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呪術廻戦 七海の「労働はクソ」を紐解く

『Bullshit Jobs - A Theory』経済人類学者、デヴィッド・グレーバー氏の著書だ。氏は、数年前、まだ若くしてお亡くなりに。

ブルシットは、ふざけてる・ありえない・でたらめ、そういったニュアンスの言葉だ。では、ブルシットな仕事とは、どんな仕事なのか。著者は、何を伝えたかったのか。

最後まで読みたいと思ってもらえるように、小ネタを先出ししておく。

考察好きの人は、知っているかもしれないが。『呪術廻戦』の七海建人(ななみん)が、呪術師に復職するエピソードは、この話をもとに描かれたのではないかと言われている。もとにしたかどうかはわからないが、同じような話である。

気になった人は続きをどうぞ。


・英国人の37%が、自分の仕事は世の中に貢献していないと、アンケートに回答。

・オランダ人の40%が、自分の仕事を無駄だと感じていると、判明。

・米国で、自分はくだらない仕事をしていると答えた人の内18%が、その仕事に満足しているとも答えた。(別に何でもいいやと)


消滅したら、本当に社会が大変なことになるーーそんな仕事をしている人たちが、大勢いる。そういう人たちが、高い給料をもらえていない。それどころか、最も低い給料だったりもする。

グレーバー氏は、まず、このような仕事のことをシット・ジョブと呼んだ。

それから、「でたらめな仕事」「でたらめに高給な仕事」「でたらめででたらめに高給な仕事」をブルシット・ジョブと呼び、批判した。


グレーバー氏は、ブルシット・ジョブをこのように定義した。

「無駄で不必要な仕事。それなのに、重要な仕事であるかのように誤魔化されている仕事」
※誤魔化しているのは、その仕事をしている当事者たちも。

氏は、ブルシット・ジョブ(以下、BSJとする)を5種類に分類した。

①フランキー(取り巻き)
誰かが重要視されるために存在する仕事
例:ドアマン、受付係
ドアは誰でも開けれるが、自分の代わりに人にやらせると、良い気分になれる。自分への電話を誰かに代わりに取らせると、重要な存在のように見せれる。

②グーン(脅し屋)
他もやっているから存在する仕事
例:広報、マーケティング
求められていない商品やサービスを、どうにか売れるように促している。企業はマーケティングをする。なぜか。競合他社がマーケティングをするからだ。

③ダクトテーパー(尻ぬぐい)
自動化できるのにしていなくて存在する仕事
例:カスタマーサービス
自動化すれば済むだけでなく、そもそも、商品やサービスに欠落があるため、謝罪する必要が生まれているだけ。

④ボックスティッカー(書類穴埋め人)
まだ書類があって存在する仕事
例:事務職
政府の給付金で、保険業界の保険金支払いで、紙の申請書がいまだにあるからだ。企業が、チャリティー精神を世間へ見せようと、多くの進捗報告書を作ったりするからだ。うちはチャリティーやってますよ〜と。

⑤タスクマスター(管理者)
無駄なことをするから存在する仕事
例:プロジェクトマネージャー、コンサルタント、コーチ、中間管理職 ※多くの職種がこのカテゴリーに属する
監督者が仕事を割り当てるが、実際は、いなくても配分などできる。仕事の進捗を監督できるように、無意味な仕事をわざと作りもする。


どうだろうか。この本の中で、紹介しようか迷う箇所だったが、要約を書いてみた。誰かを傷つけないといいのだけれど……

実は、この本の内容には、批判的な感想も多く見られる。だが、批判の声をあげている人たちもそれぞれ、自分の考えを深く・細かく述べており、素晴らしい議論だと思う。

著者が故人なのが残念だ。


人はそもそも、仕事をすることに責任をもつのであって、「会社で8時間働くこと」に責任をもつのではないだろう。

ジョン・メイナード・ケインズ氏はかつて、「世紀末までに労働時間は15時間短縮される」と予想したが、そうなっていない。

我々は、仕事の内容や種類をでたらめに、増やしてきてしまったのだろうか。

アメリカを例に見ると、(この説が定義するところの)BSJは、増え続けている。管理職や事務職は、昔と比べ3倍以上に。一方、工業や農業で働く人は、激減した。

AIが仕事を奪う?AIではなくとも、“それ” は、すでに起こっていることなのかもしれないと。

機械化や自動化の結果、雇用が減った。→ 無職になった人たちを違う仕事につかせるために、BSJが生み出された。昔はなかった仕事が、今はあるのは、必要になったからばかりではないと。


個人的には、米国の大企業が、仕事の効率化に成功した末、従業員を大量解雇する例などを良いことだとは思っていない。少なくとも現状。で?じゃあどうするの?という気持ちから。

オバマ元大統領の、こんな言葉が残っている。

「一人親方の医療を支持する人などは、保険や事務の手続きから節約できるこの莫大な金額を見よ、と言う。しかし、Blue Cross Blue Shield や Kaiser で働いている人たちが、100万・200万・300万と存在することに対しては、どう考えているのか。節約(解雇)して、その人たちをどうしたらいいと?」(2006年)


『呪術廻戦』の七海は、これらの社会問題のことを言っていた。

ななみんは(一般企業に)転職したが、BSJに嫌気がさして、呪術界に復職した。

呪術師の仕事を「同様にクソ」と言いはしたが、実際の彼の行動を見れば、わかる。七海は、文字通り、命をかけて働いた。命をかけるほど、やりがいや目的のある仕事だった。

彼にとって、この仕事は、SJだとしてもBSJではなかったのだ。


「呪術師はクソだ。他人のために命を投げ出す覚悟を、時として仲間に強要しなければならない。だから辞めた……というより逃げた」

「私の仕事は、お金持ちからお金を預かって、その人をよりお金持ちにする。大体そんな感じです。正直、私がいなくても誰も困りません。パン屋がないとパンが食べたい人が困ります。でもなぜか、そういう人間のサイクルを外れた私のような仕事の方が、金払いが良かったりする。冷静に考えると、おかしな話ですよね」

「生きがいなどというものとは、無縁の人間だと思っていた」

「それ(感謝)はもう大勢の方にいただきました。悔いはない」


夏油傑の精神を襲ったのは、一言でいうならば、【 目的の喪失 】だった。闇堕ちした夏油と、闇堕ちしなかった七海との違いだ。

次に機会があれば、夏油と九十九の話を書こうと思う。


参考文献
Graeber, D., 2018, Bullshit Jobs – A Theory, London: Simon & Schuster