久しぶりに挿したピアスの穴が疼いた【創作】

久しぶりに挿したピアスの穴が疼いた。時間が経つにつれて穴は慣れていくのに身体はうまく馴染んでくれない。外す時にはきっと炎症を起こしているだろう。痒みがじんわりと感覚を支配していく。先程まで雨による片頭痛に犯されていたというのに簡単に覆ってしまうから、、
君が会いたいと言うから奮い立たせるように身体を起こした。あのピアスを着けてる君が見たいと言うから薄い膜を突き破って挿した。なのに君は今日会えないと言う。
君の為に費やした時間。君の為に委ねた身体。君の為に感じた痛み。君の為にした決断。
ねえ、君は私に何をくれるの?
私は今の君の為じゃ死ねない。でも君の子の為なら死ねるかな、君によく似た君じゃないキミ。「もっと私のことだけ考えてよ」

雨が降る部屋。
冷えた身体に浴びる痛いくらいに熱いシャワー。頭から浴びて段々と下に伝っていく浮腫んだ足に感覚はない。
感覚に感覚を上書きしていく意味のない行為。
わかっていてもやめられないの、ずっとずっとずっとこのままずっとひとり
今夜君が隅々まで触れるはずだった私の身体。鏡を見るたび別の人の身体みたいにみえる。それでも私の身体
私の頭がついた私の、私だけの身体。
君は今何をしているんだろう?
君が今、この世にいなければいいのに
そしたら私ね、やっと私がわたしのものになる気がする。
そうだ、雨に打たれていればいい。
そしたら一緒だから。
同じだけ君も痛いから。
足元のネイルが禿げていた。塗ったばかりだというのに。結局私は完璧な状態で君に会えなかったんだかわいそう。不完全であることを分かった上で完全でいたい。私の美徳が私自身をいつも苦しめている。
雨はまだ降り続いている。
ピアスの穴が疼く。
湯冷めした身体が誰かの体温を求めている。
着信音
君からだってすぐにわかる
もしもし今からきて
だから、それは無理なんだよ
君の現実に生きる人全員死ねばいいのに、空虚な部屋で君のことばがこだまする。正論を言う君なんて君じゃなくて、私が好きな君もそんな君じゃなくて、泣き喚いても誰にも届かないこの部屋で私は意味もなく叫んで傷ついてそれでも揺るがない好きが私の身体を無慈悲に縛りつける。  
泥のように沈みそのまま泥になる。
私は身体をなくしてしまっていて今見ているものだけがリアルで、感覚も煩悩もない君を想うこともない真っ暗な部屋で光を追う。光と暗闇の境目。埃が虫の集まりのようにみえる光を追う。ここにあるすべての光を吸収したら、私は何になれるだろう。
暗闇の中でただひとつ。
誰も必要としていない光。ただ異様に眩しくて、騒々しくて、
見ていられないようなひかり




この記事が参加している募集

#スキしてみて

529,171件

#眠れない夜に

69,958件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?