るだけ曖昧にする。荒々しく寄せる波の水飛沫は、海の青が生み出したとは思えないほど白く刺々しい。隣でジュンさんが言った。随分と荒々しい絵だな、と。「俺好きだよ、カオルちゃんの絵」と。 父は私の絵を褒めてくれたけど、好きだとは一回も言ってくれなかったな、と不意に思う。そんな切なさにもうずっと、気づかな

          自分自身とこの青について③【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          自分自身とこの青について②【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          そっか、夜の海は青じゃないのか。そんな当たり前の事実に静かに落胆する。波の音は昼間よりも大きく、まるでこちらまで迫り来るような迫力がある。案内されたテラス席からは海が一望出来る為、初めての夜の海をこれでもかと堪能できる。それはもう大満足だというくらいに。店にいる人々はまばらでその殆どが地元の人のようだった。 「君、名前なんていうの」 どうせ覚えらんないから下の名前だけでいいよ、彼はそう言ってハンバーガーの付け合わせにあるポテトを食べた。 「カオルです」 「俺はジュン」

          自分自身とこの青について②【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          自分自身とこの青について【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          ああ、もしかしたら私は今、あの青になれているのかもしれない。波の上で身体が弛って小さく跳ね、白い光が青を刺すしたときにそう思った。私を縛り続ける色々が輪郭を緩めて少し笑う。ぎごちなさそうに、泣き出しそうに。見上げると、この海と同じくらいの青が見える。光でさえも覆うことのできない濃くて深くて、一度吸い込まれたら戻ってくることなんて出来ないそんな青。この海がすきだ。無防備で嘘のないそんなところが、すきだ。砂浜ではローファーと鞄が持ち主の不在を伝えている。乱雑に脱げ捨てられたそれら

          自分自身とこの青について【創作小説】【創作大賞2024応募作】

          紫苑【創作小説】【Can You Hold Me?】

          恋なんて、暇なやつがするものだって思ってた。人生に意義を持たず、なんとなく生きているやつだけが「人生に必要なのは愛だ」などと高らかに言うのだと。俺の周りの奴らは欲深く、甘かった。知恵を持たずに目先の利益にしがみつく。そういう奴らは決まって壮大な愛を口にした。俺が欲しかったのは、そんな実感の持たない愛ではなく、着実なものだったのに。母さんが俺に伝え続けた愛は言葉にしてしまえばあまりにも安っぽくて、吐き出した煙草の匂いがした。その香ばしさを今だって鮮明に思い出すことが出来る。失っ

          紫苑【創作小説】【Can You Hold Me?】

          暗闇に目を慣らせるように

          … あなたが私に誠実であろうとするほど私の気持ちは擦り減る。そのことをきっとあなたは死ぬまで気づかないのでしょう。 あなたが望んだ時、私はもうあなたを見限っている。そのことをまた私のせいにするのでしょう。 人の感情が単純ではないことをいちばんよく知ってるのは自分自身なのに、誰かの感情にはうんと鈍い。 どんな関係性であれ 「もう遅いよ」 なんてことはいくらでもある その時はいっそ清く、さよならしましょう … 信じるって言うのは無責任 信じるっていうのは自己責任 わたしも、

          暗闇に目を慣らせるように

          The boy is mine【Can you Hold Me?】【創作小説】

          広い肩幅から伸びる筋肉質な腕。ピタリとした黒いTシャツが、所々汗で滲んでいるのが分かる。髪の毛を何度か掻き上げる仕草を見て、美容院に行けていないと嘆いていたことを思い出した。それにしても抱きつきたくなる背中だなとその男らしい後ろ姿を見て思う。あいつは俺に一向に気づくことなく、目の前の女に視線を送り続けている。その目と自慢の愛機で。 託しあげられた袖からは、鋭い傷が見え隠れしている。壮絶な過去の証。 あいつが女に掛ける何気ない一言がいちいち優しくて腹立たしい。この瞬間、二人の視

          The boy is mine【Can you Hold Me?】【創作小説】

          黒になりきれない青

          … 浅い眠りの中で硬直した身体の中心が必死に求めていたのは快感だった。押し寄せる波を必死に押し留めて何度もその感覚を手繰り寄せた。 その度に私は何もかもどうでも良くなってこの身を捧げた。 大きな力が私を支配しようとしている。圧倒的に、それでいて軽やかに。深い眠りに入る前に思った「もっと」は切実だった。この世の誕生と滅びがそんな願いの狭間から来るものならば仕方のない事だと思える。そんな一瞬だった。 … 「黒になりきれない青」 自己愛に限界があると知るのはいつだって安っぽ

          黒になりきれない青

          久しぶりに挿したピアスの穴が疼いた【創作】

          … 久しぶりに挿したピアスの穴が疼いた。時間が経つにつれて穴は慣れていくのに身体はうまく馴染んでくれない。外す時にはきっと炎症を起こしているだろう。痒みがじんわりと感覚を支配していく。先程まで雨による片頭痛に犯されていたというのに簡単に覆ってしまうから、、 君が会いたいと言うから奮い立たせるように身体を起こした。あのピアスを着けてる君が見たいと言うから薄い膜を突き破って挿した。なのに君は今日会えないと言う。 君の為に費やした時間。君の為に委ねた身体。君の為に感じた痛み。君の

          久しぶりに挿したピアスの穴が疼いた【創作】

          美しいゆめ last【創作小説】

          父を失ったあの頃。死ぬのなんて全然怖くなかった。これから生きていかなければいけないことの方がずっと怖かった。 夢をみた。美しいゆめを。場所は正確に分からなかったけれど、そこは光に包まれていて私はその中で横たわっていた。窓の外には海が見える。"海は空の色を映した色"それを教えてくれたのは誰だっただろう。 私はきっと安らかに眠りにつける。でも、怖くて仕方がない。私はこれまで沢山の死をみてきた。その全てを受け入れてきたのだ。夢から醒めた後、いつも生々しい感覚が全身を襲い心臓が痛いく

          美しいゆめ last【創作小説】

          美しいゆめ⑦【創作小説】

          … 「拝啓 柳田時生様。一人で旅に出ると決めた事。どうかお許しください。私はあなたを愛しています。愛しているからこそ、これ以上あなたとはいられないのです。この矛盾が不器用な私の最大の愛だと言う事。あなたには分かると信じています。初めて会った日からあなたは私に愛を与え続けてくれていましたね。私が背負った運命を知った時、あなたは泣いてくれました。目が覚めた時は絶対に隣に居ると言って、最後まで本当に隣にいてくれた。夢から醒めた後、あなたの前で何度も取り乱してしまってごめんない。あ

          美しいゆめ⑦【創作小説】

          美しいゆめ⑥【創作小説】

          … 私達はそれからの日々を曖昧なまま過ごした。知らないことは沢山あって過去についてはほとんど話さなかった。今を着実に重ねていれば、愛は育める。そしてその愛の形に名前は必要なかった。 出会ってから5、6年経つとほとんど一緒に住んでいるような状態になった。時生は自宅に撮影スペースを併設していて(時生は業界では有名なプロのカメラマンだった。)2人で生活するには十分な家に住んでいた。仕事が終わると週に4日程は時生の家に帰った。互いに全く別のことをしていてほとんど話さないまま眠る夜も

          美しいゆめ⑥【創作小説】