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偽高級ブランドショップに訪れる珍客

珍客シリーズはマガジンでいつか纏めますが、まずは記念すべき一人目のお話です。

ショーケースの中にあるPRADAの財布を眺めている20代前半女性がいた。
すぐに接客をしてしまうと反射的にお客様は逃げてしまうので女性の視野に入らないような場所に移動して遠くから観察した。
購買意欲はありそうか、身なりから買えそうなお客様か、声を掛けて欲しそうな雰囲気はあるかなどを判断していく。

その場から離れず5分を経過したので声を掛けた。
「とりあえず手に取って感触や中身をご覧になってみて下さって結構ですよ〜」
売る気のない暇潰しを装う挨拶のようなトークで有無を言わせない。

滑稽な話だが偽物を本物として誤認させる演出として、白い手袋を私なりに美しい所作で付けショーケースから商品を取り出し、その若い女性に笑顔で手に取って頂く。そこからはお客様の時間、私はマネキンのように気配を消し商品をご覧頂くため1分は何も動かず喋り掛けたりはしない。

整った少し明るい茶髪、紺色のジャケットに胸元を隠すような白いブラウス、スカートに目をやるが特に印象的ではない。ただ違和感として靴が昼職には似つかわしくないものを履いていたので、私の店に相応しい購買客と判断し積極的な接客を開始する。

「自分用で使うにはカジュアルで良いと思いますが、プレゼント用か何かですか?」

お客様は私の目を見ながらも言い淀む。買い物に慣れていないのであろう。こういうお客様にはリラックスをして頂くことが先決なので、他の商品を手にして頂きさらに1分私はマネキンになる。

ここからがその女性の明らかに挙動がおかしいのだ。商品など心あらず状態で私のことを商品のように、舐めるような視線が全身に走ることを肌に感じた。悪寒に似た感覚と言ってもいい。

断り文句を考えているはずだ、私は自分にそう言い聞かせた。さぁ断るがいい、他にもお客様は沢山いる、あなたに固執などするつもりもない。お客様は口を開けた。

「ちょっと考えてみますね」

商品を私に返却する。そして私がそれをショーケースに戻す最中にお客様は店から足を離していく。いつもの日常だ、数日後に来たら買うのだろう。次は顔見知りのように接客を出来るように顔だけは覚えておくのが私が身に付けた仕事の流儀。

驚くことに5分後に再びその若い女性は現れた。トイレだったのだろうか、とりあえず気持ちを切り替えて完全に売りモードの接客を開始した。

「あぁ、お帰りなさい。やっぱり気になったんですね」
「もう一回見せて貰っていいですか?」

再び手袋をし、最初に手にしたPRADAの財布を取り出す。もはやお買い上げ頂くための通過儀礼だ、数分後にはレジで支払いをするイメージしか出てこない。

お客様は商品を手に取り、前屈みで他の商品にも目を配っている。複数個お買い上げ頂くパターンでよく見かける仕草だ。しかし私はすぐに異変に気付いた、白いブラウスがない。肌色なのだ、要するに上半身裸でジャケットを羽織ってるだけの状態で前屈みの姿勢もあり胸の全てが露わになっている。

19歳の無垢な私には理解し難い光景に完全に思考がシャットダウンし、再起動を開始した。何の意図だろう、それにしても胸は綺麗だが小さいな、視線は外したほうがいいのだろうか、接客を開始しなくては、何て声をかけよう、いやもう少しこのまま眺めていたい、これが露出狂ってやつか、アレって男が妄想で作り出した虚像の姿で実際にはいるはずがない。ヤクザの美人局か?どうしよう、怖いな。それにしてもエロい。

様々な思考が駆け巡る。1分?5分?私が言葉にしたのは

「閉店時間は22時なんですが、それぐらいにまた来ます?」

自分でもこんな言葉が出てくるとは思わなかった。お買い上げ頂くことなどどうでもよかった。若い女性は笑い商品を私に再び戻し、帰っていった。これで良かったのだろうか、変態を追い返したのだ、売らなくていい。でも閉店間際に来たらつまり意図としては大人の関係があるのではないか、それはそれでラッキーのような気もするがそんなことあるはずもない。露出狂はきっと露出して満足したはずだ、同じ相手に露出したところで彼女は満たされるはずもない。心配はいらない。私は平静を取り戻した。

営業時間が酷く長く感じたが、結局22時に露出狂は現れることがなく安堵した。駅ビルの従業員専用の出口を出ると、その若い女性は同じ姿で、いや今度は再び白いブラウスを着て私を待っていた。

次回 露出狂との夜

メンヘラで引きこもり生活困窮者です、生活保護を申請中です。ガスも止めてスポーツジムで最低限の筋トレとお風呂生活をしています。少しでも食費の足しにしたいのが本音です。生恥を重ねるようで情けないのですがお慰みを切にお願いします。