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#14 アイドルの見方が変わる?『武道館』(著:朝井リョウ)を読んだ感想

朝井リョウさんの『武道館』

過去にアイドルを応援していたことがきっかけで手に取った1冊でしたが、予想以上に面白かったです。


あらすじ

結成当時から、「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ「NEXT YOU」。
独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、
さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく。
しかし、注目が集まるにしたがって、様々な種類の視線が彼女たちに向けられるようになる。
そして、ある出来事がグループの存続さえも危うくしてしまい……。

Amazon商品紹介ページより

感想

  • アイドルの見方が変わる1冊


僕はかつて、あるアイドルを応援していたことがあります。
今の言葉で言うなら「推し」がいたってことですね。
単にテレビやYouTubeなどで見ていただけでなく、県外へライブや握手会に定期的に行ったり、色んな企画を考えたり。

そんな中で見た本作。
懐かしい気持ちだけでなく、改めてアイドルの凄さを感じたり、新たな発見がありました。


本作の視点は、主に主人公の愛子。

その愛子の心の葛藤が丁寧に描かれていると思いました。

単に歌って踊るだけじゃない。

高校卒業後の進路、アイドルとしての方向性や目標、ファンとの接し方、グループ卒業後の夢、そして恋愛など。

アイドルとしてではなく、1人の女性としての自分もいる。

表側は華やかで輝いて見えますが、裏側では選択の連続です。

さらに、売れて欲しいけど贅沢はしないで欲しい、忙しくなって欲しいけどブログも更新して欲しい、といった両立しない欲望

でも、現実のアイドルもこういった選択の連続を乗り越えて、両立しない欲望を叶えてるんですよね。

それを思うと、改めてアイドルの凄さを感じました。


女性アイドルとしての活動の様子が描かれている本作。
淡々と物語が進む…わけではもちろん?ありませんでした。

終盤に伏線がきれいに繋がります。
そして、大きく変わる展開に夢中になっていました。

印象的だったのは、選択についての碧の言葉です。
これは現実の社会にも通ずる部分があると思いました。


最近、アイドルの恋愛禁止についての議論が活発になっているのを目にします。

本作を読むと、その見方が変わるのではないかと思いました。

そういったことに喜怒哀楽を出さない僕も、あるフィルターを通してしか見ていないということに気づかされました。

僕はこれから、何かを応援することはきっとあるでしょう。

その時は、応援する人や物事の不幸な姿ではなく、幸せな姿を見たい。
それを願えるような人になろうと思いました。


朝井リョウさんの色んな物事や現象の表現の仕方が、本作を通じて改めて好きになりました。

怒ることを器の許容量や形に例えたり、自分にとっての一番がないことを自分を中心にして大きな円を描いて並んでいると例えたりなど。

心理描写も的確で、共感したり刺されたりします。

朝井さんの作品は今年になって読み始めましたが、完全にハマったかもしれません。

『武道館』は、アイドルの方やアイドルを応援している方だけでなく、そうでない方やあまり良い印象がない方にも刺さる作品ではないかと思います。
(さすがに、アイドルの方がこの記事を読むことはないかな(^^;)

印象的なフレーズ

「人って、人の幸せな姿を見たいのか、不幸を見たいのか、どっちなんだろうって」
「アイドルを応援してくれてる人って、多分、どっちもあるんだろうね」

『武道館』

「お金を払うって、自分が何を欲しがってるのか、自分が何だったら満足するのか、すげえ考えるしすげえ選ぶってことじゃん。金も払わないで、何でもある中から手に取り続けてたらさ、そりゃ、自分がどんなヤツかってわかんなくなるよ」

『武道館』

「売れてほしいからCDいっぱい買うけど、ブランド物は身に着けないでほしいとか、いっぱいいっぱい忙しくなってほしいけどブログは毎日更新してほしいとか……皆よく応えてあげてるよ、そんな勝手な要求。新人類だよ、完っ全に。私はね、両立しない欲望を叶えてしまうっていう点で、女性アイドルは、日常に現れた異物なんだと思ってる」

『武道館』

「正しい選択なんてこの世にない。たぶん、正しかった選択、しか、ないんだよ。」

『武道館』


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