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小説

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頭の中からこぼれ落ちた物語です。
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記事一覧

チェリオス効果 -1.0

 のぞき込んだ冷凍庫のなかには色とりどりの便せん封筒の束が入っていた。  涼子は自分が開…

Takeman(貞久萬)
2週間前
27

散花は水に流れ行く

流水  エンジンを切るとラジオから流れていたパーソナリティーの声が途切れて、車内は静かに…

Takeman(貞久萬)
6か月前
8

おらっさん

 ひさしぶりに感じる潮風が慎一の記憶を呼び起こした。小学生の夏休みに祖父の家に泊まりに来…

Takeman(貞久萬)
10か月前
3

空白

 黄色い小さな花が泡立ち始めると肌寒さも日常となる。外にでるのにも一枚羽織るものがほしく…

15

デュオ

 カーン! ゴングが鳴った。  グローブ越しに見えるニヤつく顔が引き締まる。そしてまたニ…

6

波が消えるとき

 隣で寝ていた男の寝返りをうったその足がぶつかってきた。おかげで目が覚めた。外海に出てか…

4

いんでくる

 夕食を食べ終わると薬の時間になる。寿々子は錠剤をもらうと看護師のまえで口に入れ、コップの水でごっくんと飲みこんだ。軽くげっぷをしたあとで口を大きくあけ、薬が残っていないことをみせる。看護師がにっこりとうなずくと、病棟を仕切る扉へと寿々子はゆっくりあるいていった。リノリウムの床のうえで足音はちいさな音を立てていく。気が急いても若いころのように速くはあるけない。薬をのんだあとは特にそうだった。足元も頭もおぼつかなくなる。  数時間もたてば寝るまえの薬の時間になる。寝るまえの薬は

わずかな時間

「しほかぜさえわたる」の作中作の原型短編です。 原型といってもこちらのほうが分量が多いの…

1

オリーブ、サルファーイエロー、ライラック、ゼニスブルー

 窓の外を見ると灰色の空が見えた。ふりそそぐ朝日はすでに暑さを感じさせる。せっかくの休日…

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朔望とスペクトラム

貞久萬  眞琴がうちのクラスに転校してきたのは中学三年の二学期のことだった。自分の席につ…

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しほかぜさえわたる

貞久萬  寮代わりの宿舎を出ると、治郎の鼻腔をねっとりした空気がくすぐった。この季節に吹…

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プリザーブドフラワー

プリザーブドフラワー プリザーブドフラワー【preserved flower】  生花や葉などをグリセ…

15

然り、揺らぎ

救済に関する緩やかな三部作の最後の話です。 然り、揺らぎ ちょっと急だし長くて大変だよ。…

2

prey and pray

prey and pray ねえ、私のこと愛してくれる。去っていった妻の声が蘇る。肉を殴る音とその後に続く、こもった呻き声。それは地下室の中を満たしていく二つの音だ。殴るたびに椅子に座った目の前の肉体から滴り落ちていく。命を循環している赤い液体が地下室の床を塗り替えていく。後ろにいる男の三時間前の言葉が蘇る。「二時間かけて殴り殺せ」壁の時計は一時間経ったことを教えてくれる。力を入れた右腕がしなると、肉塊にぶつかる。黒い覆面越しに漏れる呻き声が、この部屋を満たしていく。殴る