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#22 仕事観とモチベーション - ポジティブ心理学 -

この記事では、「仕事観によるモチベーションの違い」について、一緒に学んでいきたいと思います。前回までの記事で「Good Life(よい人生)」には、幸せな人生、意味のある人生、心理的に豊かな人生の3つがあるということをみてきました。

「どの生き方が正しいのか?」ではなく、自分の人生観を大切に、しっくりくる生き方を歩んでいくことが重要であるというお話でした。

さて、ここまで3つの人生観をみてきましたが、今回はポジティブ心理学の研究で明らかになっている「3つの仕事観」についても、一緒に学んでいきたいと思います。この3つの仕事観によって働く人のモチベーションが異ってきます。自分自身の、そして周りで働く人たちの仕事観を理解することで原動力の源を理解していきましょう。


「仕事」をどう捉えているか?

ところで皆さんは「 “仕事” って何ですか?」と聞かれたら、なんと答えますか?

「どんな仕事をしているのか?」についてはよく聞かれることがあると思いますが、そもそも「仕事とは何か?」を聞かれることってめったにないですよね。一方、めったにないからといって、考える必要がないのかといったらそうではなく、自分自身や他者が「仕事をどう捉えているか?」を認識しておくことは結構、役に立つことがあります。なぜなら、その仕事観によって働く人のモチベーションが異なってくるからです。

ある研究チームは「働いている人たちって、自分の仕事をどのように捉えて働いているんだろう?」ということに興味を持ち、お医者さんから掃除のおばちゃんまで、様々な社会的地位の色んな職業の人たちに仕事観を伺っていきました。その結果、大きく分けて3つの仕事観があることが明らかになったんです。一つ一つみていきましょう。

わたしの仕事は「労働」である

まず1つ目は、仕事を「労働」と捉える見方です。労働、つまり、自分の時間や労力を費やす代わりに対価をもらうという形で仕事を捉えている仕事観です。仕事を「労働」と捉えている人の場合、モチベーションとなるのは、やはり対価となる「給与」であり、賞与や福利厚生などの待遇の良さがモチベーションに関連します。

仕事を「労働」だと捉えるとモチベーションは「給与」になる

仕事そのものの喜びよりも、給与などの外発的なモチベーションが大きく、例えば、家族のために仕事をする。趣味を充実させるために高給の仕事を選ぶ。奨学金を返すためにできる仕事をするといったように、仕事とプライベートを分けて、プライベートの充実や改善のために仕事をしているというイメージです。趣味のサーフィンがとても充実しているため、そのために仕事も頑張るという人もいますし、本当は仕事したくないけど、推し活のために頑張ってやっているという人もいます。日々の糧のために、趣味の充実のために仕事を頑張る、素敵な仕事観だと思います。

皆さんはいかがでしょうか?ご家庭も含めて、プライベートの改善や充実のために「給与」や「賞与」がどれくらいモチベーションになっていますか?

わたしの仕事は「キャリア」である

2つ目の仕事観は、仕事を「キャリア」として捉える見方です。階段を上っていくイメージでしょうか、あるステージから次のステージへと上がっていくことを良しとし、「成功」を追いかけることが仕事であるという見方です。仕事を「キャリア」と捉えている人の場合、そのモチベーションは勿論、「昇進」になります。

仕事を「キャリア」だと捉えるとモチベーションは「昇進」になる

例えば、組織の中でチームリーダーから課長、部長、役員と階級が上がることがモチベーションになったり、ある会社で現場の経験を積んで、転職して、全体を見るマネジメント力を身につけ、その後、独立して起業するなど、1つの組織の中で完結せずにキャリアを積み上げていくことにモチベーションを感じる人もいます。自分自身の社会的な影響力が増していくことに喜びを感じる仕事観とも言えるかもしれません。自分の能力を最大限に高め、影響力を発揮していくこの仕事観も素敵な仕事観だと思います。

皆さんはいかがでしょうか?キャリアアップや昇進が仕事をする上での原動力にどれくらいなっていますか?

わたしの仕事は「天職」である

最後の3つ目は、仕事を「天職」と捉える見方です。天職、英語では "calling" と言われてますが、天の神さまや仏さまに「呼ばれている」という感覚でしょうか。その仕事をすること自体に喜びを感じ、仕事が自己表現の場になっている、つまり、自分自身の好きや才能、強みを十分に発揮にできるようなとき、人は自分の仕事を「天職」だと捉えます。そして、自分の仕事を「天職」だと捉えている場合、そのモチベーションは「貢献」になります。自分を表現することで、チームや組織、社会など自分よりもより大きな存在のために役立ちたい、貢献したいという想いをもっています。

仕事を「天職」だと捉えるとモチベーションは「貢献」になる

例えば、昔から色んな初対面の人と関わるのが好きな人は、自分のネットワークの中でお互い知らない人同士を繋げるようなことをしているときに、自分の仕事を「天職」だと捉えて、もっと貢献したいという想いが募ってくるかもしれまません。もしくは、教えることが上手な人は、誰かに何かを教えることで、社会の役に立ちたいという想いが原動力になっているかもしれません。自分の中にある「バケツ」の中に水がいっぱい溜まって、それが溢れ出ているイメージでしょうか。その溢れ出た水によって他の人にも分け与えているような感覚で仕事をしている人が、自分の仕事を「天職」だと感じているような人たちです。

皆さんはいかがでしょうか?仕事を自己表現の場として、それによって役に立ちたい、貢献したいという想いがどれくらいありますか?

職業では「仕事観」はわからない

ここまで3つの仕事観をみてきましたが、この研究で面白いのは、この3つの仕事観は職業によって決まらないというところなんです。社会的地位に関わらず、どんな職業でも、これら3つの仕事観をもっている人がいます。例えば、病院の中で最も地位が高いようにみえるお医者さんの中でも、自分の仕事を「労働」として給与のために働いている人もいれば、「キャリア」として社会的地位を高めるために働いている人もいますよね。勿論、「天職」として患者さんの苦痛を和らげることに貢献感を感じながら働いている人もいます。逆に、同じ病院の中で働いている清掃員の方でも、「労働」として働いている人もいれば、次に繋げようと「キャリア」として捉えて働いている人もいます。「病院の衛生を守っているんだ」という貢献感を持ちながら「天職」として働いている人もいます。このように、「この職業に就いているから、この仕事観をもっている」って言えないところが個人的には面白いなって思います。どんな職業に就こうが、自分の「仕事観」によって原動力が変わってくるのであれば、やっぱり、自分や周りの人の「仕事観」をしっかり理解しておくことって大切ですよね。

「仕事観」はどれか1つだけではない

一方、お気づきの方もいらっしゃると思うんですが、この「仕事観」は「どれか1つだけ」ではないということも触れておきたい点です。自分の仕事を「天職」だと捉えている人でも、できれば給与は高い方がいいと思っている人も勿論いらっしゃいますし、仕事を「キャリア」と捉えている人の中でも、「貢献したい」という気持ちを持っている人もいますよね。これらの「仕事観」はどれか1つではなく、「自分の中にそれぞれある」と思っていた方がより適切かもしれません。

コアの「仕事観」を共有し合う

とはいえ、自分や周りの働く人たちのコアとなる「仕事観」を理解していると、自分や他の人が「何によって力が湧いてくるのか」が明確になっていきます。この動機の理解は、特に部下を育てる立場にいる人にとって、とても大切になってきます。例えば、「天職」の仕事観をもつ部下にとって、いくら「これを達成したら賞与が出るから」「昇進できるから」と上司から檄を飛ばされても、何も心に響いてきません。それよりも、「君にはこういう力があるから、それを活かして、こういうことやったら、もっと周りの人が喜んでくれるよ」といったような声がけの方がモチベーション、高まりそうですよね。このように、一人ひとり、この「仕事観」が異なるため、自分や周りの人の仕事観を認識していないと効果的な動機付けができない場合があります。前回の記事の人生観とも同様で、この3つの仕事観もどれが正しいというものではありませんので、ぜひ、お互いの仕事観を共有してみることをぜひお勧めします!

さて、ここまで「3つの仕事観」と各々のモチベーションについて、一緒にみてきました。次回の記事では、自分の仕事を「天職」だと捉えている人たちがどんなことをやっているのかについて、一緒にみていきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Wrzesniewski, A., and Dutton, J. E. (2001). Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work. Academy of Management Review, 25, 179-201.

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