IQとEQだけじゃない知者不惑に必要な「賢さ」の測り方
「知者不惑」という言葉をご存知だろうか。
中国の古典「論語」に由来するこの言葉は、40歳を迎えた賢者は物事の理を悟り、判断に迷わなくなるという意味が込められている。
春秋時代の思想家、孔子は弟子の1人に、「吾十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」と語ったという。
この言葉は、人は年齢を重ねるごとに知恵を深め、40歳で知者の域に達すると説いている。
知者不惑は、単なる知識の蓄積ではなく、人生の本質を見抜く洞察力を意味する。
世の中の物事には表層的な意味と深層的な意味があり、知者はその両方を理解できる。
また、己の欲望に振り回されることなく、普遍的な道理に従って行動できる。
知者不惑は、人生の達人としての境地を示唆する言葉なのだ。
現代社会において、私たちは賢さを測る物差しとして、知能指数(IQ)と心の知能指数(EQ)を用いることが多い。
しかし、本当に賢明な判断を下すには、IQとEQだけでは不十分なのだ。
知者不惑の境地に至るには、もっと多角的な視点が必要とされる。
賢さを測る歴史
賢さを測定しようとする試みは古くからあった。
古代ギリシャの哲学者プラトンは、「賢者は自らの無知を知る者である」と説いた。
真の知恵とは、自分の知識の限界を認識することだというのだ。
また、古代ローマの政治家キケロは、「賢明さは学問によってではなく、精神の均衡によって得られる」と述べている。
知識だけでなく、バランス感覚が重要だと指摘したのだ。
近代に入ると、知能を数値化する試みが始まった。
1904年、フランスの心理学者アルフレッド・ビネーとテオドール・シモンによって、知能検査が考案された。
これが知能指数(IQ)の原型となる。
IQは、同年齢集団における個人の知的能力の相対的な位置を示す指標だ。
一方、1990年代に入ると、アメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンが、心の知能指数(EQ)という概念を提唱した。
EQは自己や他者の感情を理解・コントロールする能力を表し、対人関係やストレス管理に重要とされる。
ゴールマンは著書「EQ~こころの知能指数」で、「知的能力よりも情動能力のほうが人生の成功を左右する」と主張し、大きな反響を呼んだ。
IQとEQについて
IQは認知能力や問題解決能力を測る指標だ。
言語理解力、計算力、記憶力、論理的思考力などが評価される。
つまり、頭の回転の速さや知識の豊富さを表すのがIQである。
IQテストでは、図形の規則性を見抜いたり、数列の法則を推理したりする問題が出題される。
IQは遺伝的要因と環境的要因の両方で決まるとされる。
ただし、教育の質や家庭環境など、後天的な影響も大きい。
また、IQは年齢とともに変化する。
一般的に、流動性知能(新しい問題に対処する能力)は20代でピークを迎え、以降は緩やかに低下する。
一方、結晶性知能(蓄積された知識や経験に基づく能力)は、年齢とともに上昇する傾向がある。
EQは自己認識力、自己管理力、社会的認識力、対人関係管理力の4つの能力を測定する。
感情に流されずに冷静に行動し、他者の気持ちを汲み取って良好な関係を築く力を示すのがEQだ。
EQの高い人は、自分の感情を上手にコントロールでき、ストレス耐性が強い。
また、相手の立場に立って考えられるため、コミュニケーション能力に優れている。
ビジネスの世界では、IQが仕事のパフォーマンスの20%を占めるのに対し、EQはその2倍の40%を占めるという調査結果もある。
リーダーシップ、チームワーク、顧客サービスなど、多くの場面でEQが重要となる。
高いEQを持つ上司のもとでは、部下の仕事満足度や生産性が上がるというデータもある。
IQとEQ以外の指標
しかし、現代社会で生き抜くには、IQとEQだけでは不十分だ。
近年、ポジティブ心理学の研究が進み、幸福度や強み、レジリエンス(回復力)など、新たな指標が注目されている。
逆境に立ち向かう力を表すアドバーシティ・クォーシェント(AQ)は、ポール・ストルツ博士が提唱した概念だ。
AQの高い人は、困難な状況でも粘り強く取り組み、ストレスをプラスに変える力を持つ。
AQを構成する要素としては、コントロール力、オーナーシップ、リーチ、持久力の4つが挙げられる。
また、イノベーションを生み出す創造性を測るクリエイティビティ・クォーシェント(CQ)も注目されている。
CQは、既存の発想にとらわれない柔軟な思考力や、異なる分野を結びつける想像力を表す。
アップル社の共同設立者スティーブ・ジョブズは、「創造性とは、異なるものを結びつけることである」と述べ、CQの重要性を説いていた。
マイクロソフト社のサティア・ナデラCEOは、EQに加えて共感指数(Empathy Quotient)の重要性を説いている。
共感指数は、相手の感情を敏感に感じ取り、思いやりを持って接する力を表す。
ナデラ氏は、「共感こそがイノベーションの源泉である」と主張する。
相手のニーズを深く理解してこそ、革新的な製品やサービスが生まれるというのだ。
優れたリーダーには、高いEQと共感力が不可欠だ。
部下の心情を汲み取り、適切にサポートできる上司のもとでは、チームのパフォーマンスが上がる。
また、顧客の潜在的な欲求を敏感に感じ取れるリーダーは、時代に先駆けた商品開発を実現できる。
EQと共感力は、ビジネスパーソンにとって欠かせない能力と言えるだろう。
境界知能の存在
知能指数が70未満だと知的障害とみなされ、70〜85は「境界域」とされる。
全人口の約15%がこの境界域に該当し、学習面で困難さを抱えやすい。
知的障害者の中には、全般的な知能は低くても、特定の分野で優れた能力を示す「サヴァン症候群」の人もいる。
例えば、カリフォルニア大学の動物科学者テンプル・グランディン博士は、自閉症と診断され、知的障害の疑いもあった。
しかし、博士は空間認識能力に優れ、家畜の行動を深く理解することができた。
博士が設計した「グランディン式曲線スタンディングシュート」は、家畜のストレスを軽減する画期的な装置として、世界中の畜産農家で採用されている。
また、「マルチ潜在能力」という概念も注目されている。
これは、IQは平均的でも、多様な分野で秀でた力を発揮する人を指す。
アメリカの発達心理学者ハワード・ガードナーは、知能を言語、論理・数学、音楽、身体・運動、対人、内省、自然観察、空間の8つに分類した。
IQでは測れない、多面的な能力があるというのだ。
私たちは知能指数だけで人を判断してはならない。
個性や才能は多様であり、IQが低くても素晴らしい能力を持つ人はたくさんいる。
大切なのは、一人ひとりの可能性を信じ、ありのままを受け入れることだ。
教育の現場でも、画一的な評価ではなく、子供の個性に合わせた指導が求められる。
まとめ
賢さには様々な要素が絡み合っており、一面的な評価は難しい。
IQやEQに加え、AQやCQ、共感力なども重要だ。これらの能力は、相互に関連し合っている。
例えば、EQが高い人は共感力も高い傾向がある。
また、AQとCQは、困難な状況でも新しいアイデアを生み出す力につながる。
経営の場では、高いEQが求められる。部下の士気を高め、チームをまとめるには、リーダーのEQが欠かせない。
アップル社のティム・クックCEOは、スティーブ・ジョブズ氏の後を継いで会社を率いる立場になったとき、「最も大切なのは、社員の気持ちに寄り添うことだ」と語っている。
イノベーションを起こすには、CQが必要不可欠だ。
既成概念にとらわれず、自由な発想で考える力がなければ、革新的なアイデアは生まれない。
Googleの共同創業者ラリー・ペイジ氏は、「世界を変えるようなアイデアは、常識から外れているように見えるものだ」と述べている。
ITやIoT分野の第一人者は、高いIQの持ち主が多い。膨大な情報を瞬時に処理し、複雑なプログラミングを可能にするには、高度な知的能力が求められる。
Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOのIQは152と言われ、天才の域に達している。
一方、優れたクリエイターは、CQと共感力を兼ね備えていることが多い。
他者の感性や価値観を深く理解することで、心に響くコンテンツが生まれる。
「千と千尋の神隠し」や「君の名は。」などのヒット作を生み出した映画監督の新海誠氏は、「物語とは、他者の痛みを想像する行為だ」と語っている。
知者不惑の境地に至るには、バランスの取れた「賢さ」を追求し続けることが肝要だ。
IQとEQを高めつつ、AQやCQも伸ばしていこう。
そしてなにより、相手の立場に立って考える想像力と優しさを忘れずにいたい。
人生100年時代を生き抜く私たちに求められているのは、多様な観点から物事を見つめ、柔軟に対応していく力だ。
AIの発達により、単純作業は機械に代替されていく。
だからこそ人間には、機械にはない創造性と共感力が必要とされる。
知者不惑とは、決して特別な人だけが到達できる境地ではない。
年齢を重ねるごとに、謙虚に学び続ける姿勢を忘れなければ、誰もがその域に近づくことができる。
変化の激しい時代だからこそ、私たちは知者不惑を目指し、より良い社会を作っていく担い手となろう。
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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。