Episode 109 「アントワープやロチェスターへの出張」
尚、今回の出張(Episode108参照)で初めてロンドンという街に行った。電通時代に置いては、多い時には約1、2か月に一度のペースで海外出張に行ってた。知らぬ間にJALのメンバーシップも(最上級の)ダイヤモンドになっていた。とは言いつつ、乗る機会が減って直ぐにダイヤモンドでは無くなった。所詮、会社の力である。自分の実力では、全くもって無い。
ヨーロッパはスコットランド、ドイツ(ドルトムント)、フランス(パリ)、ベルギー(アントワープ)、その他にもベトナムなどのアジアの国、オーストラリア(シドニー)にも行った。また、アメリカ(ロチェスター)にも行った。
ロチェスターは、ニューヨーク州北西部に位置する都市。人口は約20万人の小さな街だ。ニューヨークからの距離は約333マイル(約536km)とのことである。日本で言うなら、東京↔️神戸、という距離感だろうか。
初めてのアメリカという事もあり、何もかもが新鮮な体験となった。「ロチェスターって、どんな街?」と訊かれたならば、「(混み入っていないという良い意味で)ゆったりとした街」というのと、あとは「豊か」という単語で形容する。
では、なぜ「豊か」という単語が出てきたかというと、それはスーパーに行った時に、そう感じたのだ。果物、出来和えの食べ物、野菜、飲み物と、商品だけを見ると日本のスーパーに売っているそれとは恐らく大きく違いは無いはずなのだが、何かが圧倒的に違っているように見えた。
そして、その「違い」を持って、「この国は豊かな国だ」と、そう感じたのである。そう、まるで、一見同じデザインの服なのだが、片方は薄いテロテロの生地で作られているのに対し、もう片方は圧倒的なまでの上品な、丈夫な生地で作られている、という具合だ。ぱっと見は似ているが、よく見ると、実は全然違う、という具合だ。
現地における移動は車をレンタルして、自分達で運転していた。先輩のイシイさんとの出張であり、もちろん先輩に運転させるわけにもいかないので私がドライバーの役割を担った。
ご存知の通り、アメリカでの運転は日本(若しくはオーストラリア)と違い、(左ハンドルで)右車線走行であり、常に気を張って運転している必要があった。
ふとした瞬間につい、左側を走行してしまう、ということが何回かあった。その度に、助手席に乗っていたイシイさんの「逆!!」という声が飛んできた。慣れと言うのは怖いもので、頭では「ここはアメリカだ!走行は左ではなく右!」と頭の中で自分に言い聞かせても、ふとした瞬間にそれが頭から離れてしまい、左側を走行してしまうのである。
そう、メガネをずっと掛けていた状態から(メガネを)外して間もないタイミングで、メガネはもうそこに無いのに(メガネを)ずり上げる様に顔に手をやってしまう様な感覚に似ている。または、何も考えずに、お風呂に入って体を洗う時に、無意識に左腕から洗っている、という感じだろうか。
出張中のある日、イシイさんとランチか何かを食べに、ファストフード店に行った。恐らくマクドナルドだったと思うが、記憶が曖昧である。車を駐車場に停め、店内で食べ、帰ろうと席を立った時、一人の男性に呼び止められた。
年齢は5、60代だろうか。「急にすみません。さっきあなた達二人が喋っていたのは、あれはどこの国の言語ですかね、気になったもので」とアメリカの田舎の訛りの英語で訊かれた。
その時の彼の顔は、まるで、缶ジュースを一口飲んだ瞬間、想像していた味とは全く違うことに気づき、眉間に皺を寄せながら缶の側面に書いてある「原料・材料」の内容を確認するかのような顔、とまではいかないが、何かが引っかかっている、みたいな顔をしていた。「日本語です」で簡潔に答えた。彼は、神経質(そして少々潔癖性な)な、街の歯医者みたいな雰囲気のある人だった。
ロチェスターという街は、とにかく、空が高くそして澄んでいた。恐らく空気が綺麗だったのであろう。空の青も、木や芝の緑も、本来それらが持つべきしっかりとした力強い色であった。
出張中の食事に関しては、特に不便はなかったがやはりアジア的な食べ物が恋しくなり、数回、中華料理を食べた。一度、(仕事の帰りだったであろうか)イシイさんを助手席に乗せ運転していた際に、中華のテイクアウトの店を発見した。
車のスピードを落とし、道端に車を停めた。鍵を掛け我々二人はそのお店(レストラン、ではなくテイクアウトがメインになっている様なこじんまりとしたキオスクの様なお店だったと記憶する)に入った。
後になって気づいたのだが、地域的には決して最も安全な地域ではなかったと(帰り道)車を運転しながら、少し焦ったことを憶えている。正にアメリカの映画によく出てくる治安の悪い地域、といった雰囲気がそこにはあった。
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