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【第2回】EC事業に想いを乗せる方法 | 中小企業のためのEC・ネットショップ立上げ・改善入門講座

前回の記事では、EC事業の成功には、

・ECとは、サイトではなく、ビジネスをつくること
・ビジネスには、目的と目標、戦略、戦術が不可欠であること
・中小企業は、スピーディな意思決定を活かし、現実に対応していくこと

が欠かせないとご紹介しました。また、この中で、ECビジネスでは「人を育てること」が持続的な事業の成長の鍵となっていると解説しました。

中小・中堅企業のEC事業の立上げや改善を成功させるためには、正しく現状を把握して、目的と目標を設定し、戦略、戦術を練る必要があります。

今回の記事では、EC事業の立上げや改善に必要になる5つ手順についてご紹介いたします。

《EC事業を改善、立て直すための5つの手順》


  1. EC事業に関する現状を把握する。

  2. EC事業の目的を明確にする。

  3. 自社の事業環境について、正確に把握し、分析する。

  4. 市場と顧客、商品構成、販売の方法を定める。

  5. 事業の戦略と計画を立て、できることから実行する。



それでは、ひとつずつ、見ていきましょう!

①EC事業に関する現状を把握する。

まずEC事業に関する損益分岐点売上高を把握し、改善の方向性について理解できるように、次のようなデータを集めて、分析します。

  • EC事業に関する売上、売上原価、一般費及び管理費、営業利益など

  • 販売商品ごとの売上高、売上構成比

  • 直近2年間のサイトのアクセス数や転換率、客単価の推移

  • ユーザーの属性や、サイトへの集客、サイト内での行動に関するデータ

  • 店舗や商品に関するレビューやお客さんから頂いている声

ここで大切なのは、お客さんからの商品や店舗のレビューや、感想のメールなどの「数値では表せないデータ」も集めることです。

なぜなら、さまざまな数値の原因となっていることは、たった一言のお客さんの声に集約されていることが多いと感じるからです。

EC事業の売上がない企業では事業の損益分岐点売上を正確に算出することは難しいかもしれません。しかし、ざっとで構いませんので、だいたい「このくらいの売上があれば、トントンになるだろう」という数字にあたりをつけておくことは非常に大事だと考えます。

なお、損益分岐点売上高は、下記の計算式で求められます。「変動費」「固定費」をどのように区分すればいいのか分からない、自社ではできないという場合にはコンサルタントや税理士に相談することをおすすめします。

《損益分岐点売上高の計算式》
損益分岐点売上高=固定費÷{(売上高−変動費)÷売上高}

■変動費に含まれる勘定科目
原材料費、仕入原価、外注費、支払手数料など

■固定費に含まれる勘定科目
人件費、地代家賃、リース料、広告宣伝費など

損益分岐点売上高の計算式

②EC事業の目的を明確にする。

次のステップでは、経営者や事業の責任者、商品の開発者、担当者を集め、それぞれの想いを語り、相互の理解を深め、EC事業が果たすべき役割と事業の目的を明確にします。

前回の記事で書いたように、ECとはサイトではなく、ビジネスをつくることが必要です。

しかし、経営者や事業の責任者だけでは、多くのITスキルが求められるECビジネスを実行することはできません。さらに、ECビジネスの目的を明確にする段階では、さまざまな関係者の利害が衝突しやすいのも事実です。

このため、この段階においては、コンサルタントやファシリテーターなどの第三者を立て、事業に関係する人が納得し、受け入れることができる目的と目標を設定できるように調整するとよいと考えます。

③自社の事業環境を正しく把握し、分析する。

次の段階では、SWOT分析という手法を用い、自社の事業を取りまく環境を把握します。

SWOT分析とは、Strength(強み)、Weakeness(弱み)、Oppotunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字を取ったもので、企業の経営戦略を検討する際に、もっともよく用いられているフレームワーク(論理的に問題を解決するための思考の枠組み)です。

SWOT分析について

SWOT分析を行う際には、客観的に強み、弱み、機会、脅威の評価を行うことが大切になります。

このために、自社の内部にある「経営資源(強みと弱み)」を整理する時にはVRIO分析を用い、企業の外部にある「マクロな環境要因(機械と脅威)」を整理する時にはPEST分析を用います。

VRIO分析とは、Value(経済的価値)、Rarerity(希少性)、Inimitability(模倣困難性)、Organization(組織)の頭文字を取ったもので、自社の経営資源や競合優位性を把握するための分析の手法です。

PEST分析とは、Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4つの頭文字を取ったもので、自社の外にあるマクロな環境要因が経営に与える影響を把握するための分析の手法です。

こうした観点から、自社の強み、弱み、機会、脅威を洗い出し、

・「強み」を活かして、「機会」を捉えること(短期の戦略)
・「弱み」を改善して、「機会」を捉えること(中長期での戦略)

の2つで短期と中長期での経営戦略を考えてみることを一度おすすめします。

なお、ここで解説しているSWOT分析、VRIO分析、PEST分析は、実際にやってみると、そんなに難しいものではありません。

※興味を持たれた方は、当オフィスで開催している「ECビジネス戦略入門講座」の中で、企業のEC事業の戦略の立て方について、分かりやすく説明し、体験できるようにしています。ご興味のある方は、上記のリンク先からお問合せ下さい。

④市場と顧客、商品構成、販売方法を定める。

前述したSWOT分析をもとに、「誰に、何を、どのように」、販売するかを決定します。このステップは、「事業ドメイン」を策定するともいいます。

ここにおいても、事業が成り立つかどうか(実現可能性)を検討するために、それぞれについて次の分析の手法を用いて、「ECの事業ドメイン(誰に・何を・どのように販売するか)」を明確にします。

|EC事業の「誰に(市場と顧客)」を設定するSTP分析

EC事業の「誰に(ターゲット市場と顧客)」を設定するためには、市場に関するデータとともに、STP分析を用い、商品を販売する市場をできるかぎり細分化して、標的市場と市場での立ち位置を検討し、決定します。

STP分析とは、Segmentation(市場細分化)、Targeting(標的市場の設定)、Positioning(ポジショニングの検討、決定)の頭文字を取った分析の手法です。

STP分析:自社の市場と顧客を検討するためには、STP分析を用います。

前回の記事にて解説したように、2023年現在、ECビジネスに取り組んでいる企業は数多くあります。

大手や有力企業が市場に参入している中で、人・物・金・情報などの経営資源に乏しい中小・中堅企業が、全方位の市場や顧客を狙って、EC・ネットショップをはじめても競争に勝つことは難しいと考えます。

こうした中で、STP分析とは、自社の事業の市場を細分化して考え(Segmentation)、事業の実現可能性を考慮しつつ、標的とする市場を可能なかぎり絞り込み(Targeting)、優位なポジションを考える(Positioning)ために有効な分析の手法です。

たとえば、高い開発力と製造技術力を持つ中堅の豆乳メーカーが「当社は価格を武器にして、EC市場での競争に勝つ」というコストを強みとした戦略で、EC市場に参入するのは得策ではありません。

EC市場では、驚くほど安価に豆乳を販売している会社が数多くあり、せっかくのいい商品が市場の中で埋もれてしまうことが懸念されます。さらにEC事業では多くの営業経費がかかるため、赤字になる可能性も高いと考えます。

こうした時に、STP分析を用いることで、

  • 肌変わりや体形が気になるアラフォーの女性に向けて(市場細分化)

  • 砂糖を用いていない米麹の甘酒などとブレンドした商品を開発する、または無添加で甘みを加えられる濃縮の甘酒の小分けパックと組み合わせ、自然な食品で健康と美容を気づかえる商品として(ターゲット市場を絞る)

  • 朝食や昼食に楽しんで摂れるようにデザインされたパッケージで売る(ポジショニング→横軸:コスト、縦軸:満足感、お値打ち感)

という他社と差別化されたマーケティング戦略を立案することもできます。

中小企業のEC事業の立上げ・改善においては、「価格を武器にしないこと」が非常に重要になります。大手や有力企業も参入しているEC市場では、「コストリーダーシップ戦略」ではなく、「差別化戦略」が必要になります。

この「差別化戦略」を考える時に、STP分析はとても役に立つ分析の手法なのです。

|EC事業の「何を(商品)」を設定するためのABC分析

EC事業の【何を(販売する商品)】を設定するには、手順①で収集した商品ごとの売上の構成比を参照して、販売する商品が事業に与える影響についてよく理解する必要があります。

特に、ECサイトを持っているが、売上が伸びていない企業は、すべての商品を同じように販売しようと考えていることが多いため、マンパワーが足りないという状況に陥っていることが少なくありません。

こうした時に有効な分析の手法が、ABC分析です。

ABC分析とは、商品や商品カテゴリごとの売上額または利益額を集計し、売上や利益の構成比を分析し、「Aランク」、「Bランク」、「Cランク」と分類し、事業にもたらす影響を分析する手法です。

ABC分析:ECで販売または注力する商品を検討する際には、ABC分析を用いることが有効です。

特に、中小・中堅企業のEC事業を改善する際には、ABC分析を用いて、「Aランク」の商品の販売をいかに改善するかがポイントになります。

なぜならば、上記のスライドのように、中小・中堅企業が行うEC事業においては、「たった2割の商品が、売上や利益の8割をあげている」というパレートの法則(またはパレート分布)が働いていることが多いからです。

前述したように、中小・中堅企業においてABC分析が必要な理由は、大手企業と比較した際に、「EC事業に関わる人材が、圧倒的に足りていない」からです。

ECにおいて、最も確実かつ効果が高い仕事は、「デザイン性の高いECサイトをつくること」ではなく、「顧客のニーズを正確に把握して、自社の商品のよさを伝え、売れる商品ページをつくること」になります。

さらに、ECモールなどに出店して、事業を行う場合には、いかに広告に頼らず「購入の転換率を高めて、自然検索からの流入が増える状態をつくることができるか」が、営業利益の確保において重要になります。

売れる商品ページをつくり、自然検索からの流入を増やす状態をつくる」という仕事を行うためには、多くの時間と労力が必要になります。

こうした利益を生み出す重要な仕事に集中できる環境をつくるためにも、「売れる見込みがない商品は見切り、売れる商品が売れるように集中できる状態をつくること」が、EC事業の立上げ・改善の初期には欠かせない、と筆者は考えます。

|EC事業の「どのように」を把握できるAB3C分析

EC事業の「プロモーション方法(どのように)」を検討するためには、思いつきでプロモーション施策を挙げるのではなく、コンサルティングの現場での経験から「AB3C分析」(ゴンウェブコンサルティングの権成俊さんが発案)を使うことが非常に有効であると考えます。

この分析手法を用いることで、「事業を成功させる上で鍵となる要因(CSF:主要成功要因)」をキレイに整理して、把握することができます。

AB3C分析とは、Customer(顧客)、Competitor(競合)、自社(Company)という3つのCについて、それぞれ情報を収集して、自社と競合の関係を見て競合優位性(Advantage)、自社と顧客との関係を見て便益(Benefit)をひとつずつ考えていく分析の手法です。

AB3C分析:ECにおいてはプロモーション(どのように)を検討する際に活用する際に効果的です

このAB3C分析や、その基になっている3C分析が説く、もっとも大切な点は「競合他社」についてしっかり調べて、理解しようということです。

たとえば、自社が販売しようとしている商品を検索した時に、圧倒的に高いレビュー評価と数を獲得している競合商品がある場合、どんなに広告を出しても、SNSを頑張っても、競争に勝つことはできません

こうした時には、

  • 競合する商品に関する情報を徹底的に集め、ある特定の用途において、確実に優位であることを示した商品ページづくりを行う

  • 特定の用途において有用であるというレビューを集められるように、同梱物づくりや購入後のフォローを徹底して行う

  • もう一つ検索ワードを足したニッチな市場に集中して、安定した売上をあげられる商品に育てる

  • 新聞やテレビなどへのプレスリリースを強化して、市場で注目されている商品として第三者の評価をもらう

といったような「徹底的な差別化」が、プロモーションにおいて最も重要な施策になります。

こうしたプロモーション戦略を考える時にも、まず自社の商品の「顧客」、「競合」について、できるだけ多くの情報を集めて、「顧客にとっての便益」と「競合優位性」を正確に把握する必要があります。

文字面だけを見ると、これも「当社には難しい」と思うかもしれません。しかし、ECビジネスにおいて、上で挙げたような例は少なくありません。

競合が多いEC市場で、少ない人手で事業を成長させていくためには、急げばまわれで、しっかり調べて、考えることで、EC事業の成功の確率を高めることになると考えます。

上記で出てきたSTP分析やABC分析、AB3C分析という分析の手法も、上で紹介した「ECビジネス戦略入門セミナー」の中で、分かりやすく学ぶことができますので、ぜひ興味のある方は、こちらからお問合せください。

⑤事業の戦略と計画を立て、実行する。

筆者の経験からすると、持続の可能性、実行の可能性が高い事業の戦略とは、とてもシンプルで明快なものになると考えます。

とりわけ有効なEC事業の戦略は、③で示したSWOT分析の段階で考察した「企業の強みで、機会を捉えているもの」であると考えます。

企業が置かれた事業環境を見まわした時に、「企業の強みが、市場と顧客の機会を正しく捉えたもの」が、強い企業戦略であると言えます。

また、ここまでのステップをていねいに、ひとつずつ行うことで、あなたは自社のECビジネスが置かれた事業環境や、事業を成長させるための戦略や戦術について、深く理解することができると筆者は考えます。

一見難しそうに感じるかもしれませんが、当オフィスで、中小・中堅企業のお客さんのEC事業の立上げ・改善支援を行う時には、上記のすべての取り組みについて、A3一枚に整理できるようにしています。

ECビジネス戦略構築シート

また、このプロセスは、前回の記事で書いたように、経営者や事業責任者がひとりでやるのではなく、ECに関わる全員で行うことが大切です。

なぜならば、関係者が全員で、ECビジネスをつくり上げるためのプロセスを経験することによって、「なぜ、こういった戦略で、こういう施策を行うことが必要か」を、深く理解することができるからです。

繰り返しになりますが、経営者や事業の責任者ひとりの想いだけでは、ECビジネスはつくり上げることはできません。

事業をつくり上げるためには、経営者だけでなく、EC事業に関わる全員の「想い」が乗るものとしなければいけません。このため、上記の方法を活用したECビジネスの見直しは、関係者が全員参加して行うことをオススメします。

もし、自社だけで考えることや、関係者の意見を一致させることが難しい場合には、ぜひコンサルタントを上手く活用して頂ければと思います。

|ECビジネスを成長させるために必要な3つのこと

筆者は、ECビジネスに関わって、今年で8年目になります。

その間に、100社近くのコンサルを行う中で、数多くのECサイトの改善の方法を考え、お客さんとともに実戦を通して、考え方をブラッシュアップしてきました。

次回以降の記事では、その中からECビジネスの骨格をつくる具体策となる、「ECビジネスを成長させるために必要な4つのこと」について、深く掘り下げて、お伝えします。

《ECビジネスを成長させるために必要な4つのこと》

  1. お客さんが求めているコトを理解する(マーケティング調査の仕方)

  2. 商品のストーリーづくり(商品ページの制作方法)

  3. リピート購入の仕組みづくり(リピート顧客の増加方法)

  4. 熱狂的なファンをつくる店舗運営・顧客対応

それぞれが深い話になります。

一つずつ、じっくり解説していきます。
どうぞ、最後までお付き合いいただけましたら、幸いです。

ここまで、長い文章を読んでいただけたことに感謝いたします。
有難うございました。

次回の記事につづきます)


▼次の記事は、下記となります。

【第3回】お客さんがECで購入しているのはモノではなく、夢や人生である


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▼中小・中堅企業のためのECビジネス立上げ・改善入門セミナー

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どうぞ、上手くご活用ください。

▼連載記事の続きを読みたい方は、下記をご参照ください。


『中小企業のためのEC・ネットショップ立上げ・改善入門講座』【全7回】


【第3回】お客さんがECで購入しているのはモノではなく、夢や体験である

【第4回】ECで販売する商品のストーリーのつくり方

【第5回】持続的にECサイトを成長させるリピート購入の仕組みづくり

【第6回】熱狂的ファンをつくるEC店舗の運営方法

【第7回】企業がEC事業に本気で取り組んだ時に与えられる2つのもの


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