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カミュ「異邦人」を読んで

 この世の理不尽が詰まっている、などと評される一冊です。
 
 徹底してドライな文体に、主人公の思考。これでもかというほど人生の無意味性を突きつけられ、その理不尽さを感じました。

 肥えて満足そうな人、その隣で痩せ細り不幸そうな人、日頃から飼い主に虐待をされている犬、そしてそれがいなくなった途端に右往左往する飼い主……。普段私たちが見る、ありありとした現実が、そこには描かれているように思えました。

 ちょっとした過剰防衛で殺人をおかしてしまう主人公は、裁判の際に母の葬儀で泣かなかったこと、葬儀の翌日に喜劇を見ていたことなど、おおよそ殺人とは関係がないことで責められ、最終的にはそのことで死刑を宣告されてしまいます。
 
 裁判や死刑とまではいかなくても、こういった事態は21世紀の私たちの生活にも常に見られます。感情に流され理性を見失った人たち、そして登場する司祭のように自分の信仰するもの(私たちに馴染み深い言葉で言うならば信念や考え)以外を認めずに、迎合しない人間を断罪せんという人たちなどなど。しかしここでは、それが良いこととも悪いこととも描写されないのです。
 
「人生は生きるに値しない、ということは、誰でもが知っている。結局のところ、三十歳で死のうが、七十歳で死のうが、大した違いはない(本文より)」
 という一節に、この本の内容が凝縮されているようにも思われます。
 
 主人公と同じように、そして私のように、無宗教者であれば人生に生きる意味—それは「なぜ生まれてきたのか?」という問いに答えられる限りにおいての意味—がないという直感を抱くのではないかと思います。

 生まれてきて、死ぬ。何事もなかったかのように死ぬ。そして忘れ去られる。そこに意味などないのだから、その中の出来事、この小説の中で言えば母の葬儀にも、マリイの愛にも、レイモンドの友情にも、そして小説を飛び越えた私たちの人生の中の、どんなドラマチックな物語に関しても全く意味がなく、一切が過ぎ去るだけということに、思いを馳せてしまいます。
 
 しかし、最初の感想と矛盾するように思われるかもしれませんが、その徹底した無神論とニヒリズムに、ある種の清々しさのようなものまで感じてしまう自分がいます。
 
 あなたは異邦人を読んで、何を感じましたか?
 
 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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