Takeman(貞久萬)

たまに小説を書いています。 https://twitter.com/stillblu…

Takeman(貞久萬)

たまに小説を書いています。 https://twitter.com/stillblue_s

マガジン

記事一覧

チェリオス効果 -1.0

 のぞき込んだ冷凍庫のなかには色とりどりの便せん封筒の束が入っていた。  涼子は自分が開けたのは冷凍庫ではなくタンスの引き出しだったのかと思ったが、冷凍庫から漂…

Takeman(貞久萬)
2週間前
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散花は水に流れ行く

流水  エンジンを切るとラジオから流れていたパーソナリティーの声が途切れて、車内は静かになった。誠はシートにもたれかかると運転席の窓から見える建物を見上げた。こ…

Takeman(貞久萬)
6か月前
8

プシュケーの海ができるまで

 最終選考に残ったことで自分の立っている足下が不確かなぬかるみではなく、物語という建築物を建てても崩れることのない固い大地であるということを教えてもらった。とい…

Takeman(貞久萬)
8か月前
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おらっさん

 ひさしぶりに感じる潮風が慎一の記憶を呼び起こした。小学生の夏休みに祖父の家に泊まりに来たとき、祖父と一緒にこの海岸沿いの道をよく歩いたものだった。あれから十年…

Takeman(貞久萬)
10か月前
3

ナイトウォーカー old version

そうして人類は永遠の眠りについた。  車の窓から見える暗闇を見つめていると、後部座席で一緒に座っていた異星人のジン・ルイハが小説の地の文のような口調であたしに話…

Takeman(貞久萬)
11か月前
3

Vertical old version

そうして人類は永遠の眠りについた。 こそんにはいかきいぞりせじいのだ かとじし まいにさみないむえちさ ら つた れのわけなきなちたはま は    なしたびき きへ…

Takeman(貞久萬)
11か月前
3

白本、黒本ブックカバー

ほとんど需要はないと思いますが、ブックカバーを用意しました。 A3サイズで印刷して、上下は適当に切ったり折ったりして使って下さい。

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もう一人のアガキタイオン~県北戦士アガキタイオン~

 本作は完成手前稿、紙版、電書版の三バージョンを読んだ。基本的には大きな違いはなく内容的にはほぼ同一だった……のだが、紙版と電書版とでは決定的な部分で違いがある…

5

有限会社新潟防衛軍~小林猫太試論~

 完成手前稿、電書初版、電書二版、紙版と4種類のバージョンを読んだ。決定稿としては電書版となるだろうが、電書版と紙版の違いは誤植の訂正程度なので大きく違うわけで…

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空白

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空白

 黄色い小さな花が泡立ち始めると肌寒さも日常となる。外にでるのにも一枚羽織るものがほしくなる。子供のころは喘息原因になるといって嫌われていた花だが実際はそうでは…

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メアリー・ベル団について

この記事は、BFC4 1回戦Bグループ、タケゾー 「メアリー・ベル団」に対する意見を拾い集めたものです。 https://twitter.com/promenade11/status/1586570718786879489

7

デュオ

 カーン! ゴングが鳴った。  グローブ越しに見えるニヤつく顔が引き締まる。そしてまたニヤついた。わずかな時間で俺は値踏みされ、やつは勝てると確信したのだろう。…

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貞久萬の創作と日常

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甲種無害化景郭319号

貝楼諸島アンソロジーに寄稿した「しほかぜさえわたる」と同じ世界の違う時代の話です。 「来週から果樹園を作ることになったからよろしく」  現場から戻った健一が事務…

10

波が消えるとき

 隣で寝ていた男の寝返りをうったその足がぶつかってきた。おかげで目が覚めた。外海に出てから波がおだやかになり、ゆりかごのような揺れにいつのまにか眠ってしまってい…

4
チェリオス効果 -1.0

チェリオス効果 -1.0

 のぞき込んだ冷凍庫のなかには色とりどりの便せん封筒の束が入っていた。
 涼子は自分が開けたのは冷凍庫ではなくタンスの引き出しだったのかと思ったが、冷凍庫から漂ってくる冷気がその考えを打ち消してくれた。しかし目の前にある便せん封筒の謎は消えてはくれなかった。
「氷あるでしょ?」居間にいる真衣が聞いてきたところで我にかえった。
「あ、うん」涼子はうつろに返事をする冷凍庫の氷をグラスに入るだけ入れ、居

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散花は水に流れ行く

散花は水に流れ行く

流水

 エンジンを切るとラジオから流れていたパーソナリティーの声が途切れて、車内は静かになった。誠はシートにもたれかかると運転席の窓から見える建物を見上げた。ここからだと見えるのは三階まで、それより上の階は見えなかった。建物の窓には人影は見えない。その代わり、建物と建物の隙間からは昼間の月が見えた。ため息のような息をはくとペットボトルを手に取って一口飲んだ。微糖と書かれていたが誠には甘すぎた。ド

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プシュケーの海ができるまで

プシュケーの海ができるまで

 最終選考に残ったことで自分の立っている足下が不確かなぬかるみではなく、物語という建築物を建てても崩れることのない固い大地であるということを教えてもらった。という気持ちです。

馬鹿馬鹿しいこと

 馬鹿馬鹿しいことを考えるのは好きだけど、それを小説のような形にするのは辛くて仕方がありません。書くのは嫌いです。プロットまでは作るから誰かそれを小説に仕上げて欲しい。といつも思っています。しかし悲しい

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おらっさん

おらっさん

 ひさしぶりに感じる潮風が慎一の記憶を呼び起こした。小学生の夏休みに祖父の家に泊まりに来たとき、祖父と一緒にこの海岸沿いの道をよく歩いたものだった。あれから十年ちょっとの時がすぎたけれど海岸沿いのこの道は記憶のなかの道とそれほど変わっていない。背が伸びて視界が高くなったせいか道幅が小さく感じるぐらいだった。しかし背が高くなっても右手に見える海は遥か広く、その向こうに見える九州本土も大きかった。もち

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ナイトウォーカー old version

ナイトウォーカー old version

そうして人類は永遠の眠りについた。
 車の窓から見える暗闇を見つめていると、後部座席で一緒に座っていた異星人のジン・ルイハが小説の地の文のような口調であたしに話しかけてきた。
「はあ? なに言ってるんだ」
そうしてい。じん・るいは。れいえんのね。むりに。ついったー。
 ジン・ルイハはもう一度話しかけてきた。
「ちょっとまった、同時に言うな。順番に言ってくれ、まずはジン、お前のほうからだ」
ソウシテ

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Vertical old version

Vertical old version

そうして人類は永遠の眠りについた。
こそんにはいかきいぞりせじいのだ
かとじし まいにさみないむえちさ
ら つた れのわけなきなちたはま
は    なしたびき きへきおよ
じ    るょりを   いぼわう
ま     う く   をうら
る     ど り   め、ず
      う か   ざそ
      を え   しれ
        し    で
             も

    

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白本、黒本ブックカバー

ほとんど需要はないと思いますが、ブックカバーを用意しました。
A3サイズで印刷して、上下は適当に切ったり折ったりして使って下さい。

もう一人のアガキタイオン~県北戦士アガキタイオン~

もう一人のアガキタイオン~県北戦士アガキタイオン~

 本作は完成手前稿、紙版、電書版の三バージョンを読んだ。基本的には大きな違いはなく内容的にはほぼ同一だった……のだが、紙版と電書版とでは決定的な部分で違いがある。どれを決定稿として読むべきか悩んだが、ここでは電書版を決定稿として読むことにした。

 日比野心労は会話の閉じカギ括弧で句点を省略しない。

 今の小説で閉じカギ括弧の直前の句点を付けている小説はほぼ皆無に近い。では会話の閉じカギ括弧で句

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有限会社新潟防衛軍~小林猫太試論~

有限会社新潟防衛軍~小林猫太試論~

 完成手前稿、電書初版、電書二版、紙版と4種類のバージョンを読んだ。決定稿としては電書版となるだろうが、電書版と紙版の違いは誤植の訂正程度なので大きく違うわけではない……と言いたいところなのだが、じつは大きく違う。僕が読んだ完成手前稿には大きなミスがありそれは作者のミスというよりは、ルビを振った部分が削除されてしまうというMS-WORDの挙動のせいで、ところどころ本来あった単語が消えてしまっている

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空白

空白

 黄色い小さな花が泡立ち始めると肌寒さも日常となる。外にでるのにも一枚羽織るものがほしくなる。子供のころは喘息原因になるといって嫌われていた花だが実際はそうではない。しかし、一度広まってしまった誤解が訂正されるのはむずかしい。上着を羽織りながら靴を履こうとしたところで、玄関先においてある電話がなる。
「もしもし」 
 受話器を耳にあてると妻の声がきこえる。自分の財布のなかに入っているお金を今回の入

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デュオ

デュオ

 カーン! ゴングが鳴った。
 グローブ越しに見えるニヤつく顔が引き締まる。そしてまたニヤついた。わずかな時間で俺は値踏みされ、やつは勝てると確信したのだろう。なめられているのなら勝ち目がある。ステップを踏みながら間合いを詰めていく。さっきまでうるさかった外野の音も気にならなくなる。世界は静かになった。この四角い世界にいるのは俺とやつだけ、さあ、デュオの始まりだ。
 やつは細身でひきしまった体をし

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甲種無害化景郭319号

甲種無害化景郭319号

貝楼諸島アンソロジーに寄稿した「しほかぜさえわたる」と同じ世界の違う時代の話です。

「来週から果樹園を作ることになったからよろしく」
 現場から戻った健一が事務所に入るなり、机に広げていた新聞から顔をあげて大田部長が声をかけてきた。
「そうですか、わかりまし……」自分の机に向かおうとして健一の体と声が止まった。「部長、それってまさか」
「お、察しがいいねえ、甲種無害化景郭319号、果樹園造形だよ

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波が消えるとき

波が消えるとき

 隣で寝ていた男の寝返りをうったその足がぶつかってきた。おかげで目が覚めた。外海に出てから波がおだやかになり、ゆりかごのような揺れにいつのまにか眠ってしまっていたようだ。鼻のなかの異物感は残っていたがあわてて鼻に手をやる。防塵フィルターは鼻の穴のなかにしっかりと収まってくれていた。男に蹴られた瞬間にやってきた怒りはすぐに去っていったが、あとでゆっくりとおとずれた不安に胃の辺りがギュッと掴まれる。下

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