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#21 心理的に豊かな人生とは - ポジティブ心理学 -

この記事では「Good Life(よい人生)」とは何かについて、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、多くの人が幸せな人生や意味のある人生を送りたいと思っており、そのためには、よい人間関係が重要だということを一緒にみていきました。

ここでは、幸せな人生、意味のある人生以外の「よい人生」として見過ごされていたもう1つのグッドライフ ー「心理的に豊かな人生」について、一緒に学んでいきたいと思います。


「よい人生」の二元論

ポジティブ心理学は「人生を価値あるものにするのは何か?」「グッドライフ(よい人生)とは何か?」を科学的に研究しようという試みで1998年に生まれた心理学ですが、(主に古代ギリシャ)哲学からの影響もあり、約20年間ずーっと「よい人生」とは、幸せな人生(ヘドニック・ハピネス)と意味のある人生(ユーダイモニック・ハピネス)であるという二元論で話が進んでいました。

この2つの人生が「よい人生」であり、「どうすればこのような人生が送れるのか?」「このような人生を送っている人はどのような特徴があるか?」ばかりが研究のテーマになっていたのです。

「幸せな人生」は退屈かも?

しかし、本当にグッドライフってこの2つの生き方だけなんでしょうか?例えば、「幸せな人生」って、安心安全な環境の中で快適な状態がずーっと続いていくことですが、結構、そういう単調な人生を退屈でつまらないと感じちゃう人もいますよね?それよりも、もっと色んな体験をして、喜怒哀楽、様々な感情を感じながら生きていきたいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、ある研究チームが実際に「幸せな人生」や「意味のある人生」以外の生き方に価値をおいている人がいるかどうかを調査してみたところ、やっぱり、ある一定数の人たちがこの2つの「よい人生」以外の生き方を望んでいることが明らかになったのです。そして、彼らが望んでいたグッドライフとは「心理的に豊かな人生 (Psychologically Rich Life)」と呼ばれる人生を指し、ヘドニック・ユーダイモニックの二元論で進んできたポジティブ心理学の世界が見落としていた生き方でした。

「心理的に豊かな人生」とは

心理的に豊かな人生・・・。一体、どんな人生かというと、好奇心に満ちて、目新しいこと面白そうなことに惹かれて様々な体験をしていき、その過程で、ポジティブな感情もネガティブな感情も強く感じながら、いろんな発見をしていく、人生を旅のように生きる人生を意味します。様々な経験を通して「今まではこう思っていたけど、実はこうだったんだ!」と視点が変わるような経験をしていく人生で、その気づきによって、心理的に豊かな人生を歩んでいくと知恵に富むと言われています。

また、他の2つの「よい人生」と比べてみると、例えば、人生の最期を迎えたとき、おそらく、幸せな人生を歩んできた人は「あ〜楽しかった!」と言い、意味のある人生を歩んできた人は「自分はこの社会に変化をもたらすことができた!」と言うのに対して、心理的に豊かな人生を歩んできた人は「なんてジャーニーだったんだ!(What a journey!)」と言うだろうと言われています。

それぞれのよい人生を歩んできた死に際での一言

もちろん、心理的に豊かな人生を送っている人の中でも幸せや意味を感じながら生きている人もいますが、皆さんは、この3つの人生の中で、一つしか選べないとしたら、どの人生を選びたいですか?

因みに、日本を含め、様々な国の人たちに同様の質問をしてみると、「幸せな人生や意味のある人生を送りたい」という人たちの方が圧倒的に多かったんですが、どの国でも少数派ではありますが、安心や安全な「幸せな人生」や「意味のある人生」を投げ売ってでも、多様で面白い人生を送りたいと回答した人たちがいました。彼らにとって、この「心理的に豊かな人生」こそ、「よい人生」だったのです。

ほとんどの国で約15%の人は心理的に豊かな人生を望んでいた

「心理的に豊かな人生」を送っていますか?

さて、今、皆さんはどの程度、心理的に豊かな人生を送っていますか?以下、「心理的に豊かな人生尺度」の質問です。各項目、1点(全く同意しない)から7点(非常に同意する)の7点満点で合計点を出してみてください。(項目14〜17は点数を反転して計算)合計点は17点〜119点になり、より点数が高い方が心理的に豊かという解釈になります。


  1. 私の人生はこれまで心理的に充実したものであった。

  2. 私の人生はこれまで様々な経験に満ちたものであった。

  3. 私の人生はこれまで様々な感情に満ちたものであった。

  4. 私はこれまで様々な面白い経験をしてきた。

  5. 私はこれまで様々な新しい体験をしてきた。

  6. 私の人生は平凡ではない、唯一無二な経験に満ちている。

  7. 私の人生は熱く、濃い瞬間で形成されている。

  8. 私のこれまでの人生はドラマチックであった。

  9. 旅行やコンサートなどの体験を通して、私は様々な感情を経験する。

  10. 私は人に聞かせる個人的な話をたくさん持ち合わせている。

  11. 死に際には、私は「面白い人生だった」と言うと思う。

  12. 死に際には、私は「たくさんのことを見て学んだ」と言うだろう。

  13. 自分の人生はいい小説や映画になるだろう。

  14. 私のこれまでの人生は単調だった。(点数を反転)

  15. 私は自分の人生によく退屈している。(点数を反転)

  16. これまで何事もない人生だった。(点数を反転)

  17. 最後に新しいことをした、あるいは新しい経験をしたのがいつだったか、思い出せない。(点数を反転)


いかがでしたでしょうか?この質問項目をみると、「心理的豊かさ」とは何かがより理解しやすくなったんじゃないでしょうか?

因みに、この「心理的豊かさ」を高めるための方法として、海外留学をすることが効果的であると報告されています。確かに異文化に身を置くと、様々な目新しい、面白い経験が待ち受けていますし、日本の「当たり前」が通用せずに視点が変わっちゃうような経験で満ち溢れています。もし自分は心理的に豊かな人生こそが「よい人生」であると思われる方は、ぜひ、ご自身がいつもいる世界とは異なる世界にちょっぴり踏み込んでみることをお勧めします!

ここでは、幸せな人生と意味のある人生以外のグッドライフである心理的に豊かな人生を一緒に学んできました。まだまだ研究の数はその他2つの「よい人生」と比較して少ないんですが、個人的にこの生き方、すごく共感していて、これからも探究していきたいグッドライフの在り方です。

余談ですが、僕は昔から画家の岡本太郎さんが大好きなんですけど、岡本太郎さんはよく「私は幸せ反対主義者だ!」「無目的的に生きろ!」と仰っていました。これ、「幸せな人生」と「意味のある人生」、両方蹴飛ばしちゃってますよね。今、この瞬間に全てを賭けながら生きる彼にとっての「よい人生」とは、まさしく、この「心理的に豊かな人生」を指していたのかもしれません。

さて、ここまで「Good Life(よい人生)とは何か?」について、ポジティブ心理学の世界で語られている3つの生き方について、一緒にみてきました。どれが正しい人生観というものはありませんので、ぜひご自身がしっくりくるものを大切にしていただけたらと思います!次回の記事では「仕事観」についてもみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Oishi, S., Choi, H., Buttrick, N., Heintzelman, S. J., Kushlev, K., Westgate, E. C., Tucker, J., Ebersole, C. R., Axt, J., Gilbert, E., Ng, B. W., & Besser, L. L. (2019). The psychologically rich life questionnaire. Journal of Research in Personality, 81, 257–270.

Oishi, S., Choi, H., Liu, A., & Kurtz, J. (2021). Experiences associated with psychological richness. European Journal of Personality, 35(5), 754-770.

Oishi, S., & Westgate, E. C. (2022). A psychologically rich life: Beyond happiness and meaning. Psychological Review, 129(4), 790–811.

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