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#42「楽観性」とは - ポジティブ心理学 -

ここでは、ポジティブ心理学の「楽観性」について、一緒に学んでいきたいと思います。前回、前々回の記事では「楽観性」と同じ未来志向の概念である「希望」について、一緒に学んできました。

「希望」には「価値ある目標」と「発動性」、「経路」の3要素があり、各々を高めるためのアクションプランを作っていこうというお話でしたね。「楽観性」も「希望」もどちらとも未来志向で似ている概念ですが、「希望」には、目標に到達するまでの道筋を自ら考え、「そこに到達するんだ、できるんだ!」という決意やコミットメントを要しますので「なんとかなるさ」という楽観的な思考とはちょっと違いますよね。

また、「楽観性」なんですが、一般的には根拠がなくても「なんとかなるさ」と考えたり、「半分も水が入っている」と捉えたり、前向きに考えることを「楽観性」と言いますが、ポジティブ心理学の研究で扱われる「楽観性」は少し異なり、より現実に即したものになります。そして、この楽観性は習得でき、特にネガティブな出来事があって落ち込んだときに、めちゃくちゃ役立ちます。今回の記事では、まず、ポジティブ心理学の研究で扱われる「学習性楽観主義 (Learned optimism)」とは何かについて、一緒にみていきたいと思います。


落ち込むことは悪いことではない

僕たち人間は生きている限り、人生、良いこともあれば悪いこともあり、ときには何かに失敗したり、人間関係で嫌な思いをしたり、落ち込むことだってありますよね。落ち込むこと自体、決して悪いことではありませんし、むしろ、喜怒哀楽、様々な感情を感じることは心理的に豊かな人生とも呼べる生き方に繋がるかもしれません。一方、何かに失敗したり、ネガティブな出来事に直面したとき、ずーーーっと落ち込んで、どんどん塞ぎ込んじゃうのはどうにかしたいですよね。

すぐに立ち直れる人は何が違うのか?

何かに失敗したり、ネガティブな出来事がああって落ち込んだとき、ずーーーっと落ち込みっぱなしの人もいる一方、すぐに立ち直ることができる人もいます。よくメンタルが強いか弱いかと言われますが、この違いって、一体、何なんでしょうか?

その違いを調べようと、断られる確率が多い保険のセールスマンを対象に調査した心理学者がいました。マーティン・セリグマン、そう、ポジティブ心理学の提唱者です。彼は保険のセールスで断られ続けても心折れずに仕事を続けている人や成績が高い人と心折れて仕事を辞める人、成績が低い人の違いは何なのか、何の因子が関連しているのかを特定するために、それぞれの性別や学歴、IQ等を調べていきました。

失敗した後、ずっと落ち込み続ける人とすぐに立ち直る人の違いは何か?

学歴やIQではなく「楽観性」が強さの秘訣

すると、面白いことにIQや学歴などの因子が関係しているのではなく、その人の「楽観性」が高いか低いかが重要な要素であることが分かったんです。断られ続けても心折れずに仕事を続けている人や成績が高い人たちは「楽観性」が高く、失敗して落ち込んでも、そこから立ち直り、次の営業に臨むことができていたんです。面白いですよね、企業は優秀な人材を確保しようとIQや学歴を目印に採用活動を行いますが、実はそこじゃなかったという結果だったんです。(そんなこともあり、この一般的に使われる「優秀」という言葉を聞くと「えっ?何の物差しで測って?」と、噛みつきたくなっちゃいます)

そして、この「楽観性」について、よく聞いていくと「コップの水が半分」という単純な前向き思考ではなく、ネガティブな出来事が起きた原因についての説明がずーっと落ち込み続ける人と3つの側面で異なることが明らかになったんです。

「今だけ」と説明する

1つ目の側面は、そのネガティブな出来事がいつまで続くか?という「時間の長さ」についてです。すぐに立ち直れる人はネガティブな出来事に直面しても「これは一時的なものだ」と説明する傾向にありました。うまくいかず、落ち込んだとしても、「今だけだ」「ずっと続くわけじゃない」「一時的なものだ」と頭の中で説明していたんです。一方、落ち込んだ後になかなか戻ってこれない人は「これからもだ」「ずっと続くだろう」と永遠に続いていくものだと説明していました。確かに、このように説明していたら、なかなか戻ってこれませんよね。1つ目の違いは「時間」に関するものでした。

このネガティブな出来事がずっと続くと思うとしんどい

「この部分だけ」と説明する

2つ目の側面は、そのネガティブな出来事の影響がどこまで及ぶか?という「範囲の広さ」についてです。すぐに立ち直れる人は、ネガティブな出来事が起きたとき、「この部分だけ悪かったな」とネガティブな出来事の影響を限定することができていました。一方、ずっと落ち込んだままの人は「全部ダメだ」と全体に広がってしまう傾向があったのです。例えば、学校のテストで数学が悪かったとき、本来は数学だけが悪かったのに「ああ、もう私は馬鹿!」と全体に広がって説明しちゃうと、なんだか全てが嫌になっちゃいますよね。一方、「数学は悪かったけど、他の教科はできているし」と限定することができたら、気持ちも戻ってきやすいものです。すぐに立ち直ることができる楽観的な人はネガティブな出来事を限定的に説明していました。

すぐに立ち直ることができる人はネガティブな出来事を限定的に説明していた

「環境要因もある」と説明する

3つ目の側面は、そのネガティブな出来事の原因がどこにあるか?という「原因の拠り所」についてです。すぐに立ち直れる人は、ネガティブな出来事が起きたとき、「周囲の環境」にも原因があると説明していました。一方、ずっと落ち込んでしまう人は、そのネガティブな出来事が起きた原因は「自分」だと説明していたんです。これ、「問題の原因や責任は自分にある」と考えた方が、なんかいい感じしますよね。そう言った方が世間様に受け入れられそうというか。でも、何でもかんでも「全て自分が悪い」と説明してしまうと、気持ちがドンドンしんどくなってしまいます。交通事故でも10対0でどちらか一方が悪いということがないように、丁寧に現実をみてみると「100%、自分が悪い」という出来事はあまりないんじゃないかなと思います。落ち込んだところから立ち上がっていくために、「周囲や環境にも原因があるんじゃないか?」という視点を大切にしたいですね。

「全て自分が悪い」と思うと辛くなるので環境要因も確認したい

さて、ここまで3つの「楽観性」の説明スタイルをみてきました。ネガティブな出来事があって落ち込んだとき、「今だけ・ここだけ・環境要因もある」と頭の中で説明できると、気持ちも戻ってきやすくなります。ですから、何かに失敗したり、ネガティブな出来事に出くわしたとき、ぜひ、自分自身が頭の中で何を呟いているのかに気づき、この「楽観性」の説明スタイルで、その出来事を捉え直してみてください。その出来事を丁寧に見てみると、きっと、この「楽観性」の説明スタイルの方が現実を反映していることに気がつくと思います。

次回の記事では、この「楽観性」を習得するために役立つ練習方法について、一緒にみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Seligman, M. E., & Schulman, P. (1986). Explanatory style as a predictor of productivity and quitting among life insurance sales agents. Journal of Personality and Social Psychology, 50(4), 832–838.

Seligman, M. E. P. (2006). Learned optimism: How to change your mind and your life. Vintage.

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