ととのエッセイ 「ゾーンの入り方」
23年間、「人のパフォーマンスはどういう時に上がるのか?」と考え続けてきた。とにかく筋肉をつければパフォーマンスが上がる。ひたすら自らを厳しく律する事でパフォーマンスが上がる。最初はそう信じていたけれど、どうやら部分的には合っていて、同時に部分的に大きく間違っているような気もする。そしてそれ以上にもっと必要な要素があるような気がずっとしていて、最近はそれが確信へと変わり始めている。
パフォーマンスを探求する上で最も効率的な行為がある。それは「パフォーマンスが高い人」のそばに行くことだ。その人が、何を意識し、何を考え、どう動くのか。それを良く観察するのだ。
「パフォーマンスが高い人に共通する事」は何だろうと知見を集めていくと、やはり「脱力」のような気がする。パフォーマンスが高い人はみなすべからく脱力がうまい。つまり「全力で動かないこと」を「脳が選択して実行できる」ということだ。
選択的に脱力すると言っても、簡単にできるわけでは無い。そこに辿り着くためには、何度も全力で動く練習をしたり、そこから少しずつ微調整する訓練を続ける必要があるのはどの業界でも大前提だ。ではどうしたら、より効率的に「脱力」は上達するのだろう?
そんな事を、今朝サウナで正坐をしながら考えていた。ロウリュで蒸された熱々のサウナから出て、汗を流し、深い水風呂へダイブする。そのまま潜水を続け、僕は熱気と蒸気で速まった心拍数を数えてみた。
「ドクンドクンドクンドクンドクンドクン」
かなり速い。1秒に2.5拍くらいしている。なぜかと考えると、昨日飲み会があったからだ。どうやら身体はあまり良い状態じゃないらしい。そんな時は、やはり長く潜っていられない。パフォーマンスが低いのだ。ということで、僕は速めの心拍数を40まで数えた所で、やや苦しさを感じ、無理して潜り続けることなく水上へ顔を出し、大きく息を吸い込んだ。
なんとなく不完全燃焼だった。そしてちょっと悔しかった。このまま帰ると後悔するので、もう一度サウナと正坐で呼吸を整えて、潜水してみよう。
「ドックン、ドックン、、ドックン、、、ドックン、、、、ドックン、、、、、ドックン、、、、、、、」
かなりゆっくりになった。2秒に1拍くらいの緩やかさだ。面白い。潜りながらそう思った。
「これ、なんだかゾーンに近いな」
そう感じた。そして嬉しくなった。さっきあれほど苦しかった感覚が消滅していた。そして僕はかなりゆっくりになった心拍数を60まで数えた所で、やや余裕を持て余しながら水上へ顔を出し、大きく息を吸い込んだ。
なんとなくだが、ここにヒントがあるような気がする。結局は、シンプルな事だが自分の嬉しいを追求したり、気持ちいいを追求することが大切だということだ。つまり「どうしたら自分のゾーンに入れるか」と問いながら暮らすということだ。
僕にとって、潜水はその手段の一つに過ぎない。正坐で姿勢を整え、サウナで呼吸を整え、潜水する。良い時と悪い時のコントラストを感じ、「気持ち良い場所」へ自分を導く。
良いパフォーマンスを出せている時は、すべからく「心地よい」。逆に言えば、何事においても「気持ち良い場所」を探すことが、むしろ高いパフォーマンスを創造するための必須条件であるのではないだろうか。
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